土木の工程と人材成長

土木建設の工程管理や組織運営、そして人材成長の話題や雑学を紹介します

非常時には非常時の行動を!

2020-05-22 10:36:45 | 工程表
 1986年7月1日、第三次中曾根内閣で、初代内閣官房安全保障室長に就任した佐々淳行氏は「非常時には非常時の行動を!」と話されていたことを強烈に今でも覚えている。阪神大震災後の講演会での話であった。ここで言うところの「非常時の行動」とは、常時においては法に抵触する行動も含まれる。ゆえに判断が難しく、目的や優先順位を日ごろから深く思考しておく必要がある。

 さて、今回の新型コロナウイルス感染症対策として、大阪府の吉村知事は、保健所の連絡網を、大阪市の松井市長をはじめ、府下の市町村の情報を府に一元化することを取り付けて、PCR検査を受けた人数に占める陽性者の割合である「陽性率」までをも、毎日情報発信していた。これは常時ではないとの判断から、非常時の連絡体制に切り替えていたから出来たことである。このことをはじめ、大阪府の対応は優れていた。吉村知事の非常時の手腕は見事である。

 一方、東京都は常時のままの連絡体制であったので、東京都が「陽性率」を初めて公表したは5月8日になってからのことであった。都はこれまで、医療機関などで実施されるPCR検査の件数の集計に時間がかかるとして、陽性率は公表していなかったのである。この「陽性率」は、大阪府が、休業要請などを解除する基準の一つに使うとしており、ゆえに、大阪府は独自に全国に先駆けて自粛解除の基準となる出口戦略を定めることができている。常時から非常時への切り替えが、いかに大切なことかがこれでもわかる。ただ、これらの判断と行動を取るためには、もし、間違いが生じたり失敗した時には、責任は自分一人が取るという勇気と覚悟が必要である。

 他に、初期の情報開示について、西日本新聞「新型肺炎感染者の足取り公表に差、自治体手探り、風評被害にも配慮」によれば、(先に述べた)大阪府は1月末、府内で発生が確認されれば、滞在した市町村まで公表する独自基準をつくった。仮に感染者が百貨店や大型ショッピングモールなどで不特定多数と濃厚接触をした可能性がある場合は施設側と調整した上で店名も発表するという。担当者は「市民が疑心暗鬼にならないよう出せる情報は出す」としており、これが大阪のライブハウスで発生したクラスター感染からの拡大を抑え込むのに威力を発揮したと言っていい。一方、全国知事会は国に公表基準を示すよう要望しているが、厚労省は「地域や感染者の状況が多彩なため一律の基準はそぐわない」(幹部)としているらしい。

 ところで、あるメディアでは、新型コロナ発生により安倍首相でなく、小池、吉村、鈴木などの首相候補名が挙がっていたが、私は小池氏は安倍氏よりもましかも知れないが、非常時のリーダーシップを取る者としては失格だと思っている。もし、東京都が大阪府や北海道と同時期に足並みを揃えて行動自粛を呼び掛けていたならば、東京都の感染者数は半数以下に抑えられていただろうと思っている。

 非常時の思考と対応については、佐々氏は6歳のおりに2.26事件を経験しており、今回の新型コロナウイルス感染対策では、韓国や台湾は、SARSやMARSを経験していたからよく対処できたと言われている。今後日本において、今回の経験を基にして、非常時の対応が適切に取られることを切に願いたい。

 このことは、なにも国や自治体ばかりのことではない。家庭においても話しておくことが重要である。震災離婚やコロナ離婚が喧伝されているが、これを機会に、非常時の行動でである「津波てんでんこ」などについて、話し合いをしておくことが求められよう。

新型コロナウイルス感染症から見えてきた人の命の値段

2020-05-20 09:27:47 | 人生経営
 地球上のどの地域に住んでいるかによって、人の命の重さが異なる。文化、経済、生活基盤が違うからである。災害死者の数え方でも、例えば日本では一人まで示されるが、アジアやアフリカの地域では、千人や万人単位であったりする場合もある。途上国と言われる地域においては、人口でさえ詳細に把握しきれていないのであろう。

