土木の工程と人材成長

土木建設の工程管理や組織運営、そして人材成長の話題や雑学を紹介します

ケン・ウィルバー「インテグラル理論」

2021-12-20 11:18:03 | 人生経営
ウィルバーの「インテグラル理論」は、2000年に刊行されており、原題は「A THEORY OF EVERYTHING」である。

邦訳は2002.9.20に「万物の理論」として岡野守也訳でトランスビューから。7年後の2019.6.30には「インテグラル理論」と改題して、門林奨訳で日本能率協会マネジメントセンターから発行されている。訳は後者が各段にいいが、後者の本はソフトカバーの上に縦長の装丁で400頁の厚い本となっているので、開くと元に戻ろうと閉じてしまう。物理的に読みにくいこと、このうえない。

(以前発刊された、エリック。ブリニョルフソンらの「機械との競争」日経BPマーケティング、2013.2.12も装丁は最悪であったが、それに続く悪装丁の本だ。ただ、書かれている中身は双方とも素晴らしく、まだの方は読まれることをおおいにお勧めしておきたい。)
 
P287では、「ロシア(ソ連)は表向きは近代国家であったが、その本質的な構造は古代国家であり、全体的な規則、一党による支配、指令による計画経済、集団主義的な理想などがその基礎にあった。そしてこうした体制のもとでは、個人の自主性に基づく資本主義的な市場は、発展することができない。そのため、市場経済に似たものが突然導入されても、近代国家へと発展していくことはなかったのである。その代わり、多くの面で、封建国家へと退行してしまった。さまざまな犯罪的軍事勢力やロシアンマフィアがはびこり、社会構造にも欠陥があるために、近代国家へと発展していくための苦闘は、今なお続いている。言うまでもなく、このような発達段階では、人権などはもっとも関心を引かない話題である。」

(ところで、ニュースでバイデン大統領は、「プーチンを『人殺しと思うか』の質問に「そうだ」と答えた。プーチンは、政権に批判を行うジャーナリストを7名ほど殺しているのではないかと報道されている。)

続けてP288では、「同じような発達論的苦闘が、中国本土でも起こりつつある。古代国家が、近代国家へと向かって、少しずつ、断続的にではあるが、変化しているのである。一般的に言えば、人権を主要な課題として設定しても、こうした発達を支えることにはならない。」
(中略)
「外面的な発達は、それに対応する内面的な発達がなければ、持続可能な形で実現することはできないのだ。」

新疆ウイグル地区の報人権抑圧報道の背景を説明しており、「なるほどな」と腑に落ちてくる。また、アラブの春が成功しなかったことや、さらに現在のアフリカや中南米の国々から移民を望む多くの人々がいる現象が理解でき納得できる。

何がどうなれば人類が平和に地球で住み続けることができるのだろうか。ジェンダー問題から深刻な環境問題まで、ウィルバーの「インテグラル理論」は、私たちが迷わない地図を提示してくれており、進むべき方向を示してくれているように思う。

ケン・ウィルバー「進化の構造」と「万物の歴史」ショート案内 ―ジェンダーから環境問題まで―  

2021-12-06 12:47:19 | 思考
「進化の構造(1)、(2)」は、1995年に米国で刊行されており、原題は「Sex, Ecology, Spirituality :The Spirit of Evolution」である。邦訳は春秋社から、1998.5.20に発刊されている。

「進化の構造」のP6では、「なぜ私たちは自分の自分の条件をもつとよくしようとしてガイア(大地)を破壊するのだろうか」と、現今の環境問題の本質をえぐり出している。

そして、P7では、「今、私たちの脅威は、表層の浅薄な力である」とする。

また、P12で、「進化は、進化自体を消し去ろうとしている。大地(ガイア)が私たちを育んできたことが事実なら、私たちはゆっくりとした陰惨な自殺を遂げていることになる」と言う。まさに「ゆでられカエル」の寓話が寓話でなく、私たちの身に直接降りかかってきていることを突きつけている。

温暖化により砂漠化が進行していると言われる。そこで砂漠を緑化することに反対する者はいないだろう。しかし、長期に緑化を進めて行き歯止めが効かなくなったらどうなるだろうか。黄砂はやっかいだが、含まれるケイ素が海に降って、それを栄養とするプランクトンが増え、魚がそれをエサにしており、日本の漁場が豊かなのだという。

アフリカのサハラ砂漠の砂塵にはリンが含まれており、アマゾンの熱帯雨林に栄養を与えている。砂の量は、年間2千万トンにも及ぶという。

なんとも複雑で、単純思考では物事が解決しないことを示している。システム原型を駆使する必要があるように思われる。

P14では、さらに思考を深めていき、「今、認識の危機に直面している」とする。それは、「世界観が時代遅れになっている」からだとする。


「万物の歴史」は、1996年に、「進化の構造」の要約版として発刊。原題は「A Brief History of Everything」である。邦訳は、1996.12.8に春秋社から刊行されている。

P75では、マヤ文明は周囲の熱帯雨林を枯渇させることで消滅したというのは、システム原型の「共有地の悲劇」を彷彿させ、さらに、「大部分は単純な無知から環境を略奪してきた。環境に対する無知。あまりにも愚かな無知。現代は多数のより強力な環境破壊手段を持っており、はるかに深刻だ」との指摘を、1996年に書いていたことに驚かされる。小さくは熱海の土砂災害を起こした、あまりにも土と自然を侮辱した行為により、多数の命が奪われたことに怒りを通りこして、無力感さえ覚える。

翻って、P77に書かれている「妊娠した女性も容易に使える堀棒や鍬農業時代は、ほぼ男女平等社会であったが、動物に引かさなければならない鋤を使う農耕時代になると、男社会へと移行していった」との分析は秀逸だと思う。「目から鱗」では表現しきれない驚嘆の「知の眼」を拓かせてくれる書である。この指摘は、ユヴァル・ノア・ハラリを超える史観ではないかと思う。ウィルバーの万物に目を注ぐ思考の真骨頂だと言えよう。

何がどうなれば人類が平和に地球で住み続けることができるのだろうか。ジェンダー問題から深刻な環境問題まで、ウィルバーの「インテグラル理論」は、私たちが迷わない地図を提示してくれており、進むべき方向を示してくれているように思う。