マキペディア(発行人・牧野紀之)

本当の百科事典を考える

無農薬・有機農法米を考える

2014年02月01日 | マ行
 近所の棚田でお米を作っているSさんを知って、それを購入しました。Sさんと話し合っている内に、以下のような意見を聞きました。大切な問題だと考えました。以前から関係のある第3世界ショップ(昨年の秋、「はぜかけ米」を売り出しました)と大潟村でがんばっているみすず農場にこれについての考えを聞きました。以下はそれぞれの意見です。

1、Sさんの考え

 「無農薬、有機栽培、稲架け乾燥」の中の「有機栽培」を満たすお米は、なかなか無いかと思います。誠に申し訳ございませんが、私自身、有機栽培の利点が良く分かりません。もし、堆肥などで生育過程の養分の全てを賄おうとすると、どんな養分がどれだけ入っていて、どのようなタイミングで効くのかといった効果が安定しないし、水田なので追肥も難しくなります。全国的に見ると有機栽培を謳っている農家さんもいらっしゃるようですが、私の知識や技量では出来ないと思います。

 また、化成肥料を「石油から合成している」と間違って認識されている方も多いようですが、窒素は畜産の過程で、リン酸はリン鉱石から、カリも鉱石から抽出しているので、石油から作っているわけではありません。むしろ、どのような成分をどれだけ入れたのか、どのぐらいの速さで効くのかなどが計算できるので、化成肥料は使い勝手が非常に良い肥料です。また、ケイ酸などの土壌改良剤も貝殻やサンゴが分解した地層から抽出していますから、病気や害虫を寄せ付けない骨太な稲を育てるには、率先して使うべきかと考えています。

 昨年は、試しに有機化成(有機肥料をペレット状にした資材)を使ってみました。しかし、肥料の効かせ方(稲の生長に合わせて効かせたい時と効果を切りたいときのタイミングをはかる)という面で、少し使いにくい気がしています。

 また、私の場合は、今までたまたま本田農薬不使用で作ってこれましたが、突発的な病害虫に襲われた時は、農薬を使わないという選択はできないかと思います。

 また、籾の段階で殺菌剤が使われていたり、藁を腐食させる資材の中に農薬の成分が入っていることもありしますから、何から何まで完全に無農薬で稲作をするというのは、かなり難しいかと思います。

 一方、乾燥についても、昔は乾燥機にかけると灯油の匂いがついたりしたこともあったようですが、現在は技術が進歩していますから、そのようなこともありませんし、乾燥機によって玄米の品質が下がることもありません。むしろ、稲架け(はぜかけ)で中途半端に乾燥が甘いと、虫が付きやすくなったりカビが生えやすくなったり、かえって品質の劣化を招きます。ただ、乾燥機にかけると余分に手数料を取られるので、私の場合、しっかり天日干ししてから籾摺りにかけています。

 そのようなことから、私自身、潔癖に無農薬や有機栽培を目指しているということではありません。稲本来の力を引き出してあげることを優先し(経費的にも)農薬や肥料の使用は少ない方が良いという程度の認識です。

 感想・Sさん達の場合、2キロで1000円と、協定しています。あくまでも副業的にやっているのだと思います。

2、第3世界ショップからの回答

 予備的説明・第3世界ショップは、私(牧野)の記憶では日本における「フェア・トレード」の草分けではないか、と思います。片岡勝さんが始めたのだと思います。私はその初期からの購買者です。只の購買者ですが。

 昨年(2013年)秋、その運動に参加している若者たちの作った「はぜかけ米」のチラシが届きました。もう売り切れたそうですが、今回のSさんの考えについてどう思うか、問い合わせました。すると、その米の購買者に同封された「僕らの米作り奮闘記」(2年目の挑戦)のコピーが送られてきました。それをそのまま、写真は除いて、文章だけ転載します。

──楠クリーン村〔山口県宇部市にある第3世界ショップの活動拠点の1つの名前〕・米生産担当のFです。この度は『僕らの作ったはぜかけ米』をご購入いただき、ありがとうございます!

