梶哲日記

鉄鋼流通業会長の日々

ライフ・シフト(その2) 

2023年01月28日 05時39分55秒 | Weblog
『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』の著者リンダ・グラットンさん(1955年生まれ)は、英ロンドン・ビジネススクールの教授で、人材論、組織論の世界的権威です。世界で最も権威ある経営思想家ランキング「Thinkers50」では2003年以降、毎回ランク入りを果たしています。2013年ビジネス書大賞を受賞したベストセラー『ワーク・シフト』や『Glow』など一連の著作は20カ国語以上に翻訳されました。

2016年11月に発刊された『ライフ・シフト』では、先進国では2007年生まれの2人に1人が100歳を超えて生きる「人生100年時代」が到来すると予測し、これまでとは異なる新しい人生設計の必要性を説きました。日本では本の発売と同時期に、「人生100年時代」を小泉進次郎が使用したことで広く浸透しました。2017年9月には首相官邸に首相安倍晋三を議長とする「人生100年時代構想会議」(推進室)が設置され、グラットンさんはそのメンバーに唯一の外国人として招聘されました。

2018年6月には「人生100年時代構想会議」から、幼児教育無償化の加速、待機児童問題の解消、介護職員の処遇改善、学び直しの支援、高齢者雇用の促進などからなる「人づくり革命基本構想」が発表されます。安倍首相は、「人生100年時代を見据えた経済社会システムの大改革に挑戦するのが人づくり革命」であると述べました。

しかし2021年11月、岸田内閣はこの「人生100年時代構想推進室」を廃止しました。理由は「岸田文雄内閣の政策を進めるためだ」と、松野官房長官は説明しています。「政策の修正や転換ではなく、事業は担当省庁で引き続き実施される」とのことでした。確かに、幼児教育無償化の加速、待機児童問題の解消などは、今日まで続行されています。

しかしながらグラットンさんが説いた肝心の主張は浸透せず、「人生100年時代」は、言葉だけが一人歩きしているようにも思われます。喉元過ぎればではありませんが、政府もまだ先の話しと切り替えてしまい、我々も実際そうなったらどうするか(今の16歳が2人に1人が100歳を超える)の想定をしていません。NHKの番組で紹介されなかった、グラットンさんの『ライフ・シフト』でのメッセージとはどのようなものか。ごく一部ですが、以下となります。

長寿化は社会に一大革命をもたらすといっても過言でない。人々の働き方や教育のあり方も、結婚の時期や相手や子どもをつくるタイミングも、余暇の過ごし方も、変わる。国(政府)に求められることもあるだろうが、最も大きく変わることが求められているのは個人だ。あなたが何歳だろうと、今すぐ新しい行動に踏み出し、長寿化時代への適応を始める必要がある。

寿命が延びれば、働く期間が長くなり、貯蓄の重要性も高まる。しかし、仕事とお金の面だけを見ていては、人間の本質を無視することになる。長寿がもたらす恩恵は、基本的にはもっと目に見えないものなのだ。そうしたお金に換算できない、つまり無形の資産に光を当てたい。お金に換算できないが、無形の資産に投資するお金はある程度必要になる(有形と無形のバランス)。無形の資産には非常に多くのものが含まれるが、長寿化との関係を基準にこれらを三つカテゴリー分類してみた。

一つ目は生産性資産。人が生産性を高めて成功し、所得を増やすのに役立つ要素のことだ。スキルと知識が主たる構成要素であることは言うまでもないが、ほかにもさまざまな要素が含まれる。

二つ目は活力資産。大ざっぱに言うと、肉体的・精神的な健康と幸福のことだ。健康、友人関係、パートナーやその他の家族との良好な関係などが該当する。活力資産を潤沢に備えていることは、よい人生の重要な要素の一つだ。

最後は変身資産。100ライフを生きる人たちは、その過程で大きな変化を経験し、多くの変身を遂げることになる。そのために必要なのが変身資産だ。自分についてよく知っていること、多様性に富んだ人的ネットワークをもっていること、新しい経験に対して開かれた姿勢をもっていることなどが含まれる。

本は11章ありますが、以上の内容はわずか1~2章のものです。私はこの無形の資産の中で、変身資産に興味をもちました。これからの私にとって何か新しいことをやるとしても、これは必要だと感じました。   ~次回に続く~ 

