新68『美作の野は晴れて』第一部、新たな出発2

2014-11-24 12:45:39 | Weblog

68『美作の野は晴れて』第一部、新たな出発2

 ここで問題となっている宇宙背景放射というのは、宇宙の全方向からほぼ一様にやってくるビッグバンの残光といえる。その提唱者であるガモフは、宇宙が火の玉から出発しているのであれば、ビッグバンのときの超高密度による超高温からだんだんと冷えて、現在の温度は絶対温度で3ケルビン(摂氏でマイナス270度)前後になると考えていた。その後、彼の予言は「宇宙背景放射」として発見されるに至る。その値としては、波長1ミリメートルあたりのマイクロ波領域でもっとも強いこと、及びそのスペクトルから絶対温度で3K(ケルビン、絶対温度)であることがわかっている。
 1989年、アメリカにより、宇宙背景放射探査衛星(COBE)が打ち上げられる。
これは2.2トンの極軌道衛星であり、軌道長半径900キロメートルの太陽同期軌道を回ることになる。これに搭載のFIRAS(遠赤外絶対分光測光計)によるスペクトル測定では、測った値と予言されていたプランク分布(ビッグバン理論から予測されるマイクロ波の2.728K)が完全一致した。これにより、宇宙には熱平衡状態の名残が残っていたことがわかる。測定された宇宙背景放射の温度は、これまた搭載のDMR(差分マイクロ波放射計による測定で、それぞれの方向によって10万分の1程度揺らいでいる、つまりほんの僅かだけ異なることが発見された。これは、宇宙がゆらぎから形成されてきたことの証拠なのだとされる。
 話をアリゾナ大学での社会人への講義に戻して、クラウス教授の講義は続く。
 「さて、我々は宇宙の恒星がどうなっているかを調べるため、ダークマターの量から宇宙のエネルギー(E)を調べようとしていたことを想い出してほしい。そのために銀河団の重さを知りたかったんだ。たとえ巨大な銀河団だとしても、そのダークマターを含めた重さがわかれば、そこにある銀河Aが永遠に遠ざかるかどうかがわかるから、宇宙が膨張し続けるかどうかもわかる」。
 その「重力レンズなどによる質量Mの測定結果は、銀河Aを引き留めるのに必要な量の30%しかなかったんだ」とされる。この測定からは、運動エネルギーが位置エネルギーの3倍も大きいということになる。ゆえに、膨脹エネルギーがそれを引き留めようとするエネルギーよりも圧倒的に大きい。つまり、「通常の物質とダークマターの総量から、宇宙の全エネルギーはゼロより大で、永遠に膨脹する」と考えられる。
 ところが、「エネルギーがプラスになるというこの結論は、まちがいだということがその後わかることになるんだ」と同教授はいう。そのために、一般相対性理論を導き出そうということになって、その式が導かれる。そこでは、宇宙の曲率と呼ばれる、一種の時空のゆがみとの尺度として用いられている概念が使うのが便利だと考えられた。これを使うと、時空のゆがみ具合、つまり「宇宙の曲率」がどのような値になっているかにより表すことができる。これから出発して、宇宙のエネルギーの符号を調べるかわりに、宇宙の曲率の符号を直接に測れば結論が出るのではないか。
 そこで、黒板の隣に設置してあるOHPに、三つの宇宙像が写し出される。それには、宇宙背景放射の3つのゆらぎのパターンが描かれている。宇宙空間の曲がり方を幾何学で習っているみたいなイメージ図である。この宇宙背景放射の一つ目のゆらぎのパターンとしては、曲率が正なら平面が球のように丸まり、幾何学的に「閉じた」構造となる。これだと宇宙はやがて膨脹から収縮に転ずる。二つ目としては、その逆に曲率が負(ゼロより小さい)なら時空は双曲面のように「開かれた」構造になり、その場合のエネルギーはゼロより大きくなり、宇宙の膨張は永遠に続くという筋書となる。そして三つ目は、「平坦な宇宙」であって、これだと宇宙は開いてもいないし、閉じてもいないことになっている。およそこのように聴講生に説明してから、同教授はこう話を進める。