 私たちのはぜかけ米は11月初旬、やっと収穫を終えました。「ほかの米より遅いんじゃないか?」と思われる方もいらっしゃると思いますが、『はぜかけ』でじっくり天日干しをしたためです。

 さて、今年も栽培に農薬を使わず、自家製堆肥のみ使用し、こだわりのおいしいお米を作るため、多くの手間と情熱を注いできました。召し上がっていただく方に、私たちのこだわりやおいしさの秘密を知っていただければ幸いです。僕らの『米作り奮闘記!』ぜひ、ご覧下さい。

①土作り(1月~3月)
 米の1年の始まりは冬の土作りからです。堆肥の量は2トンダンプ3台分! 今年は楠の牛の糞から作った自家製堆肥です。広さは5000平米、山のように盛られた堆肥をムラのないように撒くため、トップカーに積んで撒布します。

②苗作り(4~5月)
 私たちの米作りは、ここからが病気・害虫との戦いです。籾(もみ)の温湯消毒→籾乾燥→苗箱消毒(エタノール&天日干し)→苗箱へ種蒔き→苗の水やり→・温度管理を徹底し、田植えまでの3週間は気の抜けない作業が続きます。

③田植え(6月)
 田に水を引き、トラクターで土と混ぜ合わせます。モグラが穴を空け、水が流れ出ないように、畦(あぜ)に泥を塗り固めるのですが、これも手作業! 水を含んだ泥はとても重く、手や足の動きを阻みます。そして、いよいよ田植えです。今年はうるち米(餅米ではない普通のお米)を機械植え、餅米を昔の手法を用いた手植えで植えました。

④雑草取り(6~10月)
 雑草取りは米作りをする上で最も重要な作業の1つです。草に行く分の栄養を稲に与え、風通しを良くし、日光の恵みを十分に与え、病気や害虫に負けない強い米にします。

 そうは言えども夏の炎天下! 伸びた草を腰をかがめ、手で一つ一つ抜き取る作業はとても堪えます。草は1度抜いてもひっきりなしに生えてくるので、5~10月の間は毎月、稲の間の雑草を取り続けるのです。

⑤刈り取り・はぜかけ(10月)
 穂が垂れ、田が新緑から黄金に染まる頃が収穫の合図です。今年は田んぼの裏山からはぜかけ用の竹を切り出すことから始めました。地域の竹切り名人にご指導をいただきながら、数人がかりで竹を切り倒し、節を落とします。長いもので1本20メートル・約80キロの竹を2人で神輿のように肩に担いで田んぼに運びます。

 根本から稲を刈り取り、「はぜ」と呼ばれる竹で作った棚にそれを掛け、天日干ししてゆきます。刈り終わった田に「はぜ」を作ってゆくのですが、これが難しい! 支柱のバランスが悪かったり、ヒモが緩いと、はぜ掛けの後に折れたり倒れたりします。

 はぜかけの利点は、稲穂のまま(籾だけを切り離すのではなく)天日でじっくり時間をかけ、米を乾燥させることにあります。稲は茎にも栄養が蓄えられており、それが約20日かけて、ゆっくり米の中に行き渡るのです。そして、自然の温度と日光によって乾燥させるので、米を痛めてしまう高温の機械乾燥に比べ、米の風味、食味が格段にますのです。

 たわわに実った稲をはぜ掛けしてゆく様子に豊かな秋の実りを感じ、出来たはぜが並ぶ風景は、絶やしてはいけない日本の風物詩です。

⑥脱穀・籾摺り(11月)
 はぜかけを終えて待つこと約20日。米が乾燥する時期を見て、脱穀を行います。今期は台風や大雨などではぜかけ棚が倒れてしまい、掛け直しをしました。しかし、それ以外は晴れも多く、順調に乾燥していきました。

 脱穀ははぜかけ棚から下ろして、一束ずつ脱穀機にかけt行います。田んぼで脱穀を終えたら、楠クリーン村で籾摺り機にかけて、籾摺りをしていきます。無事に玄米として米袋に入ると、ようやくお米の収穫は終わります。

 田んぼに残ったワラも集めて、楠クリーン村の牛に食べてもらいます。そして、牛たちから出来る牛糞堆肥を田んぼに施して、来年度の米の豊作に備えます。

 僕らの「米作り奮闘記」いかがでしたでしょうか。おいしいお米を作っている現場に生き生きした様子を感じていただければ幸いです。1年で最も多く口にするものだからこそ、これだけの手間を掛けても「おいしい!」と胸を張って言える米作りがしたい! そして、もっと多くの人に私たちの活動を知っていただくため、米作りの挑戦はまだまだ続きます。(引用終わり)

 感想・第3世界ショップではこうして作ったお米を2キロで1400円、10キロにすると7000円で売っています。10キロで3000円以下のお米もスーパーなどでは売っている時代に、これを「高い」と思うのは普通かとも思いますが、値段は品質と比較して考えるべきですから、「安い」という評価もあると思います。

