映画の話でコーヒーブレイク

映画の話を中心に、TVドラマや旅行の話などを綴ります

生きる

2008-07-20 | 映画 あ行
リメイクが相次ぎ、NHK-BSでも放映され黒澤作品に再び注目が集まっている今日この頃、
個人的には「王様と私」→「荒野の7人」→「七人の侍」という連想ゲームのような流れで
黒澤作品の面白さにたどり着き、じわじわっとマイブームになりつつあります。

「最高の人生の見つけ方」でアメリカ的「余命数ヶ月と宣告されたらどうするか」を見たので、
同じテーマの黒澤作品「生きる」も鑑賞

黒澤作品第二弾は「生きる」。

     *************

          生 き る  1952

     *************


アメリカと日本の違いということのみならず、56年の時間的ギャップがあるので、
単純に比較することは出来ません。

しか~し、画像が白黒で不鮮明ではありますが、
CGやハイビジョンなんぞに慣れた今見ても、
古さを感じないし、白黒が効果的ですらあり、
テーマが余命3ヶ月というのに不謹慎かもしれませんが、すごく面白いのです。

            

< ストーリー >
市役所の市民課課長、佐藤勘治は勤続30年無欠勤を目前に体調不良のため病院へ行く。
医者は胃潰瘍と言うも、症状から胃癌とさとる。
妻を早くに亡くし男手一つで育て上げた息子光男はの成長のみを楽しみにしてきたが、
結婚した息子は父親の退職金と預金をあてに洋風の生活を夢見て、父の異変にも気付かない。
絶望のあと、自分の人生を振り返り「一体今まで何をしてきたのか…」と深い後悔にさいなまれる。
そんな時の若い女性職員小田切とよの元気に生きる姿に触発され、
残りの日々を自分が属する官僚体制と戦いながら、公園造りに賭け「生きる」意味を取り戻す。



脚本はトルストイの短編「イワン・イリイチの死」を下敷きに書かれたそうですが、
何かをすることで余命を充実したものにするという「最高の・・・」や「生きる」の結末とは違うようです。

黒澤監督はロシア文学がお好きなのでしょう、
ドストエフスキーの「白痴」やゴーリキーの「どん底」を下敷きにした映画も作っておられます。

最近、新訳のロシア純文学がちょっとしたブームで、本の売れ行きが好調だそうです。
昔「罪と罰」上下2巻で力尽きた私ですが、この夏、黒澤作品を見てから読んでみるのも一興かと。
そういえば「見てから読むか?読んでから見るか?」なんて角川の宣伝コピーありましたっけ?


「生きるとは」という永遠のテーマと共に、痛烈な官僚主義批判をからめ、実に見ごたえある映画です。
半世紀以上前にこんなに真向から官僚批判をして大丈夫だったんでしょうか?
それよりもっと驚くのは、
戦後直ぐ、
いえ、主人公は勤続30年ってことは昭和初期で既に官僚はこんなにひどい状態だったのか…
ってことです。
監督はこれでもかとばかりに登場人物に、ナレーションに、と批判の言葉と皮肉を言わせます。

織田裕二主演の「県庁の星」で随分と公務員を皮肉ったドラマだなぁと喝采、
「前向きに善処いたします」=「何もしない」というお役所言葉だなんて学習したけれど、
黒澤はもっともっと辛辣です。

最初の10分ほどでこんな感じ。
・陳情に来たおかみさん達をのらりくらりとたらい回し、挙句振り出しの課に戻る。
 (おかしくって笑っちゃいます)
・主人公は役所生活で死んだも同然、死骸である。
・役所では地位を守るためには何もしないのが一番いい。
・休暇を取らないのは、いなくても誰も困らないというのがわかると困るから。


主人公は息子だけを生きがいに、役所と家を往復し、
30年ただただ死んだも同然のような単調な生活をつづけてきた。
課長席の後ろには紐で結わえた資料が山積み。
英語でお役所仕事は'red tape’英国で公文書を赤い紐で結んだことからきています。

無欠勤30年を目前に、体調不良の為病院へ。
最近でこそ告知もあるでしょうが、当時はやはり余命宣告なんてありえなかったのでしょう。
余命半年というのは医者から言われたわけでなく、待合室で胃癌に詳しいお喋りな患者から、
癌になったらこういう経過をたどるんだと聞き、自分の症状と合致することに愕然とする。
医者は患者のいない所で「あの患者は後どれくらい?」なんて残酷な会話を交わしている。
役所の職員たちも、体調が悪そうと知るや、後釜人事の話に花が咲く。

