夕顔には/夕顔を/咲かしめる/正しい法が/ある/
人間には/人間を/あらしめる/正しい法が/ある/
正しい法が/夕顔になって/咲いている/それを/思う/
正しい法が/人間になって/動き出している/それを/思う/
それを/思って/しみじみとして/いる/
あたたかく/明るい/気持ちに/なっている/
夕顔には/夕顔を/咲かしめる/正しい法が/ある/
人間には/人間を/あらしめる/正しい法が/ある/
正しい法が/夕顔になって/咲いている/それを/思う/
正しい法が/人間になって/動き出している/それを/思う/
それを/思って/しみじみとして/いる/
あたたかく/明るい/気持ちに/なっている/
この男は/かって/この男の/父に/愛された/者である/
この男は/この男の/母に/愛された/者である/
誰にでもある/それだけの/事が/今夜/この男を/涙ぐませた/
この男の/父も/母も/とうに/この男の/前から/姿を消していたが/
かって/愛されたことがあるということが/その素朴な追憶が/
それだけの/単純な過去が/
夕闇に/座す/この男の/全身を/激しく/揺さぶった/
老いた/病気の/父の/足を/さする/
父は/さっきから/目を閉じて/微かな/寝息を/たてている/
もしや/この方は/ただわたしの為に/
わざわざ/仏の/浄土から/下りてこられた/方では/なかったのか/
わたしを/守って/導いて/育て上げる為に/
醜い/人間の形を/とられた/仏では/なかったのか/
髭の生えた/父の/足を/さする/皺になった/足の裏を/さする/
両手で/心を/込めて/さする/
ついぞ/触れることの/なかった/仏の/み足を/
わたしの/両手で/さする/
わたしの方が/間違いであった/春の/明るい/草に座れば/それが分かる/
美しい/ときを/生かされながら/わたし一人の/地獄に/耽って/鬱勃と/暮らしていた/
万緑の/春の/空を/仰いでいると/それが/静かに/恥じられてくる/
嬉しいではないか/宇宙が/そのまま/いのちだっていうのは/
わたしと/同じように/呼吸する/いのちだっていうのは/
初めから/終わりまで/ずっと/途切れることなく/宇宙が/いのちの宇宙だっていうのは/
活動をして止まぬ/宇宙だっていうのは/
わたしを/生かそうとして/活動をしている/宇宙だっていうのは/
嬉しいではないか/わたしの/いのちも/そのまま/寸分違わず/
宇宙の/いのちだっていうのは/
こころの/掃除をする/
せっせ/せっせ/せっせ/せっせ/こころの/掃除をする/
どうやって/するのだ/
床を/雑巾で/拭く/
これで/こころの/掃除が/できる
拭き取った/雑巾の/よごれは/わたしの/こころの/よごれだ/
せっせ/せっせ/せっせ/せっせ/
汗が噴き出てくる/
万物が/仏さまと/ふたりで/いるのだ/
春の菜の花畑に/わたしが/ひとりでいるときも/
ふたりで/いるのだ/
たがいは/こうして/
たがいを/見つめ合っているのだ/
わたしには悪の沼があったのに/木にはその沼がなかった/悪の沼をしたわたしが/かたらわに立っても/木は/やっぱり/若葉を茂らせて/わたしの沼に/静かな/みどりの/影を落とした/
よろこぶだけでいいのだよ/そうしているだけで/ほとけを生きていることに/なるのだよ/
よろこぶだけでいいのだよ/ほとけの願いに生きていることを/よろこんでいるだけでいいのだよ/
よろこぶだけでいいのだよ/一から十/そうせしめられている自分を/よろこんでいるだけでいいのだよ/
生まれてから死ぬまでの間を/ぜんぶ/何から何まで/そっくり/よろこびに費やしていいのだよ/
次々に/自然に/生まれてくるよろこびを/そっと手に掬うように/よろこぶだけでいいのだよ/
これが/ほとけとの約束を/かたいかたい約束を/守ったことに/なるのだから/そうなるのだから/
「風の匂い」
ここへは/そんなことをするために/来たのではないのです/そんなことは/しないでもいいのです/
しないでいいことを/どれだけしていることか/しないでいいことは/しないでおいて/するべき少しのことを/大切にしていればいい/
ここへは/季節季節の/風の匂いを/ききに来たのだ/うっとりと/風の匂いを/ききに来たのだ/
若葉の柿の木は/こういうふうに合点して/初夏の/あまい風の匂いを/きくことに/その日の/大方のときを過ごした/
その間/雲は/体を羊のように白くして/八天山のあたりを往ったり来たりした/
詩集「まばゆいばかりの光を浴びて」より