ルーディ・ラッカー著、マッドSF(ハードSFでもある)の大傑作、
「ウェットウェア」を読み終わる。
やはり、凄かった。
本当にとんでもない。
全編圧倒的にすごかったのだけど、
月のロボット達が陰謀で作り出した「人工生命第一号」である
「マンチャイル」が産まれて、本人の予定通り(?)暗殺されるくだりが
やはり、特に強烈だった。 そして、そのことが
直接描写されずに、あっさりと回想ですまされてしまうのも。
「マンチャイル」は自分が産まれた瞬間に、何て呼ばれたか記憶してて
(「男のお子さんですよ」)、
それで自分で「マンチャイル」って名乗るんだな。・・・・深い。
意味はしっかりと「人類の子」だ。
その子供の「バッバ」は、全然”いい思い”してなくて可哀想だ。
バッバは「厩」に隠れているのだな・・・・・。
ビート文学を愛する者としてはやはり・・・・
知生体であり、自立繁殖ロボットである「エミュル」がケルアックの喋り方をする、
のがやっぱり衝撃で、可笑しくて。しかも場所は未来の月面。
「エミュル」の姿はただの「箱」である。
対面する知生体ロボット「バーニス」はアラン・ポーの文体で喋る。
「バーニス」の姿は金色に輝く全裸の美女。
ある一章など全編が「バロウズ文体」で語られる。
(原語でそういうのが理解できたらまた、格別の感動があるだろうなぁ。)
馬鹿馬鹿しくて深遠で、センスが良くて、もう、本当に素晴らしい。
「エミュル」の登場の台詞を引用する。
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「バーニス、生きることは深い闇の大洋で、
われわれは次元騒ぎの派手やかな楽魚、われわれは絢爛たる花々で、
やがて騒陽が衰えてわれわれの亡骸を風が吹き散らす」
ハヤカワ文庫「ウエットウェア」ルーディ・ラッカー著・黒丸尚訳
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・・・・これで「バーニス」を口説いてるつもりなのが笑える。
しかし「マンチャイル」が死んでからの進行は 混乱、混乱で、
結局、どうなったんだ?と読了後に考える。
月面上の知性ロボット、「バッパー」はカビで全滅。
コッブの従兄弟のウィリィは、フロリダへ脱出。
「あなただけは新しいレヴェルに達するの」という謎めいた、それでいて
ちょと象徴的な台詞がウィリィに告げられる。最後にスタァンと合流。
バッバは地上の人工頭脳を開放するために戦ってる途中。
「ハッピィ外套」こと”進化した明滅被覆”がカビの影響から逃れて、
スタァンと一緒に月から地上へ降りてくる。
(結局この「ハッピィ外套」が、ロボット生命体と人間の接点なのだろうか。)
コッブ・アンダスンはバッバを逃がす時に射殺されてる。けど
コッブの「ソフトウェア」のコピーは月面にあるので・・・・・・
コッブは死にはしないのだな。ははは。
次作は翻訳されてるのだろうか?
(前回、読んだ時はまだ、「次作」は書かれていなかったと思う。)
それにしても
コッブの「ソフトウェア」がオフラインのときに
ずっと、”神と対話していた”というのがすごい。
「死」とはそういうものなのかもしれないな、などと
つい、思わせられてしまうのが何と言っても、最大の魅力だ。
ってな感じデシタ。
さて、
もう本当に寒くなったけど、風邪引かないようにね。