尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

都立高入選ミス問題①

2014年06月04日 23時57分42秒 |  〃 (東京・大阪の教育)
 都立高校の入学者選抜において、学力検査の採点に多くの誤りがあり、当初の不合格が取り消されたという事例が相次いで大きな問題となっている。この問題については、こういうことが起こるのではないかと実は心配していた。そういう人も多いのではないかと思う。なぜなら、昨年に比べて入学者選抜から発表までの日程が一日少なくされていたからである。そのことは都教委のサイトでの「誤りの発生原因例」にも「学力検査から発表までの期間が3日間であるため、非常にタイトな日程での業務になる。」として3番目に挙げられている。(この「タイトな日程での業務になる」などという表現も、いかにも「都教委的」である。要するに「短すぎるから、何とかして欲しい」という現場の声を、このように書くわけである。)

 まあ、このブログに書いて全国に発信すると「予言成就」してしまうので、ここには書かなかったが、Facebookには入選当日におかしいのではないかと書き込んでおいた。「短い」ことも確かに問題なのだが、それ以上に問題なのは、「学力検査の日程を動かした事情」の方にある。次回以後に詳しく書くが、ここ10年近く都教委は「入選日程を2月23日に固定する」という方針を取っていた。これもどうかと思いますよねえ。だって、時には土曜や日曜に当たってしまうわけだけど、そういう年でも土日にやるのだろうかと誰でもすぐ思う。もちろん、教師は振替休日を取れるから、休日にやること自体はできる。文化祭などは普通土日にやっている。でも外部の人を呼ばないといけない文化祭などと違い、休日に検査をやると、電車のダイヤが違うとか、終わった後で中学の先生に報告や相談に行けないなどの問題もある。それより僕が思ったのは、「この日は皇太子の誕生日なんだから、いずれの日にか変えることになるんだろうけど、永遠に固定するようなことを言っていていいのかな」と思ったのである。(それは誤解されると困るので発言しなかったけど。)

 この方針が明らかになった年、僕はたまたま定時制課程の高校で教務主任をしていて、入学者選抜説明会に出席していた。だから「日で固定するのではなく、曜日で固定する方がいいのではないか」と質問したのだが、何と答えたかは忘れてしまった。どうせ都教委が現場の声を聞くわけはないので、僕も「一応言ってみた」というだけである。将来こういう場で、「あの時僕は言っておきましたけど」と書けるように。だから、昨年(2013年)2月に行われた選抜は、2月23日(土)に実施、28日(木)に発表となっていた。数年ずっと同じ。5日後に発表で、間は4日間だが日曜が入る。ところが、今年の入選では、なんと24日(月)に実施、28日(金)に発表と一日縮められていたのである。4日後に発表で、日曜を抜けば実質同じではないかとも言えるのだが、それは違うだろう。事実上日曜に出てきて採点や事務作業をすることもあっただろう。また学力検査が終わり次第、つまり1時間目の国語が終われば国語科は採点に入るが、文章問題や漢字の書き取りなど採点が一番大変なのが国語科である。明日は日曜で休みだと思えば、採点も今日頑張ろうと気合が入るだろう。

 今までの方針を貫徹するのなら、今年は23日(日)に実施、24日(月)は振替休日(授業なしで在校生も休み)、28日に発表となるべきだった。これだって「タイト」である。それはそうなんだけど、それがさらに短くされた。その理由がどの新聞にも出ていない。それは「東京マラソンと重なる」ためである。東京都においては、都立高校の入学者選抜よりも、(この方針ができた後に始まった)東京マラソンの方が大事なのである。では、発表を一日延ばせばいいではないか。しかし、そういうことはしない。乾いた雑巾をさらに絞るように、ひたすら現場に無理難題を押し付けるのである。わざと間違えた人は誰もいないだろうけど、この日程変更には皆納得していなかったに違いない。本当はその段階でマスコミが問題にすべきだったのである。(この日程が発表された2013年5月は猪瀬都知事時代で、東京都の最大の関心事は五輪招致にあり、東京マラソンが優先するというのは、ほとんど自明のことだったのであろう。)