    

死期を悟った後にまずくるのは茫然自失、そして絶望、いっそ自殺をと思うも死にきれない。
息子や兄弟に伝えようとするも、彼の体調不良に全く気付いていない彼らに、
女性がらみかと変に勘ぐられる始末。
遊ぶこともなく真面目一筋だった自分の人生は何だったのか?と振り返る。
身内でなく、居酒屋で出合った見ず知らずの作家に胃癌であることを明かす。
作家曰く、
「不幸には立派な一面がある。不幸は人間に真理を教える」
「余命宣告が人生に対する目を開かせた」
「死に直面して初めて生命がどんなに美しいものかを知る」と言い、
「無駄に使った人生を取り戻しに行こう」と遊びを教わるも、騒ぐほどに気分は落ち込む。

ここに登場するのが役所を辞める決心をした若い職員小田切とよ。
小田切みきさん演じるとよは、生命力に溢れ弾けんばかりの笑顔と溌剌とした若さを振り撒く。
何とキュート!これほど爽やかな若さを放出している女優さんって今、いないよなぁ~。
あの笑顔には、主人公ならずとも魅かれます。
記憶の中にある小田切みきさんは、チャコちゃん(四方晴美)のお母さんだったのに・・・
お若い方にはわかりませんねぇ

役所を辞める理由が傑作です。
「(役所は)退屈で死にそうよ」
「新しいことは何も起こらない。一年半でもう限度よ」
「あんなとこ(役所)に30年、考えただけで死にそう」
「1時間で出来る仕事を1日かけてするんだもん」
彼女はあだ名付けの名人です。何と機知に富んだネーミング!
市民課職員に、
「人絹の鯉のぼり」・・・ぺらぺらで口先ばかりで中身は空っぽ。お高く留まってる。
「食堂の定食」・・・毎日変わりばえしない
「糸こんにゃく」「どぶ板」「ハエ取り紙」「なまこ」などなど、めっちゃうまい!
何と、主人公のあだ名は「ミイラ」、面と向かって言っちゃうんだもんなぁ~。
過去30年、肉体的には生きているけれど、精神的には死んだも同然。きっついなぁ。

生きるエネルギーに溢れた彼女に惹かれ、ふれあう中で、
死ぬ前に何かをしたいという気持ちがこみ上げてくる。
だが「何をしたいのかわからない」という言葉に、
「課長さんも何か作ってみたら?」と言うとよ。
その一言で「わしにも、役所ででも、できることがある」と何かを思いついた主人公。
バックに流れるハッピーバースデイの音楽


いよいよと行動開始と思いきや、さにあらず。一転、場面は主人公のお通夜へ。
本編の三分の一はお通夜の場面。
普通なら、人が変わったように東奔西走、ついには役所の面々を動かし、
公園を作った主人公で、ジ・エンドとなるところ。

ところが、
ここからは「何故突然人が変わったように公園作りに情熱を傾けたのか?」
という主人公の行動の謎解き形式を取りながら、
余命を精一杯生きた姿と、
対照的に生きているが死んだも同然という役所の実態をあぶりだす。

お通夜の席で遺影を前に、家族、職場の上司・同僚の謎解きが始まる。
そして少しずつ明らかになっていく主人公をめぐる事実。

映画の冒頭たらい回しにされた陳情を取り上げ、下水工事と公園作りに残る日々を捧げた主人公。
地域住民にも慕われ、仕事を成し遂げた直後の雪の降る日、
ブランコの乗って「ゴンドラの歌」を歌いながら亡くなったことが明らかに。
命短し、恋せよ乙女。赤き唇、褪せぬ間に。

      

主人公の努力のよって出来た公園事業を、自分の手柄だという助役。
ごもっともと言い、主人公の遺影の前で助役にゴマをする面々。
皆さんお酒が入って、意気軒昂。
余命いくばくも無いといわれたら、僕だって佐藤さんみたいに出来ると啖呵を切る。
最後には、今からだってお役所仕事を変えることが出来る、やるぞーと威勢がいい。

残念ながら、当然のこと(なのがまことに残念)かもしれないけれど、
翌日しらふになったら少々の罪悪感を抱きつつ、み~んな知らんぷり。何も変わらず。
やっぱり役所は役所でありました。

戦後の50年代からどげんかしときゃあ、もうちょっとなんとかなったかも?
黒澤監督も何とかならんのか?!という腹立たしいお気持ちだったのではないでしょうか?