 リンダ・グラットンさん

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ライフ・シフト(その1)

2023年01月21日 05時47分27秒 | Weblog
昨年12月中旬に行われた、鉄鋼業界団体のOB忘年会に参加しました。その団体とは東京鉄鋼販売連合会(加盟企業約300社)で、8年ほど前まで私は常任理事をさせてもらっていました。今回はコロナ禍で三年ぶりの開催となりました。OB忘年会といっても、OBが6名、現役理事が18名参加しましたので、さしずめOBと現役の意見交換会となりました。

当日参加したOBの年齢は66歳から81歳まででしたが、その内3名は現役の社長です。団体の理事を退任してOBになったとしても、半数は、自分の会社では現役第一線で仕事をされていることになります。私は67歳で社長を退いてもう三年経ちました。各企業には当然諸事情もあり、私がとやかく言う筋ではありませんが、ある事で少し気になったのも事実です。

正月の業界新聞には、恒例の“今年の年男”の記事が載ります。鉄鋼メーカー・商社・流通での年男が、人物写真と取材記事と共に紹介されます。対象者は、メーカー・商社の方は役員クラス、我々流通は社長です。流通会社での社長は、還暦(60歳)ではまだ通過点です。ただ今回目立ったのは、72歳で現役社長が多かったことです。

業界団体の集まりや業界紙面でもあるように、70歳を過ぎても多くの方が社長をされていて、何故それが気になったかの観点です。それは会社には後継者問題があるからです。一般的には社長に定年はありません。しかし、新社長になる後継者には早く席を譲り様子を見る年月や、会長が伴走して相談を受けながら軌道修正する時期が、どうしても必要だからです。   

社長の後継者移行が60歳台半ばであれば理想、との私の持論がちょっと崩れかけました。NHKの朝のニュース番組を観ていた時です。“リンダ・グラットン氏に聞く「人生100年時代」の生き方”と題した特集でした。「人生100年時代」は、私たちにとって既に耳慣れた言葉となり、誰もが100歳を迎えられる時代になりました。ならば社長業も長くても構わないのか。しかし、その番組で言わんとしていることは、これとは違いました。

あるコンサルティング会社が調べた、「人生100年時代マインド調査」の結果が取り上げられました。「人生100年時代と聞いて、どんよりする人が61.2%」という結果を踏まえ、その対策を『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)の著者リンダ・グラットンさんにインタビューするという内容です。リンダさんは、単に高齢者に向けたメッセージでなく、現在の若者から人生戦略が始まっている重要性を強調しました。以下その内容が続きます。

この本で考えたいことは引退後の生活をどうするかではなく、人生そのものを100年という単位で捉えたときに、学ぶ、働く、引退するという、これまでの人生における3つの大きなステージをどのように設計するかということです。寿命が100年に延びる社会では、そのステージのどこか、あるいは全部を、少しずつ伸ばしていくという単純な変化では対応できません。就職する、引退するという一般的な適齢期も変われば、若者、高齢者といった世代の境界線も変わってきます。生き方すべてに大きな「シフト」が訪れることは間違いありません。

一般的に平均寿命が延びると、社会が高齢化するというイメージがあります。しかし私が予測する未来はそういったものではなく、むしろ若々しく生きる期間が長くなるのです。思春期が長くなるとも考えられます。また、その若々しさとは、動けるかどうかという視点だけではありません。現在25歳の人の多くは、学ぶことから働くことへステージが移っているはずですが、平均寿命が延びた社会では、30歳でもまだ学んでいる人が珍しくないかもしれません。こうした年齢とステージが結び付かない生き方が広がり、社会はより多様かつクリエーティブになっていくことでしょう。

本では旧来のステージに代わり、「エクスプローラー」「インディペンデント・プロデューサー」「ポートフォリオ・ワーカー」という新しい3つのステージを論じます。エクスプローラーとは冒険者のように未知の環境を渡り歩き、そこでの新しい知識や技能を得るだけでなく、人との関係を築くことです。インディペンデント・プロデューサーとは、従来の起業家とは違い、事業を生み出すことそのものを目的として、生産活動を通じ学習を続ける特徴があります。最後のポートフォリオ・ワーカーは、先の2つのステージを含む様々な活動に、同時並行的に取り組む人々のことです。

