土木の工程と人材成長

土木建設の工程管理や組織運営、そして人材成長の話題や雑学を紹介します

地震学者らの変?

2018-11-22 18:03:24 | 人生経営
1 地震は破壊説
 「南海トラフ巨大地震‐その破壊の様態とシリーズについての新たな考え‐(2010 年9 月8 日「地震」投稿,2011 年7 月15 日受理)」と題し、東京大学地震研究所の瀬野徹三教授は、「南海トラフ全体にわたる震源断層面の『破壊』の様態については・・・」としている(http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/seno/Papers/jisin.nankai.eq.pdf)。

2 地震は摩擦説
 一方、京都大学におられた、カリフォルニア大学サンタバーバラ校谷本俊郎教授は、「実は地震というのは『破壊』ではなく断層面の『摩擦』の問題なのです。」と、2012年7月26日京都大学クオリア研究所で講演している。さらに、地震学者は、地球の複雑さが余りちゃんとわかっていない。地震学者と工学者とのギャップがある。予算は(当面は東北ではなく)、本当は南海トラフにかけるべきだ。」とも述べている。
(http://www.goodkyoto.com/data/File_Storage/agora03.pdf)。

3 摩擦に少しの破壊も伴う説
 私の軍配は、東大の瀬野教授ではなく、元京大の谷本教授に上げたい。谷本教授は、岩石の破壊時の歪が10のマイナス2乗から3乗くらいなのに対し、断層歪は10のマイナス5乗から4乗で起こっている。だから地震は破壊ではなく摩擦なのだと、具体的な数値を上げて論じている。ただし、私としては分岐断層破壊を起こしている地震については、摩擦を主としながらも、連動して少しの破壊を伴っているとしたい。

4 深いスロースリップと浅いスロースリップ
 東京大学地震研究所の小原一成教授は、東北大地震のあと、「スロークエイクの直後に巨大地震が起きて衝撃を受けた。エネルギーを解消する(エネルギーを溜めないための現象)ものであり、地震の引きがねになるとは思っていなかった(地震を起こさない現象だと思っていた)」と、2013年9月1日放送のNHKスペシャル「MEGAQUAKEⅢ 巨大地震 南海トラフ 見え始めた“予兆”(http://www.at-douga.com/?p=8807)」で発言していた。 

 この先生は、深い箇所と浅い箇所で起こっているスロースリップの意味をまったく理解していない。つまり、プレートの沈み込みの深いところでは、温度が1000度前後になるので、プレートが軟らかくなり、部分的には溶けているのである。これが深いところで生じるスロースリップである。だから、エネルギーを解消しているのである。しかしながら、東北大地震発生前に観測したスロースリップは、浅いところで生じたものである。工学的知見があれば、これは地震が発生する前兆であると認識できたはずである。崖が崩れる前には、小石がパラパラと落ちてきたり、岩石やコンクリートテストピースを油圧機械で破壊する時に、破壊の前に岩石やテストピースの表面に、ピリピリとひび割れが生じてくるが、これと同じ現象なのである。だから、浅いところでのスロースリップは危険を知らせるものであると認識できたはずである。しかし、小原教授には、工学的知見が無かったのか、冒頭の発現になったものとみられる。発言を聞いていて、なんとも、やりきれない思いがした。

 「地震予知2/2」として、2012年12月14日に第26回科学技術映画祭入賞作品がYouTubeで公開されている、「岩石破壊実験での破壊前の表面ひび割れ」を見て欲しいものだ(https://www.youtube.com/watch?v=dZ4VMO79oDI)。
 
 2018年9月1日21時から放送されたNKHスペシャル「南海トラフ巨大地震―迫り来るXデーに備えろ」でも、東北大学の高木涼太助教が、「スロースリップが起こることで、着実に巨大地震発生域の力をためている」との発言に、件の小原教授がその間違い論にのっかり、解説していた。「地震を起こす力」は、スロースリップでも少しは増すが、主体は海側のプレートの沈み込みで生じているものであり、スロースリップは真の原因ではなく、沈み込みの結果生じている副次的なものなのである。依然として、この番組においても、小原教授はスロースリップの性格を、まったく理解していないことを露呈していた。https://www.youtube.com/watch?v=332T74-U1f8