 「右下は開いた宇宙で、これが私たちの宇宙じゃないかとされているものだが、むらがずいぶんと小さい。真ん中ならぴったりだ。宇宙の見え方は平坦な宇宙と一致していたんだ。現在われわれは、宇宙の曲率は1%以下の誤差でゼロだと知っている。そして曲率がゼロだということは、宇宙の全エネルギーがぴったりゼロだということを意味する。運動エネルギーの和が位置エネルギーの和とちょうどつり合っている訳だ。エネルギーがぴったりゼロだというのは、一体何を意味しているのだろう。じつはこれは、宇宙は無から始まったということを示唆する最初の証拠だといえる。この事実は、宇宙がとてつもなくうまくできていることを示しているかもしれないんだ。つまり、宇宙をつくるのには、何のエネルギーも必要なかったということなのかもしれない。1000億個の銀河がすべてが何のエネルギーも必要とせずに生まれたとしたら、まったく驚きだ。」
 そこで、物理学者は、この宇宙の曲率を知るためには、宇宙マイクロ波背景放射、つまりこの宇宙に一様に漂っているビッグバンの残光を調べてみればいい。そのためには、天文学の観測技術を駆使することが必要だ。この宇宙マイクロ波背景放射は、1960年代、アメリカの通信衛星の開発と運営を担っていたベル研究所の2人の男、ペンジアスとウィルソンの二人によって、たまたま発見された。彼らは、通信の際に混入してくる雑音電波を除去する研究に取り組むうち、偶然に、どうしても取り除けない電波を発見した。
 これについて、ニューヨーク州立大学の日系3世である、ミチオ・カク教授の学生達への講義での解説にこうある。
 「さて、ビッグバンの二つ目の証拠は、宇宙マイクロ波背景放射だ。ここでニューヨーク州立大学の名前が登場する。ここの卒業生だ。ここのアーノ・ペンジアス・ベル研究所で職を得て、ニュージャージーで電波望遠鏡の責任者となった。星空を観測する最先端のアンテナだった。しかし、その好感度アンテナの設置中に不具合が見つかった。ノイズが見つかったのだ。ベンジアスと同僚のウイルソンは、はじめこのノイズは鳥のふんのせいだと考えた。たしかにニューヨークでは鳥のふんがある。銅像の上、セントラルパーク、あらゆる場所にそれは落ちている。だから、鳥のふんのせいに違いない。かれらはアンテナについて分を拭き取った。そして再び観測をはじめたら、ノイズが以前よりもさらに大きくなっていた。
 二人は何が起きているのかわからなかった。だが、ペンジアスがプリンストンで講演したとき、観測中にノイズをとらえたと話したところ、ロバート・ディッケという科学者がそのノイズは温度でいうと何度でしたと聞くので、大体3度でしたと答えると、ディッケはそれは鳥のふんか、もしくはビッグバンの証拠だと言った。結局ビッグバンの証拠であることが判明し、宇宙が誕生したときの残り火をとらえていたことがわかったのだ。こんにちでは人工衛星がこのノイズを調べていて、多くのデータが集まっている」(2015年4月の「ニューヨーク白熱教室」での、ニューヨーク州立大学の日系3世である、ミチオ・カク教授による講義「最先端宇宙論の未来」より)。
 さて、この宇宙背景放射を利用して、宇宙の曲率を直接測るために大規模な計測が行われた。2つの観測は、それぞれ「ブーメラン」、「マキシマ」と名付けられたグループによって実施された。ブーメランでの観測は,米国とイタリアの大学のチームが中心になった。1998年の12月から1999年の1月の約10日間、計測の場所には南極が選ばれる。こうすれば、南極大陸の上空を2週間かけてぐるりと回っても戻ってくれる。この地なら、こうやれば地球が自転しても、同じ方向からの電波が捉えられる。だから、付近の電波に邪魔されず、絶対温度で3度の電波を捉えることができると考えたのである。
