Decca Decolaがお嫁入り

やっとこさ入手したDecca Decolaの整備記録

Hallicrafters S-38 シリーズ について

2019-05-22 01:52:21 | アマチュア無線

 フランス人の世界的工業デザイナー、レイモンド・ローウィが手がけたアメリカ製の民生用通信型受信機「Hallicrafters S-38」は1946年に発表されS-38、S-38A、S-38B、、と改良され最終のS-38Eまで続いた。初代のS-38以前にもほとんど同じ構成で安価なEchophone EC-1Aがありその前身のEC-1は1941年の第2次世界大戦中に発売された。当時「Hallicrafters」は社格が高く安価な製品は子会社のEchophone社から発売されていた。戦後レーモンド・ローウィによって意匠を変更してHallicrafters名義で発売されたS-38は大変な支持を受けて15年間という長期間製造される。  

 長期間の製造なので細かな変更はされたがS-38Dからは大きなスケール窓を持つデザインとなり異なった製品と言って良いほどの変更だった。S-38Cまでのデザインは日本のメーカーにも大きな影響をあたえて多くのクローンが誕生した。

 Hallicrafters S-38 
  サイズ   : 高さ(約178mm)×幅(約327mm)×奥行き(約184mm) 5 kg
  受信周波数 : 中波 540~1650kC/1.65~5 MC /5~14.5 MC / 13.5~32 MC
  使用真空管 : V1 12SA7 (Converter:局部発振・周波数変換)
            V2 12SK7 (IF amplifier:中間周波数増幅)
            V3 12SQ7GT (Detector/AVC/AF:検波・初段低周波増幅)
            V4 35L6GT  (Audio output:低周波出力)
            V5 12SQ7GT (BFO / ANL)
            V6 35Z5GT  (Rectifier:整流)
  電 源 : AC 105-125V/50-60cycles
  スピーカ : Permanent Magnet Dynamic Loudspeaker (moving coil)

 初代のスペックから時代とともに不必要と思われる機能はどんどん削除されていき、球数やツマミは減らされ、外装の一部も金属からボール紙(!)へと変更された。通信型受信機といっても実際はトランスレススーパーラジオ+BFOという構成で高性能の追求よりも小型、軽量、安価そして魅力的なデザインという面を強調した製品でこの方向性は世界大戦後のアメリカ国民に広く受け入れられた。

  S-38(とおもわれる)とS-38Cの回路図。S-38は途中で細かな設計変更があったらしく同調回路のコンデンサー値が異なるのがある。詳しくないのであまり語れないのだがS-38Cは局発とmixはもとよりIF増幅とBFOまで単球で済ませてしまうという究極の設計。1球減った事によりAF増幅は35L6から50L6にしてトランスレスに対応している。複合コンデンサーなどスペシャルパーツも採用している。

 

 Hallicrafters S-38C

     

 それまでのダークな塗装からシルバーハンマートーンの明るい雰囲気に変わった。トランスレス機器は樹脂製ケースが多いがこれは金属製で直接シャーシに触れないような工夫がある。パネルにあるトグルスイッチは2個のサブシャーシでゴムブッシュで絶縁されている。これはパネルに留めてあるネジからの感電防止策でここまでするなら電源トランスを使用した方がよほど楽かと思うがこれも枯れた設計ならではとおもう。調整するときは117Vの絶縁トランスはあった方がよくまた些細な事だがダイヤルを外すにはインチレンチが必要でこれがないと分解すらできない。

 

 内部は丁寧なメンテの手が入っている。コイルとトリマーコンデンサーは予想以上に大きくて立派。それに比べてIFTは小さくてかわいらしい。複合コンデンサーを用いているがTRIO製品と異なりコイルパックなどは無いためロータリースイッチ周りは複雑。キットがあったかは不明だがここをクリアすれば容易に組み立てられると考えて日本では製品化されたのかもしれない。ラグ板も最小限で裸線で最短で配線されているしBFOからの信号もコードを巻きつけているだけ(これはTRIOも同じ)で一見ごちゃごちゃしているが合理的な配置。ブロックコンデンサーも紙筒をバンドで留めてワイヤー引き出し、ネジ1個で取り付けられている。

 全体的にプロが作った民生機の佇まいで、改造してもっと高性能にしようなどという気が失せるようでアマチュアが手を入れる余地はなさそう。通電してみると中波帯は問題なく受信する。短波帯は周波数が上がるとやはり苦しい感じでアマチュア無線レベルでもちょっと役不足なのは否めない。小型で美しい機器ということで愛されたのだと思う。

