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有機化学は何をやっているのか その5

2017-06-28 10:42:11 | 化学
このところ4回にわたって「有機化学とは」について書いてきました。

基本的には合成方法の検索、実際の反応実験、精製操作、分析データの解析という流れで出来上がっており、これを繰り返していることになります。これは有機化学一般に言えることで、どんな分野でも大体同じ流れになっています。ここでは有機化学の難しく面白いところを書くつもりでしたが、私がやっていた創薬研究について触れてみます。

創薬研究という病気に対する新しい薬を作るという仕事は、我々有機化学者だけでできるものではありません。実際の開発までには非常に多くの分野の人たちの共同作業となるわけですが、ここではそのスタートとして、化合物を評価するグループから、ある病気に対する薬の新しい評価方法を作ったというケースがあります。

この場合はこの評価方法で新しい薬の探索となり、我々有機合成グループがその候補化合物を供給することになります。ここでどんな化合物を合成するかが重要な課題となるわけです。どんな天才がいても何となく作った化合物が、優れた薬効を示すことはまずありませんので、それなりの情報に基づいた化合物の設計が必要となるわけです。

これがいわゆるドラッグデザインですが、私は大学での講義にこれをメインテーマにしていましたが、大学3年生にとってはかなり難しかったようです。これに関しては色々な手法や経験則が発表されていますが、ここでは省略します。

こういったときに参考になるのが、評価系を構築した時に数百から千ぐらいの化合物を調べ、これが本当に薬を正しく評価できているかの検討結果です。これは研究所内にストックしてある化合物の中から選択するのですが、どの程度の化合物を持っているかが研究所の実力となるわけです。

我々が過去に合成したものや、色々な機関から入手・購入したものなどで、私がいたころに約2万の化合物を持っていました。こういった評価結果から、少しは薬効のある化合物を拾い上げ通常3種ぐらいの基本骨格を設計します。

この程度からスタートするとある程度の数を調べたところで、最も良さそうな基本骨格が決まりますので、それに絞って合成研究を続けることになります。こういった経過で新薬候補として有望なものが出てくると、その合成ルートの検証と大量合成という流れになるわけです。

我々はこういった新薬開発の最も上流にいますので、実際に化合物を合成してから新薬として市場に出るまでに大体十年以上はかかります。その間ずっとこのテーマをやっているわけではなく、私は3,4年をめどに(良いものが出ても出なくても)新しいテーマを入れていました。

こういったところが創薬での有機化学ということになります。

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