 クラウト教授によると、その計測の模様は次のようなものであった。
 「その計測は上空で行われた。計測器は気球で上空に上げられ、ある方向にしぼって電波を捉えた。ブーメラン実験では、その観測結果がまとまったのはちょうど2000年のことだ。宇宙の小さな領域からマイクロ波を捉えることに成功し、それを画像化した。これは計測の結果を風景写真に重ねたものだ。宇宙背景放射の熱い部分と低い部分を色分けしてある。この温度のむらは、ちょうど宇宙の初期の物質の密度のむらに対応していて、このむらが後に銀河などを形成する核となる。実はこのむらの大きさの見え方が宇宙の曲率によって変わるんだ。計測されたむらの大きさがどの曲率に対応しているのかコンピュータによるシミュレーションの結果と比べてみた」(クラウス教授)といわれる。
 ここでちょっと戻って銀河団の重さを測ったときのことを思い出してみる。すると、通常の物質とダークマターの総量は、宇宙の曲率をゼロにするために必要な量の30%しかなかった筈だ。その内訳は、「見える物質」が約4%、ダークマターが約23%。したがって、これだと宇宙を構成する成分のまだ約73%が見つかっていないことになっている。それは、一体何なのだろうか。
 1998年、天文学者のグループ(ソール・パールマター、ブライアン・シュミット、アダム・リースの3人であるが、シュミットとリースは共同研究者なので、2チームであるとされる)が宇宙の物質がとのくらいあるかを調べるために、宇宙の膨張速度の微妙な減速度合い調べていた。遠い場所にあるおよそ50個の、「Ia型」(イチエー)と呼ばれる超新星を見つける。それらを観察して、どのくらいの割合で宇宙の膨張速度が減速しているかを調べるのだ。ここでの「Ia(イチエー)型」の超新星は、宇宙を測る時の尺度になる。ある超新星爆発で、その爆発の継続時間により最大の明るさがどれも同じ(一定)性質を持っている。これを使うと、非常に遠方の銀河での「Ia(イチエー)型」の超新星の爆発を捕らえ、その明るさを測る。その見かけの明るさから距離を知ることができる、つまりはその銀河の後退速度と比較することができるのだ。
 その観測データが発表されると、従来の宇宙論をひっくり返す程の大発見であった。その結果は、事前の予想をはるかに下回る速度でそれらの超新星が遠ざかっていることを突き止めた。というのは、横軸に超新星の赤方偏移(~地球からの距離)、縦軸に超新星の見掛けの明るさをとり、遠方銀河の超新星の明るさと後退速度(赤方偏移)を測ってゆく。
宇宙の膨張の速さが一定なら、赤方偏移は距離に比例するというのが、ハッブルの法則である。宇宙膨張のスピードが昔もいまも変わらなければ、天体の明るさは、距離の2乗に比例して暗くなる。それはそれを体した黒い線の上にくる筈である。ところが、実際に観測された結果は違っていた。それは、それより上の赤い線に来た。つまり、「Ia型」の超新星の明るさは、ハッブルの法則の場合より遠くで暗くなっている。つまり、赤方偏移と距離の比例関係は、わずかだがずれている。遠方の宇宙では、膨脹の速さが今よりも遅かった。
 これから、遠くにある超新星は昔の宇宙の膨張速度で遠ざかっている訳だから、遠くの超新星の速度が遅いというという観測結果は、とりもなおさず昔の宇宙の膨張速度が遅かったことになる。言い換えると、宇宙が膨張する速度は、時間を経るごとに大きくなっている、つまり宇宙膨脹は減速しているのではなく、加速していることをあらわしてしている。
 そして、加速するためにはエネルギーが必要であって、この重力に対抗して加速するためのエネルギーを「ダークエネルギー」と名付けた。この加速を説明するに足るエネルギーである、ダークエネルギーは、ダークマターの3倍くらいあるはずだ(NHK「宇宙を読み解く」シリーズの第14回「深まる謎:ダークマターとダークエネルギー」(2015年1月6日放映分)での放送大学の海部宣男客員教授(国立天文台・名誉教授)、放送大学の吉岡一男教授による、今日までの「考え方と観測事実」の系列の整理、その他より)。
