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ミステリ感想-『十五年目の復讐』浦賀和宏

2018年10月25日 | ミステリ感想
~あらすじ~
作家の西野冴子が陥れられた罠。
始まりは一通のファンレターから。
「Mの女」の真実がいま語られる。


~感想~
続いたーっ! また続いたーっ!

まずは説明から。説明しなくてはいけないことが多すぎる。
本作は特に断りはないが昨年に発売した「Mの女」の純然たる続編で、電子書籍限定で配信されていた短編「メタモルフォーゼの女」シリーズをまとめ、完結編(?)の「十五年目の復讐」を書き下ろしたものである。
続編だから「Mの女」のネタバレ三昧のためまずはそちらから読んでいただきたい。

またファンなら章題を見ればわかる通り、作者の別作品とも関わっている。
特にノンシリーズ作品「地球平面委員会」のある意味で後日談が語られ、かの密室本「浦賀和宏殺人事件」で作者本人が登場しているのに、作中作「地球平面委員会」の作者として(【悲報】地球平面委員会、作中作になる)浦賀和宏をもじった人物が現れ、しかも結末が……と長年のファンを喜ばせるためだけに書かれたような代物である。

さらにはすでにシリーズ4作品+αを持つ桑原銀次郎がメインキャラとして登場し、自分は未読だが「松浦純菜シリーズ」とも関わっている様子であり、こうなれば大半忘れている「安藤直樹シリーズ」とも関わっていないわけがないはずで、浦賀和宏の集大成ともいうべき作品なのかもしれない。

そして最初に叫んだ通り、本作はまだ完結していない。いちおうの決着は付けられるが、動機その他の部分の解明は、作者がTwitterで何度か鋭意製作中とつぶやいている「カインの子供たち」に持ち越されてしまった。


ようやく本作の感想に入れる。
電子書籍で配信された3編は長編「Mの女」の背景を語るとともに、それぞれ別の事件や謎を抱える独立した短編としても読め、いずれも意外性ある良作揃い。
そして3編と「Mの女」をまとめ上げるのが表題作「十五年目の復讐」で、「Mの女」ではやばいくらい東野圭吾「白夜行」に近かった物語が、どちらかというと「幻夜」にシフトして行ったと思いきや、最終的にはやはり「白夜行」に急展開したのには笑った。
表題作はあくまで答え合わせと後日談に過ぎず、驚くような結末が無かったのはやや残念だが、そのあたりも次回作に持ち越しだろうか。

またエピローグは完全に蛇足にしか思えない。もはやお約束ではあるのだが、言ってしまえば日常茶飯事であり、ものすごく不穏な空気が漂ったのに結末がこれでは、有名な都市伝説の「そのバスに乗ってた人はもうみんな死んだんですけど」みたいな、あんだけ盛り上がってオチがちょっとした事故かい!と脱力感にさいなまれた。

個人的に面白かったのは最後の最後に、黒幕が思いつきのように口にしたあることで、あの人に手出ししたらあいつが黙っちゃいないわけで、もし実現すれば浦賀作品屈指の強キャラ二人が直接対決することになり、しかしいくら黒幕さんでもあの人絡みであいつに敵うとは思えず…といろいろ妄想した。これもファン向けのサービスの一つかもしれない。

とにかく次回作が楽しみである。
そしてファンを名乗るならいいかげん松浦純菜シリーズも読まなくてはなるまい。


18.10.25
評価:★★★☆ 7
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