現在の老人は「社会のマジョリティ」で「社会の隠れた主役」でもある。否、隠れてなどいない、真の主役かもしれない。
我が国の平均寿命(0歳の平均余命)は2022年男81.05年、女は87.09年なる。 一方, 自立生活可能な生存年齢が「健康寿命」で2019年で男性72.7歳、女性75.4歳である。
寿命の延長とともに「寝たきり」と「認知症」の増加が社会問題化しつつある。
萩原らの百寿者の研究では、ADL(日常生活機能)別の割合は,良好群と中間群がいずれも約20%,不良群が約60%であった。男女差が著しく、男のADLは良好。 ADLが不良群では脳血管疾患と老人性認知症が多かった。百寿者全体の在宅率は66%であった。
「健康寿命の延伸」こそが高齢者医療の目指すところであるが、しかし、高齢者関連医療従事者の実態は、私を含めて「寝たきり」と「認知症」患者の世話と延命に費やされている。医療従事者としてもこの分野の業務は重要であるが一抹の虚しさもある。
人にはそれぞれ, 個性があり, 人間性がある。異なった価値観を互いに認め合える多様社会なくしては良き人生はない。元気な時は「 天上天下唯我独尊」でいいが、人間, 生まれると同時に死への旅路が始まっていることを忘れてはならない。
最後まで脳と身体の活力を人間らしく保ちながら、最終段階でどのように生き、どのように死ぬのが問われることになる。
私は中通リハビリテーション病院療養病棟で高齢者医療を担当している。
私は家族面談を重視する。何しろ現在主治医として受け持っている20名の患者のうち、回診時に私と会話可能な患者は5人に満たず経管栄養、ないし点滴、酸素吸入を受けながら天井の模様をじっと見つめているだけ??だから患者本人がどういう考えで医療を受けているか知ることができない。
患者面談の際に必ず確かめるのは、
(1)「ご本人と認知症や要介護状態になったらどう生きたいのか、話し合ったことはありますか??」
(2)「ご本人の死生観を確かめたことはありますか??またはそのような心情を示した文章などはありますか??」
・・・であるが、今まで面談したご家族のべ30家族以上についていえば「あります・・・」と答えた家族は全くない。
患者面談を通じては、ご家族が如何に患者を大切にしているかを窺い知ることができる。親孝行息子、娘達でこれはほぼ例外がない。
しかし、「親の死生観を知らずして親孝行できるのか」、「どんな状態を迎えてもひたすら長命を願うのは真の親孝行と言えるのか??」、周り回って「結果的に親に苦痛を強いているのではないか??」、「・・・・・」。
私の素朴な疑問である。