 さて、今回の新型コロナウイルスに対応する医療従事者への手当を見ると、フランスでは一人1回18万円、韓国では一人1日5万円という。日本はと言うと一人1日4千円で、自衛隊病院では、確か一人1日260円と報道されていた。単位が異なるので、単純な比較はできないが、それはさて置いても、日本は桁が違う低さであり、医師・看護師自身や家族の命にも関係する状況において、この程度だと十分な対策も取れないであろう。これは医療従事者に対してであるが、国民ひとり一人に対する命への配慮も推して知るべし。

 国の最大の責務は、国民の命と国土を守ることである。現日本国政府は、この基本目的をないがしろにしていると言わざるを得ない。国民が経済優先を要望してきたから、しっぺ返しを受けているようにも思える。

 危機的状況においては、普段見えてこなかったことが見えてくる。今回の危機は、今後の日本の進んでいく姿をどうするか、国民ひとり一人に問われている。

3人の泰斗の新型コロナ後読みを見る

2020-05-18 09:29:01 | 人生経営
 本日(2020.5.18)東京大学の御厨貴教授の「新型コロナ対応、現政権のままでは限界」が配信されてきた。御厨氏は短期的で悲観論となっている。曰く「(元には)戻らないだろう。コロナが人を切り離す、人が動くことをやめる次の世界だ」としている。私は、前半の元に戻らないには同意するが、後半は違うだろうと思っている。ただ、現政権の危機管理能力は、御厨氏と同様0に近いと思っている。

 次に、立命館アジア太平洋大学の出口治明学長の「ウイルス対人類の戦いはグローバル化を加速する(2020.5.7)」は、歴史的な中長期的な視点から見た楽観論だ。12頁に渡る論であるが、過去の歴史(証拠)から論じているので、反論の余地はないと言うよりも、積極的に同意できる内容だと思う。出口氏は、「指導者も試されているが、ひとり一人のモラル(民主主義力を含む)・社会の成熟度も全世界で試されている」は、大いに同意できる論だと感じ入っている。自分自身の生死はさておいて、人類全体の行く末へ、大きな勇気を与えてくれる論だと思う。

 最後に、法政大学の水野和夫教授のコロナ論(2020.4.20)を探してみた。経済の内容がさっぱり理解できずお手上げであるが、「これまでの『より速く、より遠く、より合理的に』という資本主義から『よりゆっくり、より近く、より寛容に』という社会への構築を急ぐべきだ」との、政策論である。

 水野氏には、ある人を介して面談する段取りになっていたが、私の都合で実現しなかった。お会いしても、ほとんど理解できず、水野氏の時間泥棒になっていたに違いない。お会い出来なかったことが正解だった。水野氏は、確か民主党に近かったかと思う。自民政権では、水野氏の政策が採用されることは難しいだろう。

 私的には、歴史観、人生観、死生観、価値観から言って、出口治明氏の論に親近感を覚える。

新型コロナウイルス感染防止と想像力

2020-05-08 09:55:54 | 工程表
 感染症の専門家が、新型コロナウイルス感染を防ぐのは「想像力」だと言っていた。パチンコ店に行列をなして押しかけているニュースを見て嘆息した。現実に身の回りで遭遇したのだが、言わば命を懸けて食料品を売ってくれているスーパーの定員の方々に対して、これまで通り奥様に旦那が用事もないのに付いていたり、子供を大勢連れて来ていたりするのを見ると、想像力が欠如しているのを嘆き、怒りのようなものが沸いてきた。売る方もだが、行く方も危険に身を晒しているのだから。

 国内で医療従事者の子弟が、登校をしないように言われたとか。高知県内でも新型コロナウイルス感染者の濃厚接触者でもない方の児童が、登校を遠慮するように言われたという話を聞いた。これは穢れ思想からくるものだろうか。

