梶哲日記

鉄鋼流通業会長の日々

銀行との付き合い(その6)

2021年11月27日 06時25分33秒 | Weblog
【理念や社是・家訓】

何代も続く老舗から銀行が離れないのは、長く培われた確かな社是や家訓があるからです。反対に老舗であっても銀行が去っていくのは、その社是や家訓を軽視することが一つの要因となるでしょう。社是や家訓は、理念ともいえます。理念とはその会社の行動の基礎となる旗印です。会社の存在意義や価値観などが理念の中核をなします。
 
理念に基づいて、社員が共に働き、扱う商品やサービスが生かされます。理念により社長も正され、理念が受け継がれながら後継者も育ちます。それによって何代も続く企業となり、社歴が長くなるのは(老舗)、その結果としてです。銀行に対する担保に関しては、前回まで色々書かせてもらいましたが、理念も物的や人的(個人保証)に匹敵する無形の担保です。

銀行が注視したり警戒したりするのは、経営者交代の時です。理念に沿ってその会社が経営されていくのかが、銀行の大きな視点となります。理念として明文化されたものがなくとも、前社長の思いや経営方針からかけ離れていないか、そこが関心事です。後任の社長が、従来の路線を無理やり変えようとしていると捉えられてしまうと、銀行としても退いた先代の意向を、場合によっては確認してみたいとなるのです。

わが社は来年加工機器の大型投資を打ち出していますが、現に最近私にメイン銀行の支店長が何回か接触を図っています。久しぶりに支店長と対談してみると、単刀直入ではありませんが、遠回しにその話題に触れられました。社長とは十分に導入を話し合った上で、一年越しの懸案の実行でした。現社長の独断で行われていないかと、探っていたのかもしれません。銀行の手堅さを感じ、だからこそ安心できる存在なのだと、好感的に受け止めました。

企業の一番の使命は「継続・存続」である、という人がいます。確かに短期に利益を上げても、長いスパンで永続しなければ会社の存在意味はありません。では何故長いスパンでの永続なのかです。「社員の雇用を守り、自社の仕事を通し社会貢献を実現できるから存続が大事」だと、私は捉えています。これに限ったことではありませんが、個々の経営者の思想が込められていて、どれだけ社員を巻き込んでいるかが、その企業の理念だと思います。
 
【経営者自身】

「会社は社長の器以上には大きくならない」と、よくいわれます。会社を生かすも殺すも社長次第であり、それだけ社長の資質が会社に影響を及ぼしているのです。幹部や社員が優秀で、社長がさほど才能が無く実質仕事をしなくても良い会社があるのではないか、との反論があるかもしれません。しかし、組織である以上無秩序な放任主義は会社を混乱させ、任せた社長の管理責任は免れられず、いざ会社が大きな問題を抱えたら最終責任を取るのは社長しかいません。従って経営者こそ、銀行の担保となっていることを自覚すべきです。

私の経験の範囲となりますが、会社を潰した取引先の社長には特徴があります。中でもその最大は公私混同です。次に、独断や傲慢(人の言うことに耳を貸さない)、見栄っ張り、嘘をつく、言動不一致などなど並べてみるときりがありません。自ら自分を律しなくてはならない社長は孤独といわれます。しかし社員はその後ろ姿を見ています。社員に支持されない社長に、社外(銀行)からも手を差し伸べてはくれません。公私混同を排除し、苦しくなっても誰も助けてくれない覚悟を持てば、協力者は必ず現れると思います。

【最後に】

通常の融資以外で、会社の土地取得の際や先代の相続において、取引銀行には色々なアドバイスをもらい、資金調達の上でも支援を受けました。30代で社長となり、拙い経験の連続でしたが、銀行との取引は正に私の社長業の歴史でもあります。銀行の方には数々の失言もしました。覆水盆に返らず。その失敗も糧となりました。
 
今回のテーマは現社長からの質問が切っ掛です。この機会に、今までの銀行との付き合いを整理するために、関連する文献も当たってみました(下記※)。相手との付き合い方を、相手がどう見ているかの、裏返しの見方をベースとしました。“彼を知り己を知れば百戦殆うからず”ではありませんが、相手を善く知る努力をすれば自ずと見えてくるものがあります。このシリーズ六回に亘り、お付き合い下さり感謝致します。

※ 参考・引用文献
 『銀行管理の内幕』森彰英著/日新報道出版社
 『銀行は、社長のどこを見ているのか?』藤原勝法著/青春出版社
 『金融機関の活用法と付き合い方』関根宏而著/税務経理協会
 『中小企業の「事業継承」はじめに読む本』藤間秋男著/すばる舎