5 想定外ではない
 京都大学元総長尾池和夫氏は「東北大地震は想定外ではなかった
(http://www.goodkyoto.com/data/File_Storage/agora03.pdf)」と述べている。これはまっとうな論である。「冪乗、または累乗則関係は、驚くほど多くの自然現象の形態(関係)を記述する。多くの確率分布は、漸近的に冪乗則関係に近づくテールを持つ。こうした冪乗則は、株式市場の崩壊や大規模な自然災害のような極端にまれな頻度だと考えられる、極値理論と強いつながりがある。」、ことを学者なら知っておるべきだ。

6 南海地震は何時起きるのか?
 大方の地震学者による次の南海地震の発生は、2,030年とする説が多い(力武常次他)。南海・東南海地震間隔として、過去1、059年間に9回の発生で、117年±35(=83~152年)としているのもあるが、これによると1,946+(83~152)=2,029~2,098年の間に発生することになる。しかし、近い過去3回の341年間で3回発生しており、平均間隔は113.7年となる。慶長地震から102後に宝永地震、それから147後に安政地震、92後に昭和地震が発生している。プレートには富士山ほどの海山があり、凸凹しているので、一筋縄ではいかない。元高知大学岡村眞教授は、2,037年ごろとし、偏差を持たせている。

 島崎邦彦「地震と断層」東京大学出版会、1994年10月20日P65の「time-predictable model」により計算してみると、次の南海地震は、2,034から2,045年の間で発生すると読み取れる。これはあくまでも単独発生の場合であり、誤差は、測量時期の補正やデコルマの違いによるものと考えられる。ただし、次の南海地震は、過去300年ごとくらいに発生している連動地震になるかも知れない。連動地震の予測は困難であるが、海洋研究開発機構が「東海・東南海・南海地震の連動性評価」をしており、これに期待したい。
http://www.jamstec.go.jp/donet/rendou/report/search01.html

7 津波代表説
 京都大学防災研究所地震予知研究センターの安藤雅孝教授は、「南海道地震は近い(PP859-866)」と題し、「昭和南海地震は、安政地震より小さかった。隆起・沈降も少ない。津波からいうと、昭和は安政の3/4。次の南海道地震までの時間は、92年の3/4、つまり69年後(1,946+69=2,015年(?))に発生するとしている。 

 この安藤雅孝説はズサンと言わざるを得ない。論文タイトルの「南海道地震は近い」も地震学者がつけるような題ではないのではないか。                              
http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00578/1993/22-0859.pdf 

 P862 では、「・・・  安政と昭和の地震を、同じ条件で比較できる測定量は、①津波の高さ、②震度、③地殻変動、④有感余震の数であろう。このうち、地震の大きさ(地震モーメント)を最も正確に表すのは、①の津波である。このことから、南海道地震は安政地震の3/4の大きさであったと結論できる。しがたって、次の南海道地震までの時間は、92年の3/4の69(論文では63)年と求まる。1946年地震の69年後は2015年である。・・・」としている。論文中には17の図が掲載されているが、図名が入っているのが、2、12、15,16だけである。学会論文と思われるが、締切に合わせて慌てて書いたのであろうか。論文の形式事態も杜撰であるが、論文中で安藤は、「地震の大きさ(地震モーメント)を最も正確に表すのは①の津波である」としているが、「津波の高さは、地震発生時の海底の 地殻変動の向き、大きさに依存する」ので、必ずしも地震の大きさとの相関関係を正確に把握することはできない!

 場所によって、沈み込みの角度や海山の有無など、地震の大きさ以外の要素によって津波の高さが規定されるので、安藤の解釈は間違いだと言わざるを得ない。安藤は、月刊地球、号外No24、海洋出版、1999の総論を書いているが、論文「南海道地震は近い」の内容は、まったく信じられない論である。

8 巨大地震の発生予測
 統計(ビッグ・データー処理)学者は、巨大地震の数が少ないので、予測は困難としている。それは、そうだろう。 

9 地震予知
 元東京大学上田誠也教授には「地震は予知できる」岩波科学ライブラリー、2001.6.22がある。同じ東京大学のロバート・ゲラー教授は、「日本人は知らない『地震予知』の正体」双葉社、2017.1.13では、「地震予知は当たらない」としている。元東大村井俊治教授には、「地震は必ず予測できる!」集英社新書、2015.1.16がある。この他、地震予知について、当たる、当たらない論が沢山あるが、眉唾ものも多い。

