梶哲日記

鉄鋼流通業会長の日々

伊藤祐靖という人

2017年04月29日 09時35分15秒 | Weblog
北朝鮮が挑戦と脅迫を繰り返しています。人民軍創建85周年を迎え、更に北朝鮮の核・ミサイルの脅威が迫っていると、そして北朝鮮のXデー警戒などと、戦争が勃発する可能性まで叫ばれています。

今から19年前に、日本はその北朝鮮と一戦を交えたかもしれない事件が起こりました。“能登半島沖不審船事件”と言われ、日本領海を侵犯し、拉致された日本人が乗っている可能性がある北朝鮮の工作母船が、逃走する際の一連の出来事です。海上自衛隊と海上保安庁による追跡、威嚇射撃、停止した不審船に武器をもった自衛官が突入寸前で、事件は終止符を打ちます。

戦後日本の軍事・防衛にも大きなインパクトを与えた出来事です。当時の海上自衛官には、テロ対策に必須の技術である接近戦闘に精通する者は皆無で、艦内には防弾チョッキすらなかったのです。これを機に、自衛隊初の特殊部隊が創設されます。

この事件に大きく関わった人物がいます。当時の海上自衛官で、伊藤祐靖(すけやす)という人です。不審船事件の時、追跡したイージス艦「みょうこう」の航海長であり、その後自らの経験を活かし自衛隊の特別部隊の創設に関与して、部隊を育てた第一人者です。

昭和39年生まれ、日本体育大学から自衛隊へ。防衛大学校指導教官、艦船「たちかぜ」砲術長を経て「みようこう」航海長。特殊部隊創設に関わり、42歳2等海佐で退官。以後ミンダナオ島に活動拠点を移し、日本に戻ってからも各国警察・軍隊に指導を行い、日本の警備会社など顧問をし、私塾にて現役自衛官に知識・技術を伝えている方です。

その伊藤祐靖氏の講演を、知人に誘われて、2月と4月に続けて聴きました。伊藤氏の思想と行動に痛く感動しました。規律があり統一され即戦力になる自衛隊の、今までの私の概念が崩れ、戦いの本質とは何かに触れることが出来ました。

講演の中では能登半島沖不審船事件が、核心であり、大きな山場です。海上保安庁が有している警察官職務執行法が適用されない自衛官には、工作母船に乗り込む権限はないのです。一緒に追跡してきた海上保安庁の巡視艇が燃料切れで引き返した後、海上自衛隊に、首相官邸から海上警備行動(立入検査)の発令が出されたのです。

イージス艦は戦闘配置が完了します。益々速度を上げる不審船を停止させる為に、127ミリ単装速射砲による警告射撃が始まります。装填されているのは炸裂弾で、ターゲットの近くを通過するだけで炸裂します。着弾は何回か繰り返され、最後は50Mの至近距離まで迫り、不審船は停止します。

それから立入検査。高度な軍事訓練などされていない自衛官が、少年マガジン(漫画本)を胴体に巻いて死を覚悟して飛び移る寸前に、また不審船は動き出し逃走を続け北朝鮮の領海に逃げ込みます。日本は工作母船を取り逃がしたのです。

この事件を切っ掛けに海上自衛隊内に、防衛庁(当時)が初の特殊部隊を創設することが決定され、その年のうちに特別警備隊準備室が設置されます。
 ~次回に続きます~

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初心を忘れない

2017年04月22日 06時22分54秒 | Weblog
『菜根譚(さいこんたん)』の中に、“「軒(けん) 」という大夫な乗り物に乗る身分になり、「冕(べん)」という高官の冠を付ける身分になっても、山林に隠棲しているような趣がほしい。また、世を離れて田園に隠居していても、天下国家を経営するが如き見識を持っていたい”との一節があります。