 

 Hallicrafters S-38

 第2次世界大戦直後の1946年に発売された初代。海外オークションで不動品を手に入れた。送られてきたのを開封すると35Z5GTと12SQ7の真空管2本が外れて割れていた。道中どんな扱いをされたのか。。

  

  S-38は9R-4などと異なりスピーカーは内臓されている。上むきに取り付けられているので埃がもろに溜まる。

 

 何の変哲も無いパーマネントスピーカーでWE100Fなどと同じ口径だがボイスコイルの直径が小さい。ダストカバーが外れていてボイスコイルギャップに盛大に埃が入り込んでいてジャリジャリとひっかかる。これでは分解しないと掃除できない。

  

 エッジとダンパーをはずしてコーン紙を取り出して気のすむまで掃除して組み立てる。ダストカバーは適当なものを接着した。

 73年前の電解コンデンサーは紙巻複合型。4つのキャパシターが内蔵されているが当然ご臨終。

 

 同じ容量は揃わないが紙筒を分解して4個の電解コンデンサーを内蔵した。リード線はそのまま使用する。

 

 パラフィンで固めて完了。これで動作させて各部の電圧を測定するとやはりカップリングコンデンサーは漏れが激しい。

 

 同じように紙筒を切り開いて中身だけペーパーコンと交換してパラフィンを充填した。偽ビンテージ物に注意!

 結構混雑している内面。ほとんど手が入っていなかった様子なので今回は見た目を重視して修復した。これでしばらく聴いていたが整流管のヒーターが電圧は正常だったのに突然断線してしまい#47パイロットランプと共に注文した。

 パイロット電球GE #47同等品は80円ほどで入手できます。5個と電圧発生用の抵抗を注文したのだが相変わらず送料の方が高い。定形外郵便でも良かったのだが電球などの易損品はダメらしい。早速配線したらどうも明るすぎる。。抵抗値を変えて調整した。

 劣化したゴムブッシュを一部交換して完了した。

  

 電源コードのタグには1948年6月23日とある。71年前の製品。未調整だが良好に稼働している。。と思ったらBFOが働かない(回路図とソケットの点検電圧)。また低周波増幅の35L6GTのグリッドがプラスになっている。それも電源を入れてしばらくすると次第に上昇する。カップリングは交換したばかりだが接続を外しても同様な症状。これは真空管の寿命かもしれない(売るほどある真空管試験機を使えばいいのに、、)。S-38Cは真空管数が1本少ない関係で35L6GTではなく50L6GTになっている。一応入手することにして注文した。

  入手したのは中古の35L6GT。しかしグリッド電流は流れず正常動作した。やはりカップリングコンデンサーの漏洩の影響で道連れとなったらしい。

 次の問題点はBFOが発振しない。ちょっと刺激があると発振することもあるのだが。これはC37 0.01μFの不良が原因で交換。

 またまたインチキコンデンサー作って置き換え。S-38だけ採用されたBFOピッチコントロール、そのために1球が使われた。ピッチの調整はコイルのコアを上下するμ同調方式(というのかはよくわからないが)で簡易なラジオで良く見た方式。軸がネジなのだが回しすぎると破損する危険があるのでツマミも特注品でストッパーで1回転に限定されている。したがってツマミを固定するときには発振を確認して行う。

 これで完了しました。オリジナルのACプラグは破損していたのだが危険を承知で修復した。ヒューズなど保安部品も無いので常時の使用にあたってはアイソレートと昇圧を兼ねて必ず保護回路付きのトランスを入れる事が必要。5級スーパーとしては十分の性能で中波の受信は不満はない。通信用としてはやはり役不足だがこれでいいのだと思う。

 S-38の修復をまとめると 真空管3本交換 コンデンサー3ヶ所などの他にもゴム部品の劣化の修復(ゴムブッシュを加工して取り付け)、欠品ワッシャーの補充(これが難航した)、スピーカーの分解掃除を含む全体の掃除 など。見た目だけでもオリジナルの姿を崩さないように気を使ったのは70年以上前の製品にもかかわらず外観のコンディションが極上だったから。早い時期に故障して仕舞い込まれた個体だったのかもしれない。勝手に文化財修復した気分で楽しめました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 お読みいただきありがとうございました。

 

 

 その後1

  ダイヤル糸が切れました。

 糸は手持ちあり。こんなものでもnetで手に入るのはありがたい。

 

 

 


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