10 南海トラフの巨大地震モデル検討会の言 
 「平成24年8月29日(第二次報告)津波断層モデル編―津波断層モデルと津波高・浸水域等について-」では、「このモデルは、フィリピン海プレートの沈み込む速度から見ると、平均すべり量は約200 年分の量に、大すべり域は約400 年分、超大すべり域のすべり量は約800 年分の量に相当する。なお、プレート間の固着率は1より小さいと考えられ、実際には上記の年数より多い年数を要するものと思われる。本検討会の津波断層モデルは、次に発生する可能性の高い津波断層モデルを検討したものではなく、南海トラフで発生しうる巨大地震の津波断層モデルである。このような津波の発生頻度は極めて低く、その発生時期は不明であるが、発生すれば甚大な被害をもたらす最大クラスの津波である。
「南海トラフの巨大地震モデル検討会(第二次報告)強震断層モデル編-強震断層モデルと震度分布について-平成24年8月29日」
http://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/model/pdf/20120829_2nd_report05.pdf

 「今回の強震断層モデルは、フィリピン海プレートの沈み込む速度から見ると、東から順に、約150年分、約150 年分、約170 年分、約80 年分に相当し、日向灘域を除くと、強震動生成域のすべり量の大きなものには、約300~350 年分の年数に相当するものである。
本検討会の強震断層モデルは、次に発生する可能性の高い強震断層モデルを検討したものではなく、南海トラフで発生しうる巨大地震の強震断層モデルである。
また、プレート間の固着率は1より小さいと考えられ、実際には上記の年数より多い年数を要するものと思われる。このような地震の発生頻度は極めて低く、何時発生するかは不明であるが、発生すれば甚大な被害をもたらす最大クラスの地震である。しかしながら、今回の強震断層モデルは、震源断層全体の地震モーメント等を定めてから設定する方式のもので、設定するパラメータの幅が大きく、想定より大きな強震断層モデルとなっている可能性も否定できない。また、震源断層近傍での強震動の強さの評価は、被害想定を行う上で極めて重大な課題であるが、震源断層直上での強震動を評価するための観測データが殆ど無いことから、その妥当性の評価が十分に行えているとは言い難い面がある。」と書かれている。
 が、私の単純頭には、何を言っているのか、さっぱり理解できないでいる。

11 活断層学者の変?
 熊本地震は2016年4月14日21時26分に発生したが、1ケ月後の2016年5月4日22時~民放の番組「報道ライブ」で、活断層研究の第一人者とされる東洋大学渡辺満久教授が、「①私が地震委員会にいる時には、布田川と日奈久はおなじ活断層としていた。ところが、私が委員を抜けると二つはバラバラにされていた。同じ活断層だとしていたら、最初の地震は前震であることがわかったはずだ。②活断層が阿蘇山まで続いていることは知らなかった。」と発言していたのにも驚いた。①はいい。しかし、②は、蘇山で消えているのは、阿蘇山の噴火によるものであり、これを知らない人が「活断層の第一人者」とは、まったく不思議な国である。

12 18分前に東北大地震の津波5mを把握していながら・・・?
 独立行政法人防災科学技術研究所の金沢敏彦氏は、東京大学地震研究所が東北大地震発生の13分後に5mの津波を観測しており、その観測から18分後に津波が海岸に到達したとテレビで発言していた。このことは、2013年6月の地震ジャーナルの28から33頁にも書いている。どうして津波が海岸に到達する18分前に5mの高さを観測していながら、地域の人達に知らせることができなかったのであろうか?
http://www.adep.or.jp/public/img/55.pdf
この金沢氏の論文も図の番号がおかしい。図7は8だし、図8は7である。

13 東北大地震発生の1年前に宮城県沖地震発生確率99%と発表していた!
 文部科学省のホームページなどを見ると、東北大地震発生の1年前に、99%の確率で地震が発生すると報じている。どうしてこれが活用できなかったのだろうか?
http://www.jishin.go.jp/main/pamphlet/leaflet/leaflet.pdf
http://www.shimalpg.jp/image/zishin3.bmp

14 熊本地震発生前年と10年前の新聞には?
 熊本地震発生約1年前の2015年3月15日付西日本新聞朝刊では、「日奈久断層帯、発生確率は全国一。全国187断層のうち、30年以内の発生確率が最大16%と全国で最も高いのが、日奈久断層帯の八代海区間(約30キロ)だ。」と報じている。
http://www.nishinippon.co.jp/feature/attention/article/156892
また、「お母さんが10年前くらいからこの記事とってたらしい…やべえ」として、「熊本地震、九大が10年前に予想していた!日奈久断層に関して空白域と言及」の新聞記事がアップされている(http://okutta.blog.jp/archives/2531739.html)。

