土木の工程と人材成長

土木建設の工程管理や組織運営、そして人材成長の話題や雑学を紹介します

感情と認知と仕事

2018-08-22 09:32:26 | 人生経営
 日経コンストラクションでは「成績80点の取り方」という記事が時々掲載される。これを題材にして人前で話すことがあるのだが、今年は81点82点と85点86点の80点前半と後半点獲得工事について夫々2件ずつを、全国30箇所ほどで紹介してきた。最初のころは4件の工事内容と特徴だけを話していたのだが、30回に近づいた終わりの方になって気がついたことがあった。それは、80点前半の2件の工事は技術に関して優れていたが、80点後半点を獲得した2件の工事には感情が絡んでいると言うことであった。
 
 例えば85点工事は、発注者が工事現場内部で協議している内容を詳細に把握しており、また通常は受注者サイドで決めていく段取り等の内容についても発注者が感心しながら把握しているのである。この現場代理人の発注者を巻き込む力量には並々ならにものがあると思った次第。

 方や86点工事は現場内部の感情マネジメントが優れていた。作業員さんの家族をも巻き込み、現場に家族の書いた幟旗を立てていた。例えば「汚れた作業服を見れば大変さがよく伝わります。怪我には十分気をつけてね」とか「お父さんの頑張る姿は家族の誇りです」、「今日も無事故で帰ってきてね」など、読んでいるとウルウルとしてくるものが10本近く現場に掲げられているのである。記事では、「お互いを気遣い、現場の連帯性を高め、〇〇家の人々の空気づくりをしている」と書かれている。

 ところで、成人発達理論を研究している加藤洋平は、「感情と認知は切り離すことができない。私たちの感情は、何かしらの行動を常に伴う(発達理論の学び舎、Vol2,P19)」と述べているが、80後半点獲得工事の2件は、まさに最先端の研究と符号していると言えよう。

 ホック・シールド「管理される心―感情が商品になるとき」、世界思想社、2000.4は、「感情を、売り買いする時代。乗客に微笑むスチュワーデス。債務者の恐怖を煽る集金人。彼らは肉体労働者や頭脳労働者であるまえに感情労働者である。丹念なインタビューをもとに、商品化される「心」を探究する」書と紹介されているが、これらの極端な職業だけでなく、普通の仕事でも感情が大切な要素であることは間違いない。AI(人工知能)は、肉体を持たないが故に感情が無いと言われるが、感情は人間にしか取り扱うことができない。これからの時代の仕事には、感情がより先鋭的なものとなるのだろう。

今時の土木と技術者の仕事

2018-08-11 15:45:32 | 人生経営
 国土交通省は、「建設産業政策2017+10」を発表している。それによると、(1)建設部門で働く人達の賃金を上げること、週休2日制にすること、建設で働く人を大切にすること、(2)ICT施工を推進すること、(3)設計と製品の品質を上げることを謳っている。

 (1)は建設業で働く担い手を確保することが狙いだろう。(2)は米国の8割と言われる我が国の建設生産性をICTによって上げること。(3)はコンサルタントの設計成果の4割近くに不具合があるのを改善すること、また施工時にはプラスティック製品かと見まがうばかり、見栄えの良いコンクリート2次製品の劣化が激しいので、耐久性を上げることへの対応ではないだろうかと推測する。公共建設界の変革が伺える。

 ところで日本人口は百年前の3千万人から1億2千万人まで増加し続けて先年ピークを迎え、百年後は数千万人にまで減ると言われている人口減少時代が進行している。さらに2045年、AI(人工知能)が人間の脳力を超えると言われているシンギュラリティ(技術的特異点)を目の前に控えている。我々は大変な激変の時代に生きていると言えよう。

 測量では、私の高校時代つまり50数年前は鋼製巻尺で距離を測っていたが、その後光波で、そしてドローンでと移り変わり、今やレーザー測量まできた。先日レーザー測量の地形図で数日間山の中に入って地質調査を行ってきたが、レーザー測量した平面図は、山の中でも自分がどこにいるのかがすぐに分る。しかも、地質は四万十帯の砂岩泥岩地帯の山であるのだが、等高線がギザギザした箇所はすべてが砂岩の露頭なのである。つまりドローン測量の精度は10cmだが、レーザー測量の精度はわずか5mm以内と言われており精度が高いのである。だから、砂岩が露頭している箇所の等高線はギザギザで表されており、地質状況を反映した平面図になっているわけである。これなら地質技術者はいらなくなるかも知れないと思った。レーザー測量恐るべしである。

 さらに、AIは、トンネル切羽の安定度判定やコンクリート表面の善し悪し、つまり鉄筋の腐食に耐えるコンクリートが打設されているか、そうでないかも判定する。このように、どんどん技術者の代わりをレーザーが、あるいはAIが行うようになってくると、技術者の仕事が大きく変ってくるであろう。

 では、土木技術者としてどのような心構えをしなければならないのか。どのような能力開発が求められているのであろうか。新しいAI技術に仕事を奪われないように、一人ひとりの成長が求められているのであろう。まさに大変な激変の時代に我々は生きていると言えよう。