外壁の白壁に、おやおやまあ、青蛙がぺったり。くっついている。しかもだ、後ろ足を左右不均衡にしていまにも飛びかかりそうな姿勢をなしている。ふうううん、きみはこれから何をしようてんだ? 僕は審問を発した。彼曰く、いまに面白いことが始まるぞ、だって。何が始まるのだろう、さて。僕は興味津々になった。彼はもしかしたらマジシャンなのかも知れない。いやいやそれ以上かも知れない。それ以上って? そうさね、彼はヒマラヤの山中で長いことユガ行の修行をしてきた行者かもしれない。だったら、彼は変身術が身についているはずだ。形に拘らなくてもいい、そういう段階に達しているのかも知れない。などと僕は僕で想像をたくましくした。待った。ぬ。彼の前に一匹の蚊がやって来た。これを彼はその後ろ足を利用してパクリと呑み込んでしまった。彼曰く。「これで彼は成仏した。わたしは彼に慈悲を施したのだ」そうだったのか、蚊の形、つまり肉体を消滅させることがすなわち成仏の手伝いになったということだったんだ。肉体に執着をしない。蚊もまたこれを実践したのだ。