でも、少なくとも主人公の佐藤さんは短い時間ではあったけれど精一杯生き、
ブランコを漕ぎながら充実した日々に満足されたであろうことが救いになっておりました。

洋の東西を問わず、残された時間はあと少しと言われて初めて真剣に生きようと、
何か生きた証となるような、自分で納得できる何かをしようと感じるのだなあと実感。

人生って皮肉よね~。
「不幸は人間に真理を教える」、けだし名言。


「生きる」と「七人の侍」での志村喬さんの演技は素晴らしかったです。
監督の「世界の~」の面目躍如でありました。

出演者の中で現在も元気に活躍されているのは菅井きんさん。
乳飲み子を抱え、役所に陳情にきたおかみさんの一人です。お若いなぁ。



随分前からハリウッドのリメイク話しがでて、
スピルバーグ監督、トム・ハンクス主演なんて噂が流れているけれど、
なかなか具体的になりません。
でも、この映画はリメイクしないで、そっとしておいて欲しいなぁ~。



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 ***** 今週 見た 映画 *****

 7月13日 「チャックとラリー おかしな偽装結婚」DVD アダム・サンドラー

 7月15日 「ホット・ファズ」 シネマGAGA!@渋谷 英国の警察アクションコメディー。

  今回は渋谷で迷子にならないように、目印になる西武百貨店とマルイシティを目指し、
  早めに「眼鏡市場」のお兄さんに尋ねました。
  優しいお兄さんは就業中にも拘らず映画館前まで一緒に行って下さいました。ありがとう!!!
  ヨン様ファンではないですが、次回眼鏡は渋谷の「眼鏡市場」で作ろうかなぁ。

 7月18日 「グレイズ・アナトミー シーズン3」DVD

   ついに、シーズン3お目見え! 待ちに待ちました。
 ブログも書かず、VOL.1 エピソード1~3 イッキ~!



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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (CD)
2008-10-29 01:00:31
ryokoさん、こんばんは!
私は、劇場公開のタイミングではほとんど観られないので、
ここまで遡ってきてしまいました。
この作品は素晴らしいですよね。随分前に観たので、内容はかなり
忘れてしまってますが、ryokoさんの詳しいレビューで大分甦って
きました。でも、改めて鋭い作品だったなーということと、悲しいかな
人間はそんなに進歩しないものだなーということを痛感しました。
ryokoさんの書かれていること、納得することばかりです。

志村喬はすごいですね。どちらかと言えば、地味な顔立ちなのに
すごい存在感です。七人の侍なかでも、あの華やかな、世界の三船に
勝るとも劣らない存在感だからすごいです。

古い映画だけど、こういう素晴らしい映画は多くの人に観てもらいたいですよね。
返信する
コメント、ありがとうございます! (CDさんへ(ryoko))
2008-10-31 21:45:11
古い記事お読み頂きありがとうございます。
ほんとに素晴らしい作品ですよね。
古い黒澤作品を少しずつ見ているのですが、ホントにスゴイ!「世界の黒澤」実感してます。
確かに戦後すぐの頃とあまり変わっていないというより、残念ながら悪くなっているように思います。

「七人・・・」では三船より、志村喬の方が印象的でした。派手さはないですが、良~い役者さんですね。

古い映画でお勧めなどありましたらご教授願います
返信する
Unknown (CD)
2008-10-31 23:07:42
ryokoさん、こんばんは!
私もそんなに観てるわけじゃないですが、黒澤作品で好きなのは
「七人の侍」「生きる」「羅生門」「椿三十郎」「天国と地獄」です。
この5作品はいずれ劣らぬ名作だと思います。
ryokoさんはご覧になりましたか?
返信する
お返事遅くなりもうしわけありません (CDさんへ(ryoko))
2008-11-09 23:07:55
CDさん、お勧めありがとうございます。
昔見た記憶はあるのですが、内容はあまり・・・なので見直しているところです。
「椿三十郎」は最後に椿が一輪だけ赤くなったような、違いましたっけ?
映画やテレビでリメイクされたりしているようですが、見る気が起きなくて、やはりオリジナルを見たいと思います。
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