 インドでは医療関係者が石を投げつけられるという信じられないような映像がニュースで流れていた。インドでは食に対する禁止事項と嫌悪感もあると言う。こちらも宗教的な意識なのであろうか。ただ、インドを詳しく知らないので、裏には社会的な事情が隠されているのかも知れないのだが。

 両者ともに、もし自分が感染した場合にはどうするのだろう。想像力不足であり、思いやりの欠片もない。なによりも冷静で客観的な思考が欠落している。はなはだ非科学的であり、嘆かわしい。

 一方イタリアでは夕暮れ時、医療従事者をねぎらうために、日本人バイオリニストが屋上でひとり演奏しているニースが報道されていた。医療従事者たちが窓に出て、緊張の連続した献身的な勤務のひと時のやすらぎと、連帯と共感に対する感情の交流がただよい、涙が自然とあふれてくるシーンであった。医療従事者の聞き入っている姿は、感動的でもあり言葉には表せない命の、生そのものの意味と意義を問われているような思いがした。そして、バイオリニストの衣装の赤いドレスが、コロナウイルスとの闘いを象徴しているようでもあり、また、地平のかなたに沈んでいく夕日の赤を想像し、コロナの終焉を迎えるようにとの祈りのようにも思えた。

福島第一原発事故と新型コロナウイルス感染対策の共通点

2020-05-01 11:52:02 | 工程表
 福島第一原発は、設置当初携わってきた当時の副社長は、経済性優先主義で進めてきた。スペインの設計のまま設置するために、標高35mの地盤を10mまで切り下げて設置した。スペインに設置する設計では、海水をポンプで35mもくみ上げることができないためだ。これを変更すると莫大な費用をGEから要求されるからだった。このように少しの設計変更でも、莫大な費用を要求されるので、言うなりに設置したのが福島第一原発なのである。つまり、経済性最優先で、安全は二の次であった。さらに、津波被害を受けるとの調査報告があり、他電力は盛土などで対策を行ったのであるが、東京電力は柏崎の事故により、数十億円がかかっているので、後回しにすることを決定したが、事故発生の1、2年前のことであった。この決定を下したのが当時のこれまた副社長であった。また、非常用発電機を地下に設置しており、さらに予備発電機も地下に増設してしまっている。事故後も税金を投入して事故処理を行っているにもかかわらず、東京電力は、データは企業秘密であるとして提出を拒否している。考えられない思考と行動と言わざるを得ない。

 さて、今回の新型コロナウイルス感染対策であるが、台湾の措置の素晴らしさは、特筆すべきであろう。政権内に専門家を配置しており、民間の知恵もすぐに取り入れて対応している。韓国も当初はもたついたが、2015年のMERSの経験もあり、PCR検査は人口当たりにすると日本の11倍の検査能力を持つに至っている。日本はやっと1日8千件の検査である。ドイツは1日13万件ほどの検査ができるというから日本の16倍で驚きである。医療報酬はというと、日本が1日一人3千円という。韓国は医師には最大5万円、看護師には3万円が支給される。フランスは感染拡大地域の医療従事者には18万円という。このように、検査件数や医療費が一桁以上、バカげたほどに日本は低く抑えられている。

 また、ドイツではベッドを空けると1床につき1日6万5千円の補助が、集中治療ベッドを設置したら1床につき580万円が支給されるという。日本では、軽症者がホテルに宿泊するには、日常品は自前で用意しなければならないが、韓国では国がセットで支給している。人口10万人当たりの集中治療が受けられるベッド数は、ドイツ30床、イタリア12床、日本は5床という。

 国の最大の役割は、国民の命を守ることである。経済もそうではあるが、上記のように、優秀な諸外国と比較してみると、日本は「何とかミクス」などと銘打って、古くから警鐘が鳴らされてきた感染症に対して、準備を怠ってきた実態が明白になった。明らかにバランスを欠いていると言わざるをえない。

 今回はBCG接種に救われた形になっていると思われるが、次のウイルスにもBCGが効果を発揮できるかは分からない。日本の与野党ともに優先順位、つまり最重要事項が何であるかを理解しているようには、まだ見えてこない。