菜根譚は、中国明代の末期に、洪自誠(こうじせい)という人が著したものです。人生を生きる上での心構えや、逆境にあってもなお輝く人間の真価のあり方などを、諭している書です。野菜の根っこは硬く筋が多いけれど噛み締めれば味わいが出てくるものだ、とのたとえを伝えている書です。

私が長年師事している先生の勉強会で、菜根譚を今年一年掛けて学んでいます。冒頭のくだりは、「偉くなっても驕り高ぶらずにいることが肝要で、逆に隠居生活をしていても常に社会常識と理想を身につけていることが人間らしさである」、との意味です。

現代社会に置き換えると、「社長になっても初心を忘れることなく新入社員の気持を思い出し、新入社員は社長の気概を持って今から仕事をすることが、賢者の気構えである」と、その先生は説いておられます。

毎年、東鉄連と業界紙が共催している「鉄鋼新人・中堅社員教育講座」が、19日と20日に開催されました。わが社からはいずれも今年入社した、20歳の女性社員と、21歳と23歳の男性社員が参加しました。その23歳の社員は私の息子です。

浦安鉄鋼会館で行われた座学となる初日の19日、午後から私もオブザーバー参加いたしました。この講座の意義は、私にとってみると「初心を忘れることなく新入社員の気持を思い出す」こと、この新人三人にとってみると「今から社長の気概を持って仕事をする」こと。先ほどの菜根譚の一説にぴったりと重なります。

19日午後一番の講座は、東鉄連のメンバーである同業経営者の話しでした。社会人に成り立ての、自身の失敗を多く盛り込んだ、自分を飾らない体験談であり、正に新人に向けた素晴らしい内容でした。

この時間帯、その話される経営者の応援の為に同業者の社長が詰め掛けたのですが、その後は潮が引くように、経営者側は誰もいなくなってしまいました。私は、他の会社の新人も含めどんな雰囲気を持っているのか、極力その場に居ることで彼らと一体感を持てればとの思いもあり、残りました。

その日講座が終わった後、わが社の新人三人と一緒に新浦安駅のホテルに向かいました。慰労を兼ねた食事会です。当日の感想などは無理に聞かないようにしました。美味しい料理を食べてお酒が少しでも入れば、会社では見せない顔付きや、普段出てこない話も出てくるものです。

私にとっては、若い社員とフランクに話せる良いチャンスでした。彼らにとってみても、煙たいであろう社長を身近に感じる時間だったのではないでしょうか。そして私は彼らを通して、42年前の社会人になったばかりの当時の初心に、少しでも戻ることが出来ました。

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働き手の不足

2017年04月15日 09時30分53秒 | Weblog
約50年後の2065年には、15~65歳の生産年齢人口は、2015年比で4割減る。厚生省の人口問題研究所は、「日本の将来推計人口」の中で、そのような予測を公表しまた。新聞には、この深刻な働き手不足が日本経済の成長を阻害して、思い切った策を講じないと活力ある日本の未来は展望できない、との関連記事が載りました。

日本の人口は、5年前の推計より少子高齢化のペースは緩和する見込みだが、現在の一人の女性が生む子供の数が変わらない場合、2053年には総人口は一億人を割り、2065年には8800万人になっている、という内容も同時に厚生省は発表しました。

宅配クライシスとして、日本の社会問題となってしまった宅配便業者の運転手不足ですが、少しずつ解決の糸口を掴みだしているようにも思います。一般顧客向け値上げ、大口需要家へ総量抑制や値上げ、宅配ボックス増設、再送削減や時間指定見直し、等々。

無人運転車が公道実験することを警察庁が許可する。家具の小売大手企業がトラックを購入し提携運送会社に割安に貸し出し運送会社の負担を軽減する。働き手不足は、運送業界のみならず国や他の産業界までも巻き込み、従来の仕組みを変えようと波紋が広がっています。

話は変わりますが、同業者が一社廃業しました。数年前大口の仕事が無くなる、現場の社員の高齢化、後継者の不在、などが原因です。その経営者は私と同年輩で、先代から社長を引き継いだオーナーであり、わが社と取引があり、身につまされる出来事でした。