“リンダ・グラットン氏に聞く「人生100年時代」の生き方”は、このような番組でした(ネット上の情報も参考にしました)。早速『ライフ・シフト』の本を買いました。   ~次回に続く~


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年賀ハガキの思い

2023年01月14日 05時35分24秒 | Weblog
正月も10日前後となると年賀状は来なくなります。松の内(1月7日)まで出せず、届いた年賀状の返礼に使われるのは「寒中見舞い」となります。もともと寒中見舞いは暑中見舞いと同じような季節の挨拶状だったようですが、喪中の挨拶を旧年中に出しそびれ年賀状が届いてしまった時、活躍してくれるのもこの寒中見舞いとなりました。いずれにしても、今年の年賀状のやり取りも終わりとなります。

日本郵便による2023年用の年賀ハガキの発行枚数は16億4000万枚だったようで、前年実績に比べると10%少なく、前年からの年賀状離れが加速していることを物語っています。年賀ハガキは1949年に発売が開始されてから、徐々に発行枚数を伸ばして、1973年には20億枚を突破し、ピーク時の2003年には44億枚を超えました。2010年から減ったり増えたりを繰り返し、2010年から現在まで発行枚数は減少し続けています。

私が積極的に年賀状を出すようになったのは、きっかけがありました。30年ほど前、「ハガキ道」の創始者・坂田道信さんの話しを聞く機会があったからです。「ハガキを書けば手に入らないものはない」とおっしゃっている方でした。坂田さんは昭和15年広島県生まれ。高校を卒業後農業のかたわら大工見習いとなり、46年ある師と出会い『複写ハガキ』に目覚めます。毎年約1万を超える年賀状を書き続け、ハガキ道の伝道者として、各地で講演活動をされるようになった方でした。

坂田さんの書く『複写ハガキ』は、少し変わった書き方のものでした。白紙の紙とハガキの間にカーボン紙を置いて書きます。こうすることで、当然、上の紙に書いた文面がカーボン紙を通してハガキに写るとともに、「自分の書いた文面がちゃんと残る」という仕組みなのです。

この『複写ハガキ』を始めたきっかけは、29歳の時、たまたまこの書き方を実践している森信三(哲学者・教育者)に出会い、薦められたことでした。「義務教育を終えたら次の3つが出来なければならい。挨拶が出来ること。ありがとうが言えること。そしてハガキがちゃんと書けること」。坂田さんはこの言葉を信じて、農業や建築関係の職に就きながら、まずは身近な人へ宛ててハガキを書き始めたといいます。そして信じるままに書き続けて10年が過ぎたころ、自分の「人生」に大きな変化が生まれていることに気が付きました。

苦労した漢字や文章も苦にならずに書けるようになり、そして日本全国にハガキのやり取りをする友達が出来ていました。そしてそれは、「自分は一人じゃない」そんな心の大きな支えになっていたのです。さらに『複写ハガキ』で残った何万通もの文面を振り返り、友人とはどうやって関係が出来上がってきたか、こんなことを書くと喜んでもらえる、こんな言葉は使うべきではなかった、自分は何を考え何を伝えてきたのか、人生にとっての「大事なヒント」がたくさん残されていたのです。

その坂田さんは、1枚のハガキを出すか出さないかによって、人と結びつき、自分の運命を変える実践を愚直にされた方でした。講演を聴いて私の中で変化が起こりました。手紙やハガキを極力書くことへの挑戦です。勉強会で初めて会って親しくお話をした人、営業で会社訪問をして心が通じ合った人、その人達にお礼の手紙やハガキを書くことです。すると、年賀ハガキの枚数が毎年どんどん増えていきました。

年賀ハガキ多くの方から頂くのは、私も相応に書いているからに他なりません。パソコンで印刷したものを打ち出しても、そこに一言書き込んでいると、費やす時間も多くなります。毎年頂いたものをチェックして、名簿を整備する手間も結構大変です。しかしそのつながりによって、人に助けられ、また貴重な多くのものを得ました。

ある時期から私に届く年賀ハガキの数が減ってきました。差し出される方が亡くなったり、高齢で年賀状をお終いにされたり、そのような理由です。最近は若い方でも、年賀状仕舞いをされます。その世相には、メールやSNSが普及したことが大きな背景としてあります。長く年賀状は、新年の挨拶のついでに近況報告をするのにちょうどいいツールであったのです。現在ではメールやSNSが普及