マキペディア(発行人・牧野紀之)

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パナマ運河と海運の現状

2014年02月13日 | ハ行
      山脇 岳志(朝日新聞社、アメリカ総局長)

 真っ白な巨大クレーンが4基、青空にそびえたっていた。コンテナを上げ下ろしするためのアームは、120㍍、40階建てのビルの高さまで上がるという。

 ワシントンの中心部から60㌔離れた米東海岸ボルティモア港では、今年から最新鋭の設備が動いている。

 1億㌦(約100億円)あまりの投資で、大型コンテナ船が停泊でき、すばやく積み下ろしができるようになった。すぐそばには、ネット通販大手、アマゾンの配送センターもできる。

 世界の貿易の9割は、海運に頼っている。その変化はすさまじい。

 世界経済の伸びを反映して、海上輸送量は過去40年で3倍以上に増えた。20年後にはさらに倍増する勢いだ。船はどんどん大型化する。より効率的に、より安く物資を運ぶためである。

 中米のパナマ運河では、総額52・5億㌦(約5400億円)をかけた拡張工事が行われている。約100年前にできた今の水路は浅く、幅も狭い。4千数百個のコンテナを積める船が、ぎりぎり通れる程度だ。

 2015年に拡張工事が完成すれば、今の3倍近い1万2千個ものコンテナを積める船が通れるようになる。

 大型の液化天然ガス(LNG)船も、大半が通過できるようになる。米国で産出されるシェールガスを液化し、日本に持ってくるプロジェクトヘの期待が高まっている。これもパナマ運河が拡張されるので運びやすくなる。

 パナマの大変化を先取りする形で、ボルティモアは工事を急いだ。

 「米国東海岸の港は、船の大型化への準備を、競い合っているよ。ニューヨーク・ニュージャージー港は、橋を高くするための大工事にとりかかっている」。港を運営する「ボーツ・アメリカ・チェサピーク」のマネジャー、ベイヤード・ホーガンズ氏は、そう話す。

 きょう日本にやってくるバイデン米副大統領も、海運に並々ならぬ関心を寄せる。9月にボルティモア港を視察、先月にはヒューストン港やパナマ運河を訪ねた。

 バイデン氏はボルティモアで、こう危機感をあらわにした。「世界は変わりつつある。ボルティモアのように港を拡張しなければ、我々は立ち遅れてしまう。米国全体のインフラを近代化しなければならないのだ」。

 私は今夏、パナマ運河で工事現場を取材した。港や運河に興味があるのは、私自身が神戸で育ったためかもしれない。明石海峡を行き交う船を眺めるのが好きだった。

 40年前、小学校の先生から「神戸は世界トップクラスの港」と教わり、子供心に誇らしかった記憶がある。

 70年代の古い資料を当たると、確かに、神戸のコンテナ取扱量が世界で1位や2位の年があった。2012年の統計では、神戸は52位。日本一の東京港でも、世界ランクは28位である。

 今の世界トップ、上海やシンガポールといった港は大型コンテナ船が入れるよう集中的に投資した。日本は、港湾予算を幅広くばらまいたこともあって、対応が遅れた。

 日本政府は3年前、京浜港と阪神港を「国際コンテナ戦略港湾」に指定し、集中投資を始めている。だが、一度奪われたシェアを取り戻すのは、そう簡単ではない。 (2013年12月02日、朝日)