必達工程の最近の進化過程

2018-11-19 18:06:59 | 工程表
 ICT施工について徳島県美馬町の高木建設で聞いたところによると、やはりとっかかりは面倒くさい、というか0からスタートなので時間がかかるし、モタツクとのこと。これもごく自然のことだろう。それを突破するかしないかが人生の分かれ目になる。

 私が推奨している「必達工程」にしても、最初は少しの学習時間を取る必要がある。ただ、難しいものではなく、視点の違いを理解できるかどうかだけなのだ。取組んでみると、早いし、楽なことが実感できるだろう。

 「ICT」にしても「必達工程」にしても、最初から成熟はしていないので、使いはじめの方では不具合が出てくる。だから双方とも進化し続けている。モノゴトは、何でもそうだろう。

 ところで、発明の4つの成功要因は、「経済性、ステータス、既存のものとの互換性、受け入れのメリットの見分けがつきやすいかどうか」だと言う(ジャレド・ダイヤモンド「鉄・病原菌・銃(下)」草思社2012.2.10,PP71-72)。これを「必達工程」に当てはめて言えば、経済性は「管理が短時間で済むこと」、ステータスは「NETISを取ってもらうこと」、互換性は「まもなく総合工程表と連動するだろうこと」、メリットは「工程の見える化」だろう。この4つの成功要因の内、経済性とメリットは達成しており、総合工程表との連動は間もなくクリアできるだろうし、NETISがまだ未達だが、これも時間の問題だろうと思う。

 ICT施工については別の切り口になるが、「トレンドとして」、「自分にとって」、最後に「それぞれの現場の適合性」について考えることになるのだろう。

保守思考と革新思考(ICT施工に思う)

2018-11-18 09:46:55 | 人生経営
 建設業界ではICT施工が進展している。しかしならが、これに抵抗する思考を持つ人もいる。革新への抵抗自体は自然のことだろう。

 ただ、人の行動を大雑把に言えば、短期的には保守的に行動し、長期的には革新を目指して行動していると言えると思う。

 さて、前回にも紹介したジャレド・ダイヤモンドの「銃・病原菌・鉄」草思社 2012.2.2にはこう書かれている。

 「アメリカ先住民のナバホ族は、ヨーロッパ人がアメリカ大陸にやってきたときには、何百かいた部族の一つにすぎなかったが、彼らは、新しいものを柔軟に取り入れる気質だったため、現在では合衆国でもっとも人口の多いアメリカ先住民となっている」P81。

 また、「ニューギニアでは石器時代そのままの生活をしていたのだが、1930年代にヨーロッパ人がやってきてコーヒーを植えるのを見たチンブー族は真似をして裕福になり、製材所を営む者も出てきた。対象的にダリビ族は生活を変えようとしなかった。現在では、革新的なチンブー族がダリビ族の居住地に進出して農場を経営し、ダリビ族の人びとを労働者として使っている」P80。

 このように、保守思考と革新思考では大きな違いが出てくる。革新の全てがいいというわけではないだろうが、歴史に学ぶことは大事なことだと思う。

高木建設のICT施工見学記

2018-11-16 11:18:49 | 建設経営
 徳島県美馬町にある高木建設のため池でのICT施工の見学に行ってきた。実は、昨年も同じ現場を見学していたので、今回は引き連れていった5人の案内役だなと思っていたのだが、高木建設ではトプコンの自動追尾測量機「杭ナビ」やVRの購入、現場へ大型モニターを持込んで説明するなど、時々刻々激しく変化しているのを目の当たりにし、進化し続けていたのには驚いた。

 5人の参加者には、実際にコマツのMCバックホウに搭乗して操作しながら、ICT施工を実感してもらった。特に「杭ナビ」を使うと測量が一人で出来、楽になることも体感していただけたのではないかと思っている。

 高木社長からは、ICTに取組んできた他社の情報も聞くことができた。中でも高木建設は入力から自社機械施工、管理と一気通貫で取組んでいるのには改めて感銘を受けた。高木社長が力説していたのは、管理を外部委託するのは目先では安く楽なのだが、中長期的には高くつくし、なによりも人材育成には繋がらないのが外注の最大のデメリットではないかとのこと。これは、やってみた者では分からない、本質を突いた見解であると感じ入った。

