マキペディア(発行人・牧野紀之)

本当の百科事典を考える

民主主義と民主集中制と全体主義

2009年07月30日 | マ行
 民主党の参議院議員・藤本祐司さんがメルマガに次の文を載せました。まず引用します。

──7月27日(月)、わが民主党の鳩山代表は総選挙に向けて政権公約(マニフェスト)を発表した。会場には500人以上の海外メディアを含め報道関係者が詰めかけ、その注目度の高さを改めて認識した。

 2003年11月の総選挙からマニフェスト(政権公約)を載せた冊子の配布が解禁された。前三重県知事の北川正恭氏(現早稲田大学大学院教授)らは、数値目標や実現までの工程表、予算などを明確に示すマニフェストで選挙を戦うこと提唱したのである。それ以降、国政における政党だけでなく、地方自治体の知事や市町村長も選挙の時にマニフェストを有権者に示すようになった。

 私は、参議院議員になる前のUFJ総合研究所の研究員の際に北川氏と一緒にマニフェストの調査研究をして、「ローカル・マニフェストによる地方ガバナンス改革(ぎょうせい)」をUFJ総合研究所の複数の研究員と共著で出版した。あれから6年。今では多くの国民の関心やマスコミの姿勢に大きな変化が現れた。マニフェストの中身が投票行動に影響するようになってきたのである。

 今回も、民主党が発表した直後からマスコミからは評価と批判がたくさん寄せられている。たいへん好ましいことである。マスコミ、政治評論家、シンクタンク等がマニフェストを話題にすればするほど、国民は各党の政策に触れる機会が増える。時折、政策の本質を理解しないままに発言するコメンテーターもいるので困る時があるが、その際は党として明確に反論する必要はある。

 ところで、自民党は政権政党でありながら、まだマニフェストを発表していない。また、政権政党としては約4年前に提示した郵政解散の時のマニフェストを検証することも重要である。言いっぱなしではいけない。郵政解散時に示したマニフェストの進捗や達成率、達成した政策による社会への影響等を明確に示した上で、次期総選挙のマニフェストを示すことが筋である。残念だが、自民党はまだマニフェストの本質を理解していないようだ。

 マニフェストを示して政権を取った政党は粛々とマニフェストで示した政策を実行に移せば良い。野党や官僚の抵抗はあることは承知であるが、本来は国民の選択として政権政党が決まったのである。それ故、野党も官僚も与党のマニフェストの遂行の邪魔をしてはいけないのだ。その政策の実行こそが国民の意思だからだ。一方で、マニフェストに示していなかった政策には大いに反対しても良い。そもそも総選挙で約束していなかった新たな政策であるからだ。

 いよいよマニフェストによる選挙も次の段階に入った。2003年はマニフェストを作成して提示することに意義があった。2009年はマニフェストの中身が有権者の判断基準になり、政権政党は国民の意思に従って政策を実行する段階へと進化した。本格的マニフェスト選挙の時代のスタートラインに立ったような気がする。次は、国民自身がマニフェストで示された政権政党の政策の結果を評価、検証した上で、次の選挙のマニフェストを判断する段階である。いよいよ政策中心の選挙の時代がやってきた。(2009年7月29日)(引用終わり)

 さて、私が問題にしたいのは、多数で決まったことの「遂行の邪魔をしてはいけない」という文言です。まず、これはどういう意味でしょうか。マニフェストで公約していなかった新しい点は「反対しても良い」と言っている所から考えると、この言葉は「一切の反対言動の禁止」という意味になりかねません。

 もしそういう意味だとしたら、これでいいのでしょうか。多くの独裁的な権力者も形の上では「多数意見」で支持されている形をとるものです。

 藤本さんの議論は、一般化すると、民主主義制度において、多数決(これにもいろいろな多数決がありますが)で決まったことに対して、少数意見者にはどういう態度を取る権利があるか、という問題です。換言するならば、「民主主義は少数意見の尊重だ」という言葉の「尊重」とは何か、という問題です。

 これを考えるには、民主主義だけでなく、それの隣接制度である民主集中制と全体主義とを合わせて考える必要があります。藤本さんはこれを怠ったようです(私は全体的には藤本さんを評価していますが)。共産党の民主集中制が全体主義に転落したのも、理論的には、ここに原因があると思います。

 私見を書きます。

 民主主義では、少数意見者は敗れた後、多数意見の執行に協力しなくてよい。言論で批判を続けてよい。民主集中制では、少数意見者は、自説を変えなくて好いが、多数意見の執行に協力しなければならない。全体主義では、少数意見者は転向を迫られる。多数意見の執行に「行動で反対する」のは無政府主義(アナーキズム)です。

 もちろん、民主主義の中にも例外があります。小さなグループでは事実上、民主集中制で行動していると思います。国レベルでも、例えば税制などは反対者でも決まったことに従わなければなりません。しかし、大きな枠組みとしては、以上の通りだと思います。

 多数意見も、その実行に当たっては少数意見の真意を考慮し、又見落とした点はなかったかと反省し、情勢に変化はないかと注意してから実行するべきでしょう。そして、考えを実行できなくなった場合には、その理由を含めて国民に説明するべきです。

 人間の認識には完全無欠ということはないのです。謙虚さを兼ね備えた実行力が求められる所以です。

      関連項目

民主主義概論(2007年08月12日
コメント
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