 このような宇宙の加速膨脹はいつから続いているかというと、大体60億年から70億年位前、そのあたりから始まったらしい、と言われている。宇宙が広がるにつれ、だんだんと重力が薄まって力が弱くなっているところへ、空間の不変エネルギーであるこのダークエネルギーがその弱まりつつある重力に打ち克って、その力の膨脹で宇宙膨張の加速が始ま里、現在も続いているのではないか、というのだ。
 クラウス教授の講義は続く。「ところで、アインシュタインの一般相対性理論は、重力は引っ張り合う力だというばかりでなく、反発しあう場合もあることを教えている。そうすると、いったんはハッブルの宇宙膨張の発見で後景へ追いやられたかのようであった、あのアインシュタインが宇宙が潰れつぶれないためには(神とやらの力で宇宙が永久不変であるためには)、それを押し返す「斥力」があればいいと考え、「宇宙方程式」(時空のゆがみ具合に宇宙定数を加えたものが、物質が持つエネルギーであることを表す)に入れた宇宙定数が、今度は新たに加速膨張する宇宙を説明するために何らかの形で盛り込まれるべきということで、再びその概念が引っ張り出されてくるのである。
 この概念を用いて、原子でできている通常の物質どうしは重力で引っ張り合うが、もし、もし空っぽの空間にエネルギーが満ちているとどうなるか。その場合は、エネルギー自身が空間をおしひろげる斥力が働く。通常の物質だけがある宇宙で、かつてハッブルがやったように、宇宙の膨張を測ったとすると、物質の重力が膨脹を止めようとするから、その速度は減速していく。ところが、空間をエネルギーで満たすとどうなるのだろうか。その時は、銀河やガスなどの質量がおよぼす重力にさからって宇宙の膨張は加速するということが考えられている。
 それでは、先ほどの宇宙の膨脹速度が加速しているという観測結果を再現するためには、空間にどのくらいエネルギーが満ちていればよいのだろうか。2001年、NASA(アメリカ航空宇宙局)によりウィルキンソン・マイクロ波異方性探査機(WMAP)が打ち上げられ、宇宙背景方射の温度分布を全天に渡り観測される。その計算の結果が2003年に発表されると、その「ゆらぎ」の量はちょうど見つかっていなかった、つまり、宇宙の曲率をゼロにするのに必要な残り約73%に相当していることがわかったのである。なお、このデータでは、「宇宙の晴れ上がり」を「宇宙創生後38万年」だとしている。
 2009年3月に公表されたWMAPの5年間のデータ解析によると、宇宙創生時の宇宙の組成としては、ダークマター(暗黒物質)、ニュートリノが10%、電磁波が15%、原子12%だったと推定される。それが現在の物理学者の間では、宇宙の約72~73%の部分を「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)」なる名前を付けることによって何かの存在を想定し、その後も何とか観測する努力を進めている。残りは、ダークマター(暗黒物質)が23%、原子が5%の組成であると推定されている。なお、このあたりの最新データについては、京極一樹さんの著作「こんなにわかってきた宇宙の姿」技術評論社、2009などを参照させていただいた。
 ここに至って、この宇宙には「ダークマター」(暗黒物質)と並んでもう一つの「ダークエネルギー」がひろがっているといわれている訳だ。そして現在に至るまで、このダークエネルギーの存在を証明する程の観測はなされていない。その正体が何であるかはわかっていないので、これはまだ現代の物理学の最先端の、半ば仮説の段階の話といっていいのかもしれない。

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