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銀行との付き合い(その5)

2021年11月20日 05時30分09秒 | Weblog
【接し方と交渉】

取引銀行へ訪問するとしても誰に会えばよいのか。経営者であるなら支店長には絶対会わなくてはなりません。では会う頻度については、支店長が自社へ訪問してくれる場合もありますが、私の場合三カ月に一回位(メイン銀行)は念頭におきました。こちらから訪問する場合は、月次決算書など持参し近況を報告する形が、話し合う糸口となりました。

しかし、融資の稟議書は誰か書くのかを忘れてはなりません。作成するのは銀行の担当者です。銀行の大よそのラインは、支店長、次長ないしは課長、担当者です。わが社には経理部長がいますので、担当者やその上司と緊密な関係を築くことや実際の交渉などは部長に任せ、私と役割分担をしました。特に融資の必要性がない時でも、担当者から借入額の上限を探っておくことも重要でした。

ある文献で、銀行員の特性を次のように記しています。・一般常識を好む。・正論を理解しているものの会社(組織)や上司の方針に従順。・ガバナンスの強い組織なのでルールを重要視する。・出世しなくとも他業界の人より収入が多いので、転職する人が少ない。・仕事柄マジメな人が多いが、ビジネスを離れた場所(酒席やゴルフなど)では気さくにふるまう。

冒頭の項目に「交渉」と掲げましたが「交渉術」のようなものではなく、このような銀行員の特性を踏まえた上で、あくまでも正攻法だと思います。社長の話術より、話しの中身や信憑性であり、当たり前のことを当たり前に行って、小さな約束を守ることの積み重ねです。正攻法とは、結果を出す努力をすることであり、絶対嘘をつかないことです。約束を守らず嘘をつけば、失った信頼は修復がきかなくなります。

行員の方にも当然ノルマがあります。組織や上司の方針に従順であれば、取引先企業に対し無理な申し入れも時としてあります。銀行の決算や中間決算期に手形の割引を極力して欲しいとか、納税や賞与に備え積立金を考えてもらえないか、です。しかし自社に余裕が無いのであれば、はっきりお断りする役者(社長か経理部長かはケースバイケース)も決めておくことが大事ではないでしょか。

【銀行の与信枠・評価】

銀行は取引先に対して与信枠(与信限度額)を設定します。与信とは信用を与える意味であり、与信枠とはいくらまでが融資可能かとの限度額のことです。銀行は取引先を格付けし、この格付けで与信のレベルが決められます。格付けの要素には、つまり評価の項目は、債務の返済能力、収益性、安全性、成長性、規模などがあるようです。銀行が重要視しているのは、短期間の売上や利益ではなく返済能力や安全性です。財務諸表でいえば、損益計算書よりも貸借対照表で、その中の自己資本比率や純資産額がどれ程あるかです。

我々の業界において、商社から材料を仕入れる場合手形決済となります。商社としてはその決済が終わるまで、金融を代行していることにもなりますので、販売先に対して与信枠を設定しています。商社には営業部隊とは別に審査部隊があり厳しく与信管理をしていて、我々が決算書を提出することで、与信枠も変わることを前提としています。

わが社も販売先へは手形決済ですので、与信枠を設定しなくてはなりませんが、過去甘い評価をして何回か不良債権を発生させたことがあります。売りたいがための感情的な判断は禁物です。我々も取引先を評価することで分かりますが、同じように銀行や商社から常に一定の基準で評価されている意識を持たなくてはなりません。銀行からの評価には、当然経営者の要素も大きく含まれます。

【銀行が離れる理由】 

・公共性に乏しく、企業規模が小さく、関連企業倒産の事態も起こりそうもない。従って倒産しても社会的影響は少なく、銀行も批判されずにすむ。
・経営再建の見通しは立たないが、担保として押さえている土地や有価証券、設備などが意外に良質である。
・これまであまり深い付き合いもなく、また悪い情報を隠すなど、信頼関係を裏切った行為がある。
・経営者が無能で、労使関係もでたらめ。しかし、銀行支配に対する拒否反応が強くあらゆる手段で、介入を妨害しようとする。

これは銀行管理に陥った数々の企業を取材したジャーナリストの見解です。取材するくらいですので中堅以上の企業でしょうが、我々の規模でも、銀行が離れる理由を(このように判断されないように)しっかりと受け止めなくてはなりません。   ~次回でこのシリーズは最終とします~
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銀行との付き合い(その4)

