自我と脳 単行本 – 2005/2
カール・R. ポパー (著), ジョン・C. エクルズ (著
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人間の心は、脳の物理・化学的作用の産物であろうか?否、違うだろう! 投稿者 FANTASMA UCCIDENDO MECCANISMO (YO SOY AQUEL) トップ1000レビュアー 投稿日 2012/8/24
形式: ペーパーバック
人間の心とは脳の神経ネットワークと神経伝達物質の電気的、物理・化学的作用の産物に過ぎないのであろうか?現在でもそのように考える研究者は少なくない、行動主義心理学のアプローチは、脳の機能を刺激・反応の過程に還元することで人間の心を探査しようとした。このアプローチは現代においても脳科学者にシッカリと受け継がれている。すなわち、Tacit Understanding(暗黙の了解)として彼らは・・・心を脳の機能を探ることによって解明しようとしているのである。現代物理学において還元論はとうに否定されているにもかかわらず、心や精神活動を脳の一定部位に還元しようとする研究姿勢は基本的に踏襲されている。
本著では・・・心を脳に還元しようとする現代の脳科学とはまったく異なる主張が述べられている。著者は1963年度に神経細胞のシナプス部の研究でノーベル生理学・医学賞を受賞した、神経生理学者John C. Ecclesと(皆さんご存知の)著名な科学哲学者Karl R. Popperである。彼らは、心と脳は別のものという二元論を提唱した。すなわち、心はあくまで心であって、物質的な脳とは違うというものである。
人間の行動は心と、物質的なシステムとしての脳との相互作用から生ずるというのが主張である。換言すれば・・・世界は心の世界と物質世界に分かれており、物質世界の一部である脳と心の間には密接な相互作用が存在する・・・という“心身二元論”を主張している。
心と脳がどのように相互作用しているかについてEcclesは全くの謎としながらも、“明らかに、心は脳の補足運動野(コントロールに関わる接続部連絡脳)をとおして、脳に働きかけている”と断言している。これに対しては批判が多いが、この二元論を否定できるほど脳科学は、心も脳も明らかにしているわけではない。
Popperは「時代の主流的な脳科学者の主張…科学はいつかすべての心の働きを、脳の神経機構の働きで説明できるようになるようになるだろう。何百年先になるかわからないが、いつの日か必ず、すべての神経細胞の働きで説明できるようになるはずだ。」なる現代の科学者の主張を批判し、からかい半分に“約束唯物論”(これは有名)と呼んだ。
他に、Karl H. Pribram「脳ホログラフィ理論」の考え方も興味あるものでした。多くの斬新な考え方が現在でも必要とされています。“心・脳”等の小宇宙は宇宙と同様に複雑で多くの未解決の謎に満ちています。若き皆さんの挑戦を待ち望んでいるでしょう。