 私の知りたい点は、「この値段で世間並みの生計を立てて行けるのかな」という事です。まだ始まったばかりですから、今後大きくなって行くのか、見守るつもりです。

 参考サイト・第3世界ショップ

3、みすず農場からの回答

 予備的説明・秋田県の大潟村のみすず農場からは、もう随分長いこと、お米を取っています。大凶作で日本中が困った時も、世間では2倍に値上がりしていた時でも、みすず農場では約1割の値上げで済みました。そういう試練を経て、今の関係があるのだと思っています。回答は以下の通りです。

──最初にみすず農場の事を話します。牧野さんには20年以上もの長い間お付きあいいただいておりますので、ご理解頂けると思います。

 日本が農薬や化学肥料を使用するようになってから50~60年位しか経っておらず、私が大潟村に入植した45年前は「現代農業」と言って、農薬や化学肥料を使うことが、先進的な農業だと考えられていました。

 ところが様々な問題も起きてきて、その頃立ち上げられた「日本有機農業研究会」に入会し、いろいろな方と出会う中で勉強し、実践する様になったのです。その頃大勢の人手を掛けての草取りは珍しく、奇人変人と言われましたが、確固たる思想がありましたから、気にしませんでした。稲作りも野菜作りも同じことが言えると思いますが、百姓百色で、栽培に向き合う農家の心次第で随分違うと思います。

 前書きが長く成りました。有機栽培は「JAS有機」で、「同じ土地に3年以上農薬も化学肥料も撒かず、なおかつ近隣からも流れ込まない農産物」と認識しております。

 無農薬とは、農薬関係を一切撒かずに栽培しますが、一年更新の農産物と認識しております。

 みすず農場では田植え後の追肥は一切行いません。ですから収穫量は2~3割程少なくなりますが、稲と稲のすき間が多く、病気や害虫もあまりつかないという状況をつくっています。さらに、全面積に化学肥料は以前から使用しておらず、ペレット状にした有機肥料を使用し、無農薬栽培をしています。乾燥は、乾燥機を利用しています。

 いずれにしても、手間暇のかかることで、信念がなければなかなかできる事ではありません。簡単に概略だけですが、もっと知りたいことがありましたら質問して下さい。(引用終わり)

 説明・みすず農場では奥さんと一緒に始めた夫君は大分前に亡くなっています。今では息子さん夫婦が中心になって経営しているようです。多くの社員(?)を雇っていると思います。何しろ面積が半端ではありませんから。

 値段的には、ササニシキ玄米10キロは5880円、あきたこまち玄米10キロは5040円です。
 参考サイト・みすず農場

4、これらを読んでの牧野の感想

 Sさんの意見を聞いて、又他の人達の考えと実践を知ることが出来て、好かったと思います。お酒の表示でも「純米酒」とか「米だけの酒」とかいろいろあるそうです。先日、日経新聞に詳しい解説がありました。

 大切な事は、生産者は正直に的確な情報公開をし、説明することでしょう。そして、消費者は、こういう問題に向かう「自分の姿勢」を自分で決めて、一貫した態度で立ち向かうことだと思います。どちらの側も、感情的にならずに、冷静に話し合う「まともな社会人」であってほしいと思います。参考ブログ記事・議論の認識論

 私は、第1に、生産者が正直に報告しているか、第2に、前向きに努力しているか、を見ます。この2条件が満たされれば、すぐに完全無欠を要求するような事はしません。

 第3世界ショップでも、大潟村との関係でも、貴重な経験をさせてもらいました。今又、近所の棚田の人達との繋がりが出来始めましたが、ここでも好い関係が築けることを願っています。

5、Sさんの2度目の発言

 Sさんから以下のような意見が寄せられました。

         記

 私は元々農家ではありませんが、15年ほど前から山の中の棚田を借りてお米を作っています。まだまだ勉強中の身ですので詳しいことは分かりません。

 私は無農薬や有機栽培や稲架け乾燥にこだわっているというより、
① 美しい棚田を少しでも残したい。
② 基本的な稲作農法を覚えたい。
③ 自分の食べる物は自分で作りたい。
 といった思いから始めました。しかし、長く続けているうちに、なるべく農薬を使わず、なるべく自然に近い肥料で、乾燥も天日で…という方法を心掛けるようになったというのが実際です。

 話は飛びますが、我が国も昔(戦前)は国民の大多数が農民でした。しかし、今や農業で生計を立てている人は就労人口の数%以下といわれます。しかも今では農業者の半分近くが70歳以上の高齢者で、農地を持っている家でも、息子や孫は農作業を手伝ったこともない、というのが現実です。言い換えれば、このままでは作物を育てるという技術も継承されずに消えてしまう。それが現代の日本の姿だと思います。