わが社とても、鉄鋼流通加工業全体としても、取り巻く環境は変わりません。今後、後継者も含め人材確保は企業存続の生命線ともいえます。運送業のみならず、すでに建設業、介護サービス業、飲食業では有効求人倍率が3倍を超えていると言われます。

仕入先の得意先や取引先の金融機関は、職場に若者が入っているかどうか、社長の後継者がいるかどうかによって、その企業の評価や評点を変えるのが通説です。数年前に印刷業の会社を解散させた私の友人は、「後継者が不在のうちを見抜いてか、取引銀行は金利を高く設定して、選別化を図って来た」と話してくれました。

マスコミに大々的に取り上げてもらえる、大企業や社会的な問題にまで発展した業界は、まだ恵まれているのかもしれません。世論の目が向けられず、働き手不足で深刻な問題を抱えている中小の企業は数限りなく存在するはずです。しかし、助けてくれる者がいかければ自力で解決するしか方法はありません。

2015年の日本の総人口は1億2700万人でした。50年後の予測は8800万人ですので、減少率は3割です。一方前述の生産年齢人口は、50年後は4割も減るのです。総人口と経済がリンクするのであれば、経済が縮小する以上に働き手不足は更に深刻になっていることを意味します。これは少子高齢化がまだ進むことに他なりませんが。

この4月からわが社の正式社員となった息子が、70歳を超えて迎える50年後は、このような日本になっているのです。
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使う鉄と使わない鉄

2017年04月08日 06時09分59秒 | Weblog


日本橋三越本店の一階の中央ホールで開催されていた、“光-映-日本刀/刀匠 河内國平 展”というものに行って来ました。私が行ったその日は、刀匠と阿川佐知子さんとのトークイベントも行われていました。

河内國平さんは1941年大阪市生まれ。光を映す日本刀の仕事と対峙して51年、奈良県無形文化保持者です。現代の刀匠の中でも数少ない最高峰の「無鑑査認定者」であり、これまで不可能とされた平安時代末期から室町時代の古刀が持つ地紋の「乱れ映し」の再現に成功し、刀剣界最高の「正宗賞」を受賞された方です。

日本では刀は戦国時代まで、武士の命を賭け戦う大事な道具でした。江戸時代になって戦は無くなり、刀は人を殺す目的で使われなくなりました。人を殺すため大量に造った時代と、武士の魂として身に着けていた時代と、自ずと造り方も変わったと言います。

そのような刀の歴史も織り交ぜてのトークイベントでした。刀匠らしくない冗談を交えた軽妙な話し、阿川さんの絶妙な突っ込みもあり、話が立体的になって、40分程の時間はあっと言う間に過ぎました。この後、河内さんのご子息による日本刀の造り方のレクチャーもあり、俄かに私の刀の知識が増えました。

日本刀の材料は、和鉄です。和鋼とも言い、砂鉄と松の炭を原料とし、日本古来より続く「たたら吹き」により造られる鉄を使います。粘土で築いたたたら炉による低温還元精錬によって、鉄の塊(玉鋼:たまはがね)が出来、この玉鋼を幾度も鍛錬を繰り返すことによって日本刀は完成します。

現在の製鋼法は、鉄鉱石と還元剤にコークスを使用して、巨大な炉で造る方法です。和鉄に対して、これを洋鉄と言います。和鉄は洋鉄に比べて、粘りがあり不純物が少なく純度が高い。和鉄は、鍛錬する製造工程も加わって、折れず、曲がらず、よく斬れる日本刀となります。

改めて今回のイベントに参加して、和鉄の優れた特性を認識しました。和鉄は古い鉄、洋鉄は新しく品質が良い鉄、そのような私の固定観念が覆されました。そして刀匠は、次の二つの特徴的な話をされました。

