マキペディア(発行人・牧野紀之)

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「身の丈サイズ」の太陽光発電

2012年07月23日 | タ行
 人口も経済も膨らみ続けるインド。近い将来のエネルギー源として、メガソーラーを中心とする太陽光発電に期待が集まるが、その一方で、農村向けの「身の丈サイズ」の試みも注目されている。現地で普及事業に取り組むNGO「ベアフット・カレッジ(裸足の大学)」を訪ねた。

 農村に「技術者」養成

 首都ニューデリーと大都市ムンバイを結ぶ幹線道路から速く離れた農村地帯。ラジャスタン州ティロニア村の近郊に住む中学生のシャンティラール君(17)は、周辺の村々から頼りにされる「ソーラー・リペア・エンジニア」だ。

 ランタンが故障した──。連絡を受け民家に向かう。太陽光発電パネルで内蔵バッテリーを充電して使う7ワットの蛍光ランプ。工具で底のネジを外し、慣れた手つきで回路を点検する。「バッテリーが傷んでいます。充電器の部品も交換しなきゃだめですね」。

 コードをつなぎ終え、太陽光パネルにつなぐとランプがついた。この家の当主、バモラババさんの表情がぼころぶ。「隣村に住む孫が勉強のときに使っているんだ」。

 バモラババさんの自宅は、屋根に40ワットの太陽光パネルを載せてバッテリーに蓄電。夜になると居間と玄関先にある各9ワットの蛍光灯をともす。

 「灯油ランプに比べると明るいし、臭くもないね」。

 こうした家庭が周辺15村に約500軒。「エンジニア」のシャンティラール君が同僚1人と保守管理を担当している。18歳未満だから月給は2000ルピー(約2900円)、大きくなったら5000ルピー(約7300円)もらえるという。「修理の技術は・『ベアフット・カレッジ』で勉強したんだ」。

 「カレッジ」は昨年、地球環境問題の解決に貢献した人たちに贈られる「ブループラネット賞」を受賞した。1972年にティロエア村で発足。貧しい農村の社会教育活動を続け、太陽光発電キットの普及を事業の柱に据える。環境に配慮した持続可能な形で、電気の通っていない村の生活を改善するためだ。

 キットを配るだけではない。村の中から「エンジニア候補」を選び、カレッジに6ヵ月間「留学」させ、構造や組み立て方、修理方法を学んでもらう。「壊れた時に村の誰も直せないのでは困りますからね」。カレッジ広報担当のラム・ニワスさんが言う。エンジニアは利用家庭が払う月50ルピーを原資に給料がもらえる。「収入が伴うことで、仕事も持続可能になります」。

 1989年に始めた太陽光発電の普及車業は、アフリカや南米の国々から「留学生」を迎える。利用家庭はインド国内1万6000世帯の15万人、国外では1万4000世帯の13万人。活動する「エンジニア」は約670人にもなった。

 プロジェクト担当のラックスマン・シンきんは「メガソーラーは都会に電気を送るためのもの。農村では小規模な設備を村人が自主的に管理する方が効率的だ」と話す。

 貧困層の生活向上に

 インド政府は再生可能エネルギーの割合を、2020年に15%まで拡大する計画を打ち出している。主力は風力発電だが、太陽光発電も22年までに2200万㌔ワットの設備導入を目標に掲げる。

 日本も技術協力に乗り出した。今年4月、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がインド政府と共同でメガソーラーの実証事業に取り組むことで合意した。

 一方、インドのような新興国や途上国では、コストがかさむ再生可能エネルギーの普及と、分厚い貧困層の生活向上をどうやって両立させるかが課題になる。

 注目を集めているのが「BOP(ベース・オブ・ピラミッド)ビジネス」と呼ばれる経済活動。BOPとは人口ピラミッドの底辺にあたる階層のことで、世帯所得がおおむね年3000㌦(約24万円)以下を対象にした、いわば薄利多売の事業だ。徹底的に低所得層のニーズに向き合うことで公益に貢献できるとされる。

 米国のシンクタンク「世界資源研究所」が2年前、インドのBOPを対象にした再生可能エネルギー事業の市場調査報告書をまとめた。人口の60%がBOPに該当するインドでは、BOP世帯の約半数が電気を安定的に使えない状態で、家庭用の小規模な太陽光発電キットやランタンなどを必要としていると指摘。ランタンのような安価なものは、普及のためにNGOと協力する手もある、などと事業化の可能性を強調している。

  (朝日、2012年07月04日。吉田晋)

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