 さて、そういう次第で、今年は問題が起こるのではないかと心配していたのだが、案の定大きな問題が起こってしまった。しかし、このようにどんどん広がるとはさすがに予想せず、時間が経つ中でこの問題は書かないことにしようかと実は思い始めていた。今日はその事情を簡単に書いて、次回以後に、まず「どんなことが起こったのか」を書き、続いて「これまでの入選のあり方を歴史的に振り返る」ということをしたい。その後、では東京の教育にはどういう問題があるのか、どうしたらいいのかを当面の対策と中長期的な対策に分けて書いておきたい。

 最近「東京の教育」に関して書いてなかったのだが、関心がないわけではないのだが、書いても意味がないというか、無力感に襲われるのである。でも毎日のアクセス記録を見ると、自己申告書などを取り上げた記事は今でも読まれている。だから問題意識を持っている人もいるのだろうと思う。今回遅くなったけれど書こうかと思ったのは、またまた「現場教員が悪い」みたいな情報操作を感じるのである。例えば「入試は、毎年行われていることから、学校や教員に「例年どおり」という慣れがある。」というのが、誤りの原因の最初に書いてあるのである。次が「高校入試は受検生にとって1回しかない機会であるにもかかわらず、教員が、自分自身が行う採点業務が受検生の人生に影響するとの認識が希薄である。」

 それはこの日程を決めた人に対してこそ言いたい言葉である。都教委はどうして東京マラソンを優先したのか。「高校入試は受検生にとって1回しかない機会」だと思っていたのなら、そして学力検査は23日に実施するという方針を取っているのなら、例年通り23日に実施するはずである。まず誰に責任があるかと言えば、この日程を決めた人ではないのか。この問題は、今まで体力の限界まで働き続けてきて、ついに過労で倒れたような状況と言っていい。「発熱」しているのは、身体が発している信号なのである。ここで教育政策を見直せと言う信号なのである。それが判らないようではどうしようもない。まあ判らないと思うけど、書き残しておきたいと思うのである。

 さて最後に、この問題を書かないでおこうかと思った理由を3つ挙げておきたい。最大の理由は、過去の入選日程がなかなか調べられなかったことである。ホームページでは調べきれない。情報開示請求するまでもなく、新聞の縮刷版を見れば判ると思った。各紙の縮刷版は東京版に拠っているので、東京のニュースは追えるはずである。翌日には「試験問題」と解説が載るし、発表日には「15の春にサクラ咲く」などという写真入り記事が載る。だけど、この縮刷版がなかなかないのである。結局国会図書館に行くしかなかった。しかも、必ずしも「季節ニュース」としての発表ネタは毎年あるとは言えなかった。重大事件が起きると飛ばされるのである。だから過去30年近くを調べるためには、朝日、毎日、読売をすべて見る必要があった。開架式ですぐ見られるのは、やはり国会図書館しかなさそうである。

 もう一つの理由は、自分が実は採点業務の経験が乏しいことである。最初は中学の教員だから、一緒に心配して見守る立場。何人かの生徒は必ず学校に来て、報告したり正解を聞くのである。高校に異動して採点を担当したが、21世紀以後はもちろん「入学者選抜」はあるものの、夜間定時制の独自入試や三部制高校の「面接・作文」だったりした。10年以上採点していなかったので、その後変ったことなどあるかもしれず、もっと適任な人もいるだろうと思ったのである。

 最後の理由は、「間違いは人間のやることだから絶対にゼロにはできない」ということである。だから「間違った場合は、あまりにも取り返しがつかない」ことは、最初からやらない、廃止するという方策を取るのが賢いのである。死刑制度とか原子力発電所とか。だけど、「入学者選抜」をなくすことはできない。「できるだけ大きな過ちにならないように方策をつくす」しかないのである。それは本来、担当する人間に任せておけばいいレベルの問題のはずである。でも、どうもその議論の方向がおかしい。またまた、この問題を利用して、さらに現場破壊に利用しそうである。そういう危険性を感じたわけである。だからやはり書いておこうと思った次第。数回連続になる予定。
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