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ミステリ感想-『向こう側の遊園』初野晴

2021年03月09日 | ミステリ感想
~あらすじ~
廃棄された遊園地にいる耳の聴こえない男性。
彼に最も大切なものを差し出せば、訳ありの動物の遺体を弔ってくれる。
まことしやかにささやかれる噂と、彼のもとを訪れる、訳ありの人間たち。

2012年本ミス10位 ※カマラとアマラの丘 改題

~感想~
文庫化にあたって改題されたが、神奈川県民なら一度は行ったことのある向ヶ丘遊園(※廃園。しょぼい)と丸かぶりして、なんとも言えない気分になる。
内容も訳ありの動物への弔いと聞くとハートウォーミングな物語を想像するかもしれないが、実際の内容は、異能力と地形効果により圧倒的優位に立っている男が、動物目線と道徳を盾に相手の弱みにもつけ込み、来訪者の主張に聞く耳を持たず一方的に論破していくレスバ最強伝説で、少なくとも人間に対する優しさや温かみはほとんど無く、むしろ弱肉強食な野生の厳しさを見せつけてくる。

連作短編集の形式の、いま話題のいわゆる特殊設定ミステリで、この設定でしかなし得ない突飛な発想やトリックを繰り出し続け、本ミスでもベストテンに入っており、ミステリ的には非常に美味しいのだが、それはさておき管理者の男が「命を大切にしない奴は死ね!」系の人格で、個人的には実に不愉快だった。自分が彼岸に立ってるから忘れてるのかもしれないが人間もその大切な命の一つなんやで?

少なくとも動物好きとか感動物語が好みな向きが、あらすじに惹かれて読んだら、たぶん想像とだいぶ話が違うことになっているので、取り扱いには注意していただきたい。
ただ最終話は実に良かった。


21.3.6
評価:★★★ 6
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