銀河夜想曲   ~Fantastic Ballades~

月が蒼く囁くと、人はいつしか海に浮かぶ舟に揺られ、
そして彼方、海原ワインのコルクに触れるを夢見、また、眠りにつく……

さよなら夏の日

2006年08月31日 20時54分08秒 | 散文(覚書)
僕、先生の夢を見たよ

毎日育てていた朝顔の中に

いくつもの花と

背の高いツルの中に

先生が、にっこりまぶしく立っていてね

キラキラ、キラキラって

薬指が光っていたよ



夜の間から

しんしんと聴こえていたんだ

朝顔の伸びてゆく声に枕が応えて

僕に教えてくれたんだ

先生が、また来年来るんだって



どうして朝は

こんなにあっという間に

こんなにまで胸の奥に

光って小さな1つになるんだろう



指にツルをからませて

虹色の雫が地面に落ちた時

まるでね、真珠みたいだった

露に濡れた葉っぱから

そぞろ、そぞろとこぼれてね

生まれたての瞳が

真珠みたいだった



どうして夕方は

こんなにあっという間に

こんなにまで胸の奥に

泣いて大きな1つになるんだろう



僕を抱き寄せて

先生の頬が耳に当たった時

良かったなって、思ったよ

この土手に一緒に座っていられて

この窓辺から一緒に海を拾えて

とても

とても嬉しかったよ



あぁ、もう

赤も、紫も、青も

みんなみんなどの朝顔も

もうすぐ

真っ赤な雲の中にとけていきそうだよ



先生の緑の指に

また、会いたいな

夢で会えると知っていても

僕はまだ眠れないよ

だって明日から

違う先生が来るのだもの



風にはさよならって言えるけれど

風が運ぶ全てにさよならって

僕はいやだ



でも

川が流れていくように

暑い空に生まれた風船が涼しさへ飛んでいくように

住むところが、変わるだけだよね

僕も明日から

夢布団が1枚増えるんだから



コップの中の氷が

カラッ、って

鳴ったよ



さようなら

先生

きっとまた

きっと、ね










プレリュード 嬰ハ短調 作品45

2006年08月28日 02時11分11秒 | ショパン作品からのイメージ素描
湖畔に浮かぶ、朝の老い

水面は凍って

また靄は立ち

白い木々、吐息の群に

一羽の鳥が

そよと去る



太陽は隠れ

時に、忘れた頃、姿を現す

湖の上辺だけに

一面、雲を映す

氷細工の上だけに



いつ、水紋は動き出したのか

誰も知らない

1つの輪の中に

劫臈を経た

1つの高話があることを

幾重にも

消えて

幾重にも

追いかけて

また、消えて



名も知らぬ草が

閉じ込められている

茶と緑を交えた色をもって

今にも壊れそうな氷の中に

水泡と共に

横たわって



指を伸ばし

触れようとしても

それはもういない

儚く凍えた水面には

爪の先が

殊更、無下に痛い



大きな水泡が

鳥の名残を教えると

隣の小さな水泡が

長い長い

茶緑の草に眠った



















赤という色

2006年08月18日 02時09分00秒 | 雑感・徒然なる想い
一般的に、赤い色は繋がりや絆といったものをイメージさせる。

例えば女性の生理赤ちゃんを産むために必要不可欠な作用であって、その赤ちゃんが誕生するまでには運命の赤い糸(信じるか信じないかは人それぞれだが、つまりは良い意味でも悪い意味でも男女の導き合い)がある。

一方で、赤の他人という言葉も存在する。日本語は実に面白い。

生まれたての子供を赤ん坊と言うのは、体が赤味がかっているためだそうだ。

人間の体は血液が循環する事で機能する。他の動物のそれは赤に限らないが、火山の活動によってマグマが噴出し、そして地表(並びに地球の形状)が形成された事を鑑みても、広く命の鳴動というものを赤色に置き換えて差し支えないと思われる。

太陽は、昇る時も沈む時も赤味がかっている。人は死に際した折、死化粧として頬紅を差したりもする。「ありがとう」という言葉と同時に、「また生きて生まれよ」と。

みんな誰もが赤ちゃんだった。
大きくも小さな太陽は、死ぬまでそこで脈打っている。

という色は、恩恵そのものである。









静かなる盆

2006年08月14日 23時47分00秒 | 散文(覚書)
熱のこもったアスファルトが

そこかしこで笑う

僕の額を焼き付けて

密やかに

軽やかに執拗に笑う

は、ふぅ

は、ふぅ



あの坂を上れば……

影のさえずりへ…



やがて音もなく

車が走り去る

誰が、一体乗っているのだろう

バックミラーだけがまぶしく光って

このトンネルを映した



銀杏の並木道は前へ前へと進むばかりで

葉の群れはアーチとなって

遥か頭上を

緑のステンドグラスへと催した

そこを、ただ真っ直ぐ、秋へと潜り抜けて…



蜘蛛が1匹、宙にいた

夏風邪の僕には、糸が見えない

蠢く事を忘れたようだ



並木道の両端に立ち並ぶ雑居ビル

そこに映る

黒い葉のざわめき

あぁ、どれだけの

幾万の魂がそこを行き交うだろう

黒と、緑と

その弛まぬ2色の綾取りを



蝉の抜け殻が空から降ってきて

虚空の1点で留まった

あぁ、ようやく僕にも蜘蛛の糸が見えたのだ



汗が、遠い潮鳴りの様に引いてゆく

抜け殻の影は

アスファルトに微かに揺らいでいる

ひっそりと

ひっそりと



緑髪の人よ

あなたを、また、思い出した








ちひろの絵・その1

2006年08月06日 02時35分38秒 | いわさきちひろ、その人と作品
緑の幻想 
1972年
雑誌 “ 子どものしあわせ ”



 しろいうま
                       しろねこ
                ちょうちょ
      ことり
             しょうじょ

          そして見守る大きな木


どこかにある 白いわすれものと

緑のなつかしさが こみあげるから

少女は手をふって

すずしげな帽子に言葉をそえる


わたしの夢、ここに駆けておいで……!