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ミステリ感想-『アリアドネの声』井上真偽

2023年11月03日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ユニバーサルデザインを突き詰めたモデル都市「WANOKUNI」の地下施設が巨大地震により崩壊。
ひとり取り残された「見えない・聞こえない・話せない」3つの障害を持つ女性を助けるため、災害救助用ドローンを向かわせる。
崩落・浸水・火災の危機が迫る中、6時間以内に彼女をシェルターまで導けるのか。


~感想~
いわゆる三重苦の女性をタイムリミットの迫る中で、最新型のドローン一台で安全地帯まで誘導するという困難なミッションがまず読ませる。
そしてドローンを操縦する高木春生もまた、幼い頃に兄を亡くした過去に囚われ、地下に取り残された彼女の境遇と重なり合う。
想定外の危機が次々と訪れ、それを最新技術と知恵と工夫で乗り越えて行くが、中盤にはある疑念が芽生える。この題材に伴う偏見も容赦なく描き、絶体絶命の窮地を越えた先に、思いも寄らない衝撃が待ち受ける。
タイムリミットサスペンスとSFに近い最新技術の融合のみならず、ドラマチックな展開に驚愕の真相を加えた、まさに本格ミステリでしか描き得ない最高のエンタメ傑作である。
(またもう誰も覚えていない「21世紀本格」の模範例とも呼ぶべき一作でもあろう)


23.11.3
評価:★★★★☆ 9
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