土木の工程と人材成長

土木建設の工程管理や組織運営、そして人材成長の話題や雑学を紹介します

中野剛志 目からウロコが落ちる奇跡の経済教室 基礎知識編 を読む

2020-07-31 08:05:21 | 工程表
 ある人から中野の本を勧められた。アマゾンの書評が200件も寄せられているのをみると、相当評判の高い本だと言える。半分まで読んだところで、本当に目からウロコが落ちるような思いがした。しかし、読み終えると、中野はモノの表面しか見ておらず、側面や裏側は勿論、中味も見ずに論じる人なのだなと思った。皮相的(表面的)なのである。
 
 中野は、デフレ脱却には札を刷り消費税率を下げればいいという。簡単なことだとも。だが、まず資本主義はインフレを前提として成立するものであり、資本主義がこれまで世界を広げて拡大してきたが、水野和夫が今や辺境がなくなったので、資本の行き場がなくなったという論をどう解釈するのだろうか。第一、中国でも日本でも札を刷りすぎて信用がなくなり、政権が崩壊した例はいくつもある。

 次に現代の人々は豊になり(貧しくてモノが買えない地域もあるが、これらの地域は経済活動の埒外なので、この論からは取り敢えず外しておく)物あまりと共に、環境意識の高まりで、然程物に執着しなくなっていること。

 また、100年前の日本では、9割が一次産業に携わり、人件費が8割を超えていたのだが、現在、農業従事者は5%を切り、人件費は、ロボットとコンピュータ、AIが取り替わって、人件費の割合が逆転していること。ことに日本のITへの対応の遅れが致命的であったこと。また、携帯電話やゲームソフトをはじめとする創造などの無形資産の割合が高くなっている現状をどう捉えるのかが欠落している。

 ジャック・アタリが「21世紀の歴史」の中で、世界都市の変遷を述べ、東京も8、9番目あたりの世界都市になるチャンスがあったが、思考の欠落でそうはならなかったことなどの歴史分析から、自然と中野の反論になる内容が書かれている。

 佐伯啓思が日経新聞に書いているように、ドルが基軸通貨で、世界がドルを使うので、刷ったドル札の6割が米国に帰ってこないこと(つまり、米国は札を刷るだけでモノが買えることになり、経済強者として君臨し続けることが可能であること。だらか、中国は一帯一路で、元を基軸通貨にしたいと狙っているのだろうが、そうやすやすとはいかないであろう)。ドルを刷ってもかまわないのは、各国が基軸通貨として使ってくれているからである。それでも節度(限界)はあるのだろうが。円決済はどのくらいなのか知らず、確たる証拠もなしではあるが、恐らくドルとは比べものにならないのではないか。

 中野への反論は、例えば前記アタリの「21世紀の・・・」に、世界の経済の変遷が詳しく書かれており、それらから中野論を崩す内容を多々読み取ることができる。

 中野が言うような、そんなに単純なものではない。自然はE=mC2のようにシンプルに表わされるが、その自然の中で進化してきた人間は心を持ち、複雑かどうかわからないが、少なくとも単純ではないと言えるだろう。

 ただし、単純にすがりたいが故に、政治・軍事・経済など、ほとんどまったく理解していないトランプが大統領になったりすることはある。現代の風潮なのかも知れないが、中野もこんな病に罹患しているのではないだろうか。

命とお金

2020-07-24 09:22:09 | 人生経営
 「命とお金とどっちが欲しいか?」と聞かれると、どっちと答えるだろうか。聞かれるまでもないだろう。「どっちが大事か?」と聞かれると難しくなってくる。状況が変数として入ってくるからである。

 コロナ禍で、倹約財政を推し進めてきたドイツのメルケル首相は豹変し、コロナ対策の積極財政に切替えたという。消費減税として付加価値税率19%から16%に、食料品などへの軽減税率は7%から5%にといった具合だ。しかも、これまでメルケル首相は、南欧諸国に対して厳しい財政健全化を迫ってきたのが、コロナ対応復興基金を創設し、経済的に豊かなEU加盟国が財源を拠出し、貧しい加盟国を支援するという(日経2020.7.16,7面)。また、先にも書いたが、ドイツでは 新型コロナ対策として、2万8千床を4万床まで増やし、1床空けると65,000円の補助が、集中治療ベッドを増設すると一床580万円が給付されるという(NHK放送)。メルケル首相は国民の命をまず守る政策を、金を惜しまず断行し、次にEU全体の経済支援を身を切る思いで決行している。拠出金の最大は、当然ドイツになるからだ。メルケル首相は科学者でもあり、感染症なるものがどういうもので、どんな対策をとればいいのかを十分理解しているのだろう。

 片やある国は、新型コロナ担当に経済再生大臣を指名し、第二波に襲われているにもかかわらず、旅行者にお金を出すという愚策を敢行している。この国の政府は、命とお金の意味をまったく理解していないし、科学的知見のかけらも見られない。リーダーがお友達を優先する政治を行っているので、税金の使いかもおかしいし、閣僚も、そして官僚も忖度行動しか取らず、目も当てられない状況が進行している。国の最大の責務は、国民の命を守ることであるが、これすら分っていないように見える。

 「危機時には常時とはことなる思考と行動をすべき」とは、初代内閣安全保障室長であった佐々淳行氏の講演で聴いた言葉である。今でも鮮明にその言葉から受けた衝撃を覚えている。まずは、今が危機時なのか常時なのかの見極めがスタートとなる。メルケル首相から学ぶことは多い。

 ただし、パンデミックはこれまで何回も繰り返されており、また、未来に発生するという危機が叫ばれ、識者からは注意喚起の声も上がっていた。危機時の対応では遅い場合もある。PCR検査体制の脆弱さも遅れのひとつである。これからは南海地震対策も新型コロナ対策と並行して進めていかなければならない。なかでも、津波被害が最大だ。どうすればいいのかの対応策は見えている。国は「国民の命と経済のバランス」を考えながら、個人は「命とお金」の究極の選択が迫られている。対応が遅れないようにしたいものだ。

なぜ子供に読み聞かせをすれば脳が成長するのかを「プルーストとイカ」から読み取る

2020-07-03 13:43:35 | 人生経営
 4人のこども全員を東大の医学部に入学させて佐藤亮子氏は、3歳までに3万冊を読み聞かせたという。

 では、なぜ読み聞かせが、子供の脳を活性化させ成長させるのかというと、メアリアン・ウルフの書いた「プルーストとイカ」を読めばわかってくる。曰く、言葉は脳の多くを使い、聞いた言葉によって脳が抽象化を行うからのようだ。それだけではない、同書について立花隆が「非常に面白い」といい、山形浩生が「これはすごい本で、驚異的な本だ」といい、養老孟司が「多くの人に読んでもらいたい書物の一つである。そうすれば、安易に小学校で英語教育を、などといわなくなるだろうと、私は思っている」といっているように、その射程は広く深く遠い。

 同じ親の子供でも能力の発揮が異なる。また、ある人が獲得した知識は、子孫に遺伝子では伝えることはほぼできず、それぞれの本人努力が必要であること(人間はこの意味で、知能についての能力獲得は、平等に生まれてくると言ってもいい)。

 これらの他、英語、中国語、日本語が脳のどの部分を使っているのか(ここを読むと、前記の養老孟司の言っている意味がわかってくる)、などなど、「プルーストとイカ」を読むと面白さと驚きに襲われる。