 さらに、先行各社ともソフトの選定には試行錯誤をしており、無駄と思えるような投資をしていることが分かった。が、新しいことに取組む場合は、金額面においても、また学習においても、そのような紆余曲折があるという、当たり前に近いと言うと語弊があるかも知れないが、大変貴重な話を聞くことができた。千金に値する価値ある話をいただけたと思う。

 今後は高木建設にご教示をいただきながら、ICTに向けて社内チームの連携を深め進めていかねばと、改めて決意した次第。

 ところで、ジャレド・ダイヤモンドの「銃・病原菌・鉄」草思社 2012.2.2では、早期に農耕に取組んだ部族の人口が増え、器具や武器を発明し、回りの部族を攻め、あるいは従えて行ったという人類の歴史を描いてくれている。我々建設業界当てはめてみると、ICTを制するものが、業界を席捲し、そうでないものは、劣後になり疲弊する運命が待ちうけているのではないかという感じがしてきた。歴史と賢者・先行者から学ぶことこそが、成長し続けていける道だと、今回の視察で改めて思った。

 人材育成に関しては、例えば3Dではドラエモンを若い人に描かしならが、楽しませながら教え、育てているのに感服した。人材育成の勘所を押さえているところも素晴らしい。

主体客体インタビュー

2018-11-06 11:37:16 | 人生経営
 成人発達理論の大家、ロバート・キーガン「なぜ人と組織は変れないのか」英治出版、2013.10.31,PP37-39に、「主体客体インアビュー」という、大変興味深い方法が書かれている。

『「主体客体インタビュー」とは90分の面接調査である。

ある人の知性レベルは、自分が「所有している」思考や感情(=その人が客観視できる「客体」としての性格をもつ思考や感情)と、自分が「所有されている」思考や感情(=その人を動かす「主体」としての性格を持つ思考や感情)がどのように線引きされているかによって決まる。このような意味で、「主体客体」という呼称を用いている。

主体と客体の境界線は、知性の段階によって異なる。知性のレベルが高まると、視界に入る要素(客体)が増え、視界に入らない要素(主体)が減っていく。

この点に着目して考案された「主体客体インタビュー」を活用することにより、ある人の知性をきわめて精密に評価し、ある知性レベルと次のレベルとの違いを明確に識別できる。

しかも、評価担当者による評価のばらつきはきわめて小さい。

面接での冒頭で、対象者に10枚の小さなカードを手渡す。そこにはそれぞれ以下の言葉を記してある。

(怒り、不安/緊張、成功、強い態度/確信、悲しみ、苦悩、感動、喪失/別れ、変化、重要)

最初の15分間、調査対象者に問いを投げかける。

「ここ最近、強い怒り(不安/緊張、成功・・・)を感じたのはどういうときでしたか?思い出して、カードに書き込んでください」

このあと、一定の手順に従って問いかけを続けることで面接は続く。

対象者が「なに」(なにに自分が怒りを感じたのか)を語り、それを受けて「どうして」(どうして怒りを感じたのか。なにが問題だったのか)を尋ねる。

このようにして回答を引き出す手法は、その人が現在いだいている思考様式を描き出すうえできわめて効果的だと、過去の研究によりわかっている。

熟練の面接担当者になると、問いかけを重ねることで、その人がなにを認識できて、なにを認識できないか(なにが死角なのか)を決定づける基本原則を明らかにできる。

面接での対話は録音されて、文章に起こされたうえで、所定の方法に従って解析される
この調査は、これまで世界中であらゆる年齢層と社会層の何千人もの人を対象に実施されてきた。

調査対象者のほとんどは、非常に興味深い経験だったと述べている。』

 ここで言う「客体」とは「メタ認知」に近いのだろう。2018年11月5日22時から、NHKクローズアップ現代で、「驚きのトランプ情報戦、個人ターゲットの手法」を放送していた。これによるとトランプ大統領は、ネットで有権者の感情を揺さぶり、自分への投票が有利になるように、金と時間を使っているようである。人は、自分の知りたい情報にアクセスするので、中に意図的にまぎれこましているフェイクも信じてしまうようになるとのこと。そんなことにならないためにも、「主体客体インタビュー」で定義するところの「主体」ではなく、「客体」の領域を増やしていく努力が一人ひとりに求められている時代に我々は生きているようである。