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「もうすぐ街が消えるかも」…11年間雨降らず、砂漠にのみ込まれる世界遺産

2022年08月28日 15時44分38秒 | ウイルス

「もうすぐ街が消えるかも」…11年間雨降らず、砂漠にのみ込まれる世界遺産

 
あちこちで石造りの家が砂に埋まっていた。モーリタニア中部シンゲッティ。1000年以上前から交易拠点として発展し、世界文化遺産に登録される古都が、砂漠にのみ込まれようとしている。

温暖化、欧米排出のツケ

砂漠が拡大を続け、砂に埋まった家(7月31日、モーリタニア中部シンゲッティで)
砂漠が拡大を続け、砂に埋まった家(7月31日、モーリタニア中部シンゲッティで)

 「もうすぐ街は消えるかもしれない」。旧市街のはずれにある自宅の壁を補修していたサレム・ユマさん(49)が漏らした。横では、2メートル以上積もった砂を親戚の若者がかき出していた。

 周辺地域を含む人口は約5000人。10年ほどで半分以下になった。大きな要因は砂漠の拡大だ。今年6月までの11年間、雨は降らなかった。ナツメヤシの植樹などによる対策も追いつかず、住民は次々と家を捨てて街を離れた。

 アフリカ北部のサハラ砂漠はこの100年で10%広がった。木々の過剰伐採に加え、気候変動が要因の一つとされる。

 シンゲッティでも砂の勢いは年々増している。ユマさんは不安を募らせる。「生まれ故郷だから住み続けたい。でも、砂との闘いに勝てるだろうか」

緑の壁

 モーリタニア南部ロッソ郊外では、乾燥に強く、砂地でも育つ木の苗木が10ヘクタールにわたり植えられていた。

 農家のベケイ・ムハンマドさん(45)は「砂地がどんどん村に迫っていた。もっと木が増えて、早く安心できるようになれば」と話す。

 サハラ砂漠の拡大を食い止めるため、モーリタニアを含む計11か国は2007年から、植樹などで約8000キロ・メートルにわたって「巨大な緑の壁」を築く事業を始め、30年までに1億ヘクタールの植生回復を目指す。

 アフリカの二酸化炭素(CO2)排出量は、世界全体の4%程度にすぎない。だが、干ばつや洪水などの影響は甚大だ。アジアや欧米が排出するCO2のツケを支払わされている形だ。

 世界銀行の21年の報告書によると、気候変動により、50年までに世界で2億1600万人が国内移住を強いられる恐れがある。アフリカは1億500万人とほぼ半数を占める。難民の増加や新たな紛争の引き金となることも懸念される。

 異常気象による被害も相次ぐ。気候変動との因果関係は不明だが、南スーダンで記録的な洪水が発生。アンゴラは大干ばつで、150万人以上が食料危機に直面する。

 ただ、主要な対策の一つとされる「巨大な緑の壁」事業の 進捗しんちょく は全体の約20%にとどまる。資金難や管理態勢の不備などが原因だ。モーリタニア環境省で気候変動を担当するアリユン・フォール調整官は「国際社会の一層の支えが必要」と話す。

海面上昇

 脅威は海からも迫る。

 今年11月、国連気候変動枠組み条約の締約国会議が開かれるエジプトでは、年々強まる高波への対策に懸命だ。水資源・ 灌漑かんがい 省によると、地中海側では90年代初めに年1・8ミリ・メートルだった海面上昇が、ここ10年で年3・2ミリ・メートルになった。2100年には、神奈川県よりやや広い2660平方キロ・メートルの低地が浸水し、570万人に被害を及ぼすとの予測がある。

 北部アレクサンドリアでは、海沿いの店舗が浸水する被害も出ており、観光名所の 要塞ようさい カーイト・ベイ周辺などで防壁設置が進む。

 気候変動問題に詳しいカイロ大のアッバス・シャラキ教授は語る。「重要なのは世界の大国が主導して化石燃料の使用をもっと減らし、温暖化を止めることだ」

(シンゲッティ 田尾茂樹、写真も)

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