金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

白銀の翼(辻斬り)20

2011-04-10 10:23:20 | Weblog
 巡査の案内で向かったのは工業団地跡地が見下ろせる高台。
小さな集落を抜けると、こぢんまりとした寺に着いた。
ここまで、およそ十分ほどか。
 山門は閉じられて張り紙がしてあった。
警察からで、「無用の者の立ち入り禁止。御用の方は地元駐在に」と。
 山門脇の潜り戸には急拵えの施錠。
寺には似付かわしくない取り付け方だ。
 巡査が内ポケットから鍵を取り出した。
「駐在任せですよ」
言葉とは裏腹、嬉しそうに解錠した。
 加藤を先頭に入って行く。
表から見たと同様に内側も、こぢんまりとしていた。
見るからに小さな本堂と僧房の二つの建物があるだけ。
短い参道の先に本堂があり、その右の陰に僧房がある。
 池辺の視線が本堂の傍の井戸に向けられたのに気付いたのだろう。
巡査が口を開いた。
「県警のチームがこの敷地内は全て調べました」
 池辺が天を仰いだ。
「そうですか。すると何も見つからなかったわけですね」
 失踪の可能性が消えたわけではないから、
二人とも、「住職の遺体」とは口にはしない。
 加藤は本堂の左の石碑が気になった。
自然と足が向いた。
 石碑は地面に突き立てられており、高さは五メートルといったところか。
横幅はおおよそ三メートル。
刻まれた銘文が読み取れない。
彫り方が下手なのか、古代文字なのか、あるいは梵字。
「これは」
 巡査が脇に並んだ。
「古代文字でも梵字でもないようです」
「調べたのですか」
「ええ、県警のチームがですがね。結論は不明だそうです」
「中国の古代文字の可能性は」
「その手の専門家にも問い合わせたそうですが、まったく・・・」
「毬谷家から来た人間は」
「心当たりはないそうです」
「変ですね、この寺の所有者も毬谷家でしょう」
「はい。ですが、建てさせた先々代からは何も聞いていないそうです」
 石碑の周辺に幾つもの小さな自然石が転がっていた。
石碑は意味を持つ存在。
その周囲に無意味に転がして置くとは考えられない。
全部数えたら十六。これにどういう意味が。
「一種のストーンサークルですかね」と県警の刑事。
 加藤は、「まさか」と思いながら巡査を振り返った。
 巡査は頭を搔いた。
「適当に転がしてあるとばかり思っていました」
 その転がしてある自然石に池辺が歩み寄った。
中で一番小さな物に手をかけた。
それでも子供の半分ほどの大きさ。
 慌てて加藤が止めた。
「無闇に触るな」
「持ち上げてみるだけです」
「どうして」
「運動不足なんですよ」
 そういえば今日は車と飛行機に乗っているだけで、
ろくに身体を動かしていない。
若いだけに手持ち無沙汰なのだろう。
だからといって自然石に挑戦しなくても・・・。
「あいつの脳味噌は筋肉質だからな」という評があったのを思い出した。
「汚れるぞ」
「構いません」
 言うなり池辺は自然石に両手をかけて腰を落とした。
一気に力を込めた。
少し持ち上がった。
が、池辺はバランスを崩して後退り。
その拍子に自然石を放り投げた。
 加藤は尻餅をついた池辺に駆け寄って手を差し伸べた。
「大丈夫か」
 恥ずかしそうに池辺が立ち上がった。
「みっともないところを」
「もう三十過ぎてるんだから無理するな。腰は痛めなかったか」
 「おおっ」と刑事の声。
自然石に顔を近づけていた。
池辺が放り投げたので裏側が上になっていた。
何やら彫ってある。
ポケットからハンカチを取り出して泥を拭う。
隠れていた文字が現れた。
 居合わせた三人が自然石と刑事を取り囲む。
鮮明な人名。
「岸田英夫」
戒名や法名は付けられていない。
それでも刑事は、「墓石」と疑問を口にしながら、みんなを見回した。
 その自然石の置かれていた場所を確かめるが、
地中に人間が埋葬されている感じはしない。
 巡査が携帯を取り出した。
「小さな岩を持ち上げるのに人手がいる」と知り合いの造園家に電話を始めた。
「それじゃ俺も」と池辺。
携帯で石碑の銘文の写真を撮り、知り合いに転送した。
そして電話。
「俺々。・・・。そうそう。・・・。写真を送ったから。
・・・。詳しくは話せないよ、仕事だから」
電話を終えると池辺は加藤を振り向いた。
「独断ですが、銘文の解読をマニアに頼みました」
「どんなマニアなんだ」
「んー、ジャンルは・・・、『不思議ちゃん』ですかね」
 昔に聞いたようなジャンルだ。
色んなマニアが存在する事は知っている。
しかし、『不思議ちゃん』だけは、ここ暫く聞いていなかった。
今も尚、「不思議ちゃん」が現存するとは。
「大丈夫なのか。
君を疑ってるわけじゃない。
『不思議ちゃん』とやらに、それだけの力量があるのかなんだが」
マイペースで天然、それが『不思議ちゃん』だと理解していた。
とても石碑の文字を読めるだけの知識、能力があるとは思えない。
 池辺はニッコリ笑う。
「身元はしっかりしてます。頭も大丈夫です」




昨日、御徒町から上野公園方向に歩いていると、
脇の車道にチャリンコ。
チャリンコも同方向に向かっていました。
そのチャリンコがスクランブル交差点に入ると、
たちまち人垣に囲まれるではありませんか。
「誰かな」と見ると、「そのまんま東」。
 「上野動物園にでも帰るのかな」と目で追うと、
公園の交番前に待機していた街宣車に上がり、演説を始めました。
 と、と、その先のガード下、アメ横入り口には「Dr」がいました。
こちらは街宣車から降り、歩道で演説していました。
 都知事選だったのですね。

誰かが言っていました。
「桜が咲いたからといって、一杯飲んで歓談するような状況じゃない。
今頃、花見じゃない。
同胞の痛みを分かち合うことで初めて連帯感が出て来る。
戦争の時はみんな自分を抑え、こらえた。
戦には敗れたが、あの時の連帯感は美しい」とか。
この桜を選挙に置き換えれば、今の状況にピッタリです。
今は選挙の時節ではありません。

現に選挙運動は超控え目。
ほとんど声が聞えません。
これで政策が訴えられますか。
政策が訴えられずに公正で公平な選挙ですか。
現職に有利すぎます。

選挙より花見です。

知っていますか。
赤い夜桜を。
薄桃色の桜の花びらが、
満月の夜になると真っ赤に染まるのを。
桜の根もとに死体を埋めると、
人の血液が樹液に混じって枝葉に行き渡り、
花びらが満月に反応して赤くなるのです。
それで、ときおり花びらから赤い雫も落ちるとか。
通の人は花びらの雫を杯に落とし、
透明の日本酒が赤く染まるのを見ながら飲むのだそうです。




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