死体が消えた夜/イ・チャンヒ監督
スペイン映画の韓国リメイク作品。大学教授の男は、年上でおそらく財閥系の妻のいいなり人生を送っていた。ところが大学の学生だった愛人が妊娠したのを機に、謎の新薬を用いて妻を殺害し、完全犯罪を目論んでいた。しかし死体安置所から連絡があったのは、死体が消えたという知らせだった。いちおう安置所に駆け付けると、やはり捜査の警官から疑われることになる。権力を持っているので警察署長などから圧力をかけてもらい、その場から逃げ出そうとするが、ある警官から執拗に疑われ尋問を受けることになるのだったが……。
様々な謎がある訳だが、過去へのフラッシュバックがこれまでのいきさつを明かすことになっていく。若い大学教授にも同情すべきところがあって、なにかこの殺人を正当化するような展開があるのかもしれないと、思わせるところがある。しかしながら物語はラストになって大どんでん返しで、すべての問題が解決されると共に、これまでの意味が明かされることになる。まさにこのためにこのミステリの設定があったとは。まあ、ほとんどの人はこのトリックに、してやられてしまうことになるのではなかろうか。
死体安置所の中のミステリなので、あんまり動きが無い設定のはずなのだが、過去から現在までつながっていくエピソードにこそ、大きな謎が隠されている。そんなことは見る方が知らないのだから、分かりようがないと言えばそれまでなのだが、そんな仕掛けや仕組みがあるなんてことを、考えた人の勝利である。まさにこれは人間の執念のようなもの、なのではあるまいか。ネタバレしては、この映画の魅力が損なわれることになるのでできないのだが、その核心抜きにこの映画の評価も無理であろう。何も知らなければ、騙されるべくして騙され、そうしてこの映画を楽しめることになるだろう。そのようにしか言いようが無いではないか。
リメイクなのでどの程度まで忠実なのかは分からないが、この骨格は受け継がれていなければ面白くはならないだろう。そこに韓国映画らしい、独特の社会背景と残酷描写が混ざりこんでいる。そういうところも、確かに面白さの要素になっている。しかしながら観終わってみると、大学教授の男は、つまるところ何か自分の主体性のものを、持っていたのかな、という気もしないではない。妻を殺したんだから、それは主体性には違いなかったわけではあるのだが……。