マキペディア(発行人・牧野紀之)

本当の百科事典を考える

社会民主主義(02、格差縮小政策)

2009年07月11日 | サ行
   格差縮小が成長を促す

 格差の拡大は、今日の経済・社会にとって大きなテーマだ。日本では、非正規社員の増大とそれに伴う生活水準の低下や格差の固定化が、問題となってきた。正社員との格差があまりに大きく容易に締まらないことから、「雇用断層」という言葉も生まれた。米国では、所得増加がごく一部に限られ、多くの国民が所得低迷に坤吟していることが、焦燥と不満をかき立てている。

 通常、格差は分配の問題としてとらえられている。経済成長の成果配分が、技術革新、グローバル競争、税制、規制などによって偏った結果が、格差拡大の背景にあるとの指摘が多い。

 しかし、エコノミストの視点に立つと、格差拡大が、マクロ経済の成長力を殺(そ)いできたのではないかということにも、強い関心を抱く。

 調べてみると、中間層の所得が全体に占める比率が低下すると個人消費が抑制される、という実証研究があるし、教育の強化など所得格差を縮小させる政策が、経済成長率を高めるという指摘もある。実際、日本では、格差拡大トレンドの中で、中間層の所得比率は趨勢的に低下しており、それが長引く消費低迷をもたらしている可能性がある。米国では、所得低下に直面した中低所得層が、負債増加によってそれを補おうとしたことが、今日の経済・金融危機の背景にある。

 2000年代前半、富裕層がお金を使えば、その効果が中間層以下に滴り落ちて、経済全体が成長するという考え(トリクルダウン論)が喧伝された。それが税制改革や規制緩和を通じて、格差拡大を増幅し、景気を一段と低迷させた可能性がある。

 これからは格差縮小に向けた政策が、経済成長を促すことになるのではないか。

 (朝日、2009年06月26日。経済気象台、山人)