 最近はよくTPPだ中間管理機構だ農薬混入事件だと、農や食に関わる問題が毎日のように報道されています。が、間違えていただきたくないのは、制度や仕組みを変えたり、お金を投入したりしても、誰か動く人(田畑を耕す人)がいなければ日本の農業も、食の安心安全も守られないということです。そういう意味で、小さなことかもしれませんが、私は自分で実践しようと思っているだけの者です。

 15年もやっているとは言いつつ、最初の10年は農作業や田んぼの管理を覚えるだけで、「農法」について意識が芽生えたのはここ数年です。ですから、正確に表記すると、私が実践しているのは「移植後農薬不使用」です。

 有機栽培については、有機物をペレット状に固めた有機肥料を使っているものの、完全な有機栽培ではありません。私のように元々非農家で、サラリーマンをやりながら田畑を耕している者にとって、土日の余暇の時間だけで、自前で堆肥を作ったり、肥効(肥料の効き方)を確認しながら細かい管理をするのは非常に困難です。

 堆肥だけで生育過程の養分の全てを賄おうとすると、どんな養分がどれだけ入っていて、どのようなタイミングで効くのかといった効果が安定しないし、水田なので追肥も難しくなります。全国的には完全有機栽培を謳っている農家さんもいらっしゃるようですが、やはり、私のよう自給的農家を目指す程度の「にわか百姓」の技量では難しいのが現実です。

 また、化成肥料は全て石油から出来ていると誤解されている方も多いようですが、リンやカリは鉱石から抽出していますし、窒素分も有機質や畜産の残渣から抽出している肥料もあります。むしろ、どのような要素をどれだけ入れたのか、どのぐらいの速さで効くのかなどが計算できるので、私としては、市販の化成肥料は非常に使い勝手が良いものと認識しています。

 もちろん、農薬や化学肥料を推奨しているのではありません。しかし、農業の歴史において、農薬や化学肥料の果たしてきた役割は非常に大きいと思います。戦後の食糧難や世界的な飢餓のことを考えたとき、農薬や化学肥料が無かったら、今の社会は有り得たでしょうか。そういうことから目を背けて、農薬や化学肥料は「悪」というような宣伝文句には賛成できません。

 それよりも私は、日本の国土では欠乏しがちな、ケイ酸などの土壌改良剤をしっかり入れて、病気や害虫を寄せ付けない健康な稲を育て、なるべく農薬を使わずに済むような、過剰に肥料を投入しなくても済むような栽培を心掛けてはどうかと思います。

 先日、ある棚田の会合で「棚田は完全無農薬ではないのか?」「完全有機栽培じゃないなんてガッカリだ!」などと怒っている一般の方がいらっしゃいました。ガッカリするのは勝手ですが、作物を育てたこともないのによく言うなぁ…と思います。

 私も今までは、たまたま移植後農薬不使用でやってこれましたが、突発的な病害虫に襲われたとき、農薬を使わないという選択ができるかどうか、自信はありません。

 それに、籾の段階で殺菌剤が使われていたり、育苗培土の中に僅かに化学肥料の成分が入っていたり、藁を腐食させる資材の中に農薬の成分が入っていることもありますから(今は空から放射能が降ってきてしまうような時代ですから)「何から何まで潔癖に無農薬、有機栽培でなければ受け付けない」というのも、どうなんでしょう?

 一方、乾燥についても、昔は乾燥機にかけると灯油の匂いがついたり、品質が悪くなることもあったようですが、現在は技術が進歩して、かなり改善されています。人によって味覚も違うし、許容範囲にも個人差はありますが、最近は市販の安いお米でも、匂いや形質が悪くて食べられない、なんて粗悪品に出会ったことがありますか?

 むしろ、稲架けでも中途半端に乾燥が甘いと、虫が付きやすくなったりカビが生えやすくなったり、かえって品質の劣化を招きます。ただ、乾燥機にかけると余分に手数料を取られるので、私の場合、しっかり天日干ししてから籾摺りにかけるようにしています。

 そのようなことから、私自身、潔癖に無農薬や有機栽培を目指しているのではなく「経費的にも農薬や肥料の使用は少ない方が良い」というのが本音です。それよりも、「サラリーマンをやりながらでも自分の食べる物くらい自分で作れるんだよ。非農家でも自給的農家(兼業農家)になれるんだよ」ということを多くの人に知ってもらい、自分にも、自然にも、懐にも「やさしい農業」を広めていけたら…と思っています。

 説明・Sさんのやり方を知って、同じようにやりたいという人も少し出てきているそうです。


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