銀河夜想曲   ~Fantastic Ballades~

月が蒼く囁くと、人はいつしか海に浮かぶ舟に揺られ、
そして彼方、海原ワインのコルクに触れるを夢見、また、眠りにつく……

アレクサンドル・タローの弾くバッハ

2015年02月28日 00時49分11秒 | クラシック音楽
Harmonia Mundiから2005年に発売されている、アレクサンドル・タローのアルバム(HMC901871)が素晴らしい。
(ここで全曲が試聴できる)

選曲もいいが、とにもかくにも演奏が心地良く、そして音色の質感と美しさに心打たれる……!



BWV.979(原曲はトレルリ(トレッリ)の楽曲)を、タロー自身がピアノ用に編曲しているのも良い。このアルバムは2004年9月に録音されたものだが、You Tube には2010年パリ・シャンゼリゼ劇場でのライヴ録音も up されている。これがまた緊張感を孕んだ演奏でいい。だがしかし、欲を言えばこの作品は、全曲通して録音して欲しかった。個人的には最終楽章に、大変な思い入れがある(ミケランジェリの古い録音や、映画『恐るべき子供たち』の劇中曲として使用されているイメージやインパクトが強い)ので…。



しかし何といっても、このアルバムの白眉は、『パストラーレ ヘ長調 BWV 590 - 第3楽章 アリア』だろう。
同じ音源が、やはりYou Tube に up されている。

ただ、静けさと共に聴く。
ただただ、心に降り重なる塵芥を慮る…。

そうしてただ、沈黙と共にここに在る……。




桜の枝

2015年02月24日 02時17分55秒 | 散文(覚書)
桜の枝が広い公園に落ちていた
2月の半ば 寒空公園
まだ蕾も膨らんでいない黒茶の枝だ

それはとても大きい桜の木だったけど 
枝が広がりすぎて重すぎて
地面すれすれ枝分かれ
通り人たちが身をかがめて歩いても
図らず頭をぶつけてしまうから
枝は可哀想に 落ちてしまうのだろう



一本持ち帰って 水差しに挿した
時の流れの中で水は少しずつ
ゆっくりと
桜の枝の体内へ 

いや
砂時計のように
微かに微かに音も立てず
あの桜の木の上にも降っているかもしれない

そうだきっと 
この水差しの水は
砂時計のように
あの地に降っている
あの寒空へと続いている



桜が咲く頃は 水差しもまた
新たな時間を刻むだろう
新たな命を育むだろう

ちひろの、滲みの技法について

2015年02月22日 03時20分10秒 | いわさきちひろ、その人と作品
いわさきちひろの絵は、晩年の滲みの技法(※)で特に知られている。あの移ろうような滲みは、子どもの瞳の潤いそのままを表現しているようで、強く、儚い…。
子どもの瞳は、泣いてもいないのに潤っている。大人は、いつからその潤いと輝きを失い、手放してしまうのだろう…。
夢は、ちひろの絵そのもの。

※参照


画像は、『蝶の舞う野原』 1968年

虹のように大きく美しい。
全てを包み込むかのような、豊かな香りと安らぎ、あたたかさ…。

子どもの描かれていない作品だが、子どもの瞳に映る景色なのかもしれない…。


森の合唱

2015年02月19日 19時57分32秒 | 散文(覚書)
森の合唱は
カエルの歌であり
鳥のさえずりであり
風の吹き抜けであり
陽だまりの安息であり
小川のきらめきであり
葉と葉の触れ合いであり
狼の遠吠えであり
宵闇の木霊であり
朝焼けの目映さであり
冬眠時の寝息の忘れ形見であり
地を踏みしめる何者かの影であり
夢と夢とのすれ違いである



そうしてまた
森は合唱する
大空の深い深い
雄渾な嘆息の下で
十二単を広げるように
合唱する
去り行く何者かの背へ向かって
忘れ去られた魂の故郷(ふるさと)へ向けて



開け放たれた扉の向こうには
合唱の気配だけが静かに
深閑と
秘め事のように残る


ペットという言葉はキライだ

2015年02月16日 23時44分49秒 | 散文(覚書)
ペットという言葉はキライだ
ボクの隣には タロウという名前の犬がいるから

飼うという言葉はキライだ
ボクとタロウは いつも一緒に寝て起きるから



赤い小さな舌でチロチロと水を飲んでいたタロウも
僕の手に余る大きな顔を
夜毎
静かにすり寄せてくるようになった

寝そべっているタロウの背中は
ピアノの鍵盤のように長く伸びていて
そーっとさすってやると
気持ち良さそうに目をとじる

そんなとき僕の心には
やんちゃなボクが戻ってきて
タロウの背中で何度も指を跳ねては
ピアノを弾く真似をする

でも それでも
タロウは眠ったまま
十本の指はやさしい毛並みに安心して
その度に
仲良くそろって寝転んだ



「散歩だぞ」という言葉が大好きなタロウは
僕が寝ている間に
どこか遠いところへ出かけてしまった

「散歩だぞ」という言葉が大好きな僕も
タロウとボクの散歩を思い出しては
絨毯の上に残ったままの体毛を撫でて
どしゃ降りの雨のように 
ピアノを鳴らすんだ


明日をまた生きて

2015年02月14日 20時58分30秒 | 散文(覚書)
君のいるこの世界は
たくさんの不思議や喜びで編まれていて
君の知らないことも
滝が落ちるように勢い美しく在り
僕の知らないことも
赤子の眼差しのように快然と咲いています

レースのカーテンの隙間から光がこぼれたのは
明け方でしたか 夕焼けの頃でしたか
それは約束した明日が教えてくれるかもしれません

小人や妖精たちは
きっと知っているでしょう
あなたの後ろに
喜びの道が延びていることを

移ろう雲の面影さえも
きっときっと知っているでしょう
あなたの前に
喜びの道が拓けていることを

胸に赤いリンゴのような風船を抱いたとき
ふしぎな物語は
きっとまた紡がれていきます
お母さんが優しく
あなたを抱いたように

雪の中で

2015年02月06日 01時54分51秒 | いわさきちひろ、その人と作品
小さな花びらのような雪の子たち
いつから降っていたの?
さっきから
わたしの鼻先をくすぐる



とてもひんやりするけれど
その瞬間
何かあたたかなものが
心の中を駆け巡るの



ふしぎね
ふしぎ



わたしの手袋も綿帽子も
遠い遠い
雪の記憶
きっと
誰かのこだまが呼び覚ましたのね



わたしはいつからここにいて
いつまで
ここにいられるかしら



ふしぎね
ふしぎよ



遠いどこかの空に手を伸ばせたら
またわたしの心をくすぐって



前髪またたいて夢見られたら
またわたしの命の灯火となって



雪よ
恋しい雪のささめきよ