2021年11月13日 06時33分38秒 | Weblog
【取引の仕方】

銀行との取引の仕方であり、複数行との付き合い方でもあります。わが社は四行と取引をさせてもらっています。都市銀行、地方銀行、政府系、準政府系(所謂半官半民)です。銀行の数は、少なすぎると他行との比較で融通が利かず、多すぎるといざという時支援をもらえません。取引銀行の数につては、会社の規模や格などに見合ったものがあると思っています。

複数の取引の良さは、それぞれの銀行の特性や機能を活かせるところです。都市銀行はネームバリューもあり総合力や情報量が優れています。地方銀行はきめ細かく地域経済に密着しています。政府系は国の制度や特別融資を提供しています。準政府系は官と民の良さを融合しています。返済期間、支払い利息、担保や保証など提示される条件は異なりますが、その違いが選択肢の広がりとなります。

いざという時の為にメインバンクはあった方がベターです。メインバンクの動向を注視ししながら、サブ的な他行もフォローしてくれるからです。しかしメインバンクには、こちらからの片思いとならないように留意しなくてはなりません。メインバンク の(であろう) 銀行に、しっかり自社を意識してもらうことです。変な例えですが、夫婦の愛情も時によっては確かめなくてはなりません。

実は、リーマンショック後の大幅な赤字補填に際し、わが社のメインの銀行は繋ぎ融資に消極的になり、不動産の担保を暗に要請されました。細かな経緯は省略しますが、断りました。結果、しばらくその銀行から新規の融資は受けられませんでした。その難局で他行が融資してくれたお陰で、わが社の今日があります。次項【担保の捉え方】で触れますが、銀行は既得権を死守し、決裁者(その時の支店長や次長)の意向にも左右されます。

今ではその銀行との関係は元に戻っています。私の一時の感情は消え去って、むしろ正論を伝えてくれたと理解しています。「銀行は晴れの日に傘を貸して雨の日に取り上げる」と揶揄する人がいます。銀行の立場からしたら正論でしょう。だからこそ我々企業は、銀行が気持ちよく何時でも傘を貸してくれるように、普段から努力することが大事なのです。

少し話はそれますが、我々鉄鋼流通業が材料をメーカーから仕入れる場合です。景気の波(需給のバランスが崩れる)があり、メーカーも強気と弱気の時があるのです。需要が弱い時何社ものメーカーを手玉に取り、ある流通業は安値を引き出しました。しかし流れが逆転すると、メーカーはその会社に供給を一切止めました。企業にとって利益の追求は使命ですが、駆け引きだけにおぼれれば、世間は相手にしなくなります。金融機関も同じで、広く薄く条件次第で借りる企業からは離れていくことでしょう。

定期的な転勤によって銀行担当者は変わります。経営者の交代は長期になりますので、一行一行長く丁寧に付き合うことを前提にすれば、銀行内で申し送られる実績は物をいうはずです。ただし全て銀行の言い成りになるのではなく、主張すべきははっきり伝えることです。裏付けがあり厳しいことをズバリいう社長を、銀行は逆に評価する側面があります。身の丈に合わせけん制的に付き合う複数取引は必要で、主導権を取られない気構えも大事だと思います。

【担保の捉え方】

担保とは、融資を受ける際に返済不能になった場合に備えて、損失を補えるように融資してくれた銀行に保証をすることです。銀行からすればなんとか事前に提供して欲しいのが担保で、その担保には物的担保と人的担保があります。物的担保とは、土地や建物などの不動産がもっともメジャーなものです。人的担保とは、融資を受けた債務者が返済できなくなったときに、債務者以外の人が債務者に代わって返済をする契約を結ぶことで、つまり社長による個人保証です。

日銀調べ(2019年)によると、銀行の企業向け融資では担保や保証をつける契約が金額ベースで全体の半分を占めるとのことです。金融庁は銀行が担保・保証へ過度に依存し、融資先の経営や成長力の評価が不十分になっているとして、融資姿勢の転換を促しているようです。担保や保証を要求されるかどうかは、当然その会社の規模や業績や内部留保などにもよります。

そのデータの見方を変えれば、全体の半分は担保や保証を付けず融資を受けていることも明らかな実態です。過去の銀行との取り決めで担保を提供してしまったとしても、その後状況が変化・改善をしているのであれば、いずれ解除することも一つの決断です。先にも書きましたが銀行は立場上、既得権の行使は当たり前と受け止めた上で、無理だと思わず気長に交渉することも考えるべきです。

前回、「経営計画書は立派な○○になります」と書きました。○○に入るのは「担保」です。物的でも人的でもない担保として、経営計画書は無形の立派な担保となると思います。 ~次回に続く~

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銀行との付き合い(その3)