日本刀は、使わず手入れしなければ錆びる。けれどもこの錆びは表面的に錆びるのであって、磨けばその錆びは無くなる。しかし現在の鉄は錆びると、その中に錆びは食い込んでいって、最後は使い物にならなくなる。日本刀は、錆を持って自らを守る。

玉鋼の中にも純度が高い物とそうでもない物があるが、それを部位によって使い分け軟らかい鉄と硬い鉄を抱き合わせて、また焼入れ製法などを工夫して、折れず、曲がらず、よく斬れる日本刀に仕立てる。一本の日本刀は、硬軟が織り交ざって力を発揮する。

二つの特徴は、人間が生きる上でも、何か示唆があります。

わが社の扱っているのは、勿論洋鉄となります。これからも本来の目的で、「使う鉄」となります。和鉄から造った日本刀は本来の目的では「使わない鉄」となりましたが、このような刀匠が存在する限り、日本刀を造る技はしっかりと継承されていくはずです。

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想いと継続と決断

2017年04月01日 09時23分34秒 | Weblog
地区鉄鋼団体の江戸川鉄栄会の総会が、毎年4月には行われます。私は一年前に当会の常任役員は退き、現在は相談役です。相談役は会計監査も兼ねていますので、先日現役員が総会に向けて、決算書類の記載内容などのチェックを受けにわが社に訪れました。

勿論計上されている数字については、実際の金額との照合も取れて、全く問題はありません。但し繰越金の残高が、当期も増えて800万円を超えているのが気に掛かりました。この繰越金は、ここ数年増え続けています。

私が11年前会長職を仰せつかった当時、従来の事業のやり方を踏襲し収支の改善がなされない限り、1~2年後には繰越金は500万円を割り込む状況でした。従来の事業を見直したり、行事に参加される会員の受益者負担を増やしたり、その後役員全員と知恵を出しあて今日を迎えています。

実は4月からスタートする次年度、江戸川鉄栄会は創立50周年を迎えます。体外的な記念式典を行う等の想定もあり、繰越金を積み増して来た経緯もありました。しかし現役員の総意で、主に会員の経営者を対象に台湾へ記念旅行をすることを決断しました。次年度の予算案を見ますと、その補助を出す位で、他大きな支出はありません。

上部団体の東京鐵鋼販売連合会(東鉄連)は現在約300社の加盟で、繰越金が減り続けています。東鉄連の会員数は年々減少し、その他の要因も重なり、いずれ会費の値上げも避けられない財務状態です。江戸川鉄栄会は現在30社の加盟で繰越金は800万円超え、恐らく今年度3月末で東鉄連のそれを上回るでしょう。

このような団体の留保金は有り過ぎても問題、少な過ぎても問題があると私は思います。一定の金額までは健全な留保金は積む必要があるでしょうが、それ以上は無駄なお金を寝かせていることになります。積み増すにしても、特別な周年行事などに使うのであれば別です。

江戸川鉄栄会には毎年会費だけを払い込んでくれて、行事には殆ど参加しない会員も存在します。何らかの目的があって入会して継続しているので、無理やり行事参加を呼び掛けなくてもいいのかもしれません。しかし留保金はその会員も含め、共有の財産となります。

繰越金が増えるのであれば、例えば会費を値下げするとか、行事に参加される方の受益者負担を減らすとか、要は会員に還元をする視点を忘れてはならないと思います。無駄使いは排除されるべきですが、目的がない緊縮財政は意味がありません。

このような私の考えを、当日監査を受けに来られた現役役員に伝えました。後日会長とも相談した上で、記念旅行の補助以外に、従来行って来た新年会や秋の家族旅行の参加費を無料にするとか、記念行事の一環として200万円の予備費を次年度計上すると、その役員から連絡をもらいました。

周年行事を大々的に祝うのか、身内だけで祝うのか、その代の現役員が決めてよいと思います。しかし代々の役員が何を想って、どのように苦労して将来に備えたかは、伝える必要があるように感じます。
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