2021年11月06日 05時23分00秒 | Weblog
さて「銀行はわが社のどこを見ているのか」について、私が想定している具体的な項目に入ります。「銀行はわが社のどこを見ているか」は、「銀行は経営者のどこを見ているのか」に通じます。それも包括して、個々の事項をお伝えしていきたいと思います。

【財務知識】 

経営者のどこを見ているの観点からすると、財務知識があるかないかは大きな要素です。むしろ財務知識を最低限身につけることは、経営者にとって必須条件です。何故なら、銀行とその共通の土俵で相対峙するのですから。さしあたり決算書が理解できるかどうかです。その決算書で中核となるのが財務諸表です。財務諸表は財務三表ともいわれ、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書のことです。

ではこのような会計原則による処理がなぜ必要なのか。それは会社とは私的なものではなく公器だからです。公器とは、利害関係者の存在を意識し、また国への納税義務があるということです。会社は事業を行う上で様々な取引を行い、そこに債権・債務が発生しますが、その債権者(利害関係者)が保護される必要があります。一方会社は税法に則って法人税を納めるため、正しい算出で公平に課税されるべきです。これから逸脱すると公器ではありません。
 
ある規模の会社となれば経理部があり、社外には顧問の税理士がいます。従って経営者は経理会計の専門知識はいりませんが、最低限の財務知識を介して、上記のような社会的な責務を認識すべきです。その意味で、銀行は決算書(財務諸表)の改ざんを特に嫌います。銀行が重視しているのは、良い数字かどうかよりも、嘘がなく正確に作られているかどうかです。

私の失敗談をここで一つ。先代がまだ存命の頃、メインの仕入れ先の商社に決算書を持参して、その年度の業績報告に行った時のことです。一通りこちらの説明が終わると担当者から質問がありましたが、貸借対照表の中の『仮払金』や『未収入金』についての内訳に答えられなかったのです。担当者からは「梶さんは社長の代理でしょうが、自社の決算書でしょ。会社の実状を知らないのですか」と、厳しい指摘がありました。とても恥ずかしい思いをしました。社長の息子に対する指導だったのだと、今はそのように捉えています。

自社の決算書で、そのような洗礼を受けました。これが切っ掛けで、先代が亡くなった後、時間を作って外部の財務会計の勉強会に何回か通いました。その後は、その知識と自社の毎期の決算書の実態を照らし合わせながら、財務が何とか分かるようになりました。経営者は知らないことは、ある段階で勉強しないといけません。財務について自信が持てれば、銀行は怖くありません。

【資金繰り・月次決算】

社内でどこまで管理会計ができているかです。納税のような法律に基づいて行われる財務会計ではありませんが、お金の流れや収益の把握を、自社流でもタイムリーに把握する努力です。会社経営でこの管理会計は義務ではありません。しかしながら銀行に運転資金などの融資を申し込む際に、これに関連するデータ(数字)や資料を要求されることが多く、提出できないと自社の実態を正確に知らないとされ、評価は下がります。

会社は利益が出ていて予算内の経費で収まっていれば、新たな資金需要は発生しません。しかし、赤字であれば繋ぎ資金が、売上が急増し在庫を増やそうとすれば運転資金が、新規に機械や設備を導入すれば投資資金が、相応に必要となります。黒字倒産という言葉がありますが、見掛けの利益より実際のキャッシュフローが大切だということです。わが社では三カ月先までの資金繰り表を作成しています。経理任せではなく、経営者による売り上げや仕入れ予測を立て、そこに組み込んで更新していかないと意味がありません。

年度決算だけではなく、月次決算するのであれば、それなりの体制が必要となります。わが社の場合、メインの事業としては素材販売と加工品販売となります。加工品の場合、製造現場の作業員個々から、どの素材を使ってどこ向けの製品を加工したか克明に日々の記録を上げてもらい、そのデータを集計する業務も一人分の仕事となります。毎日の日計を出し月次決算に積み上げていくには、手間が掛かり経費の負担を覚悟しなくてはなりません。月次決算は翌月10日以内に出せるようにしています。この月次は、やった結果を全社員で共有し、業績次第では直ぐに手を打つためのものです。

月次決算を実施することは、年度ごとの予算化や経営(利益)計画を策定していることが前提です。年度初めに、最低一年先まで人材採用や設備メンテなども予定に組み入れ、経営計画は少なくとも場当たり経営をしないとの覚悟の表明です。経費にしても社長だから自由勝手に使っていいのではなく、社長も管理されるべきであり、会社でイレギュラーは誰一人としてありません。そのような社長の後ろ姿を社員は冷静に見ています。後の項で触れますが、経営計画書は立派な「○○」になります。銀行がその企業へ貸し易くするための助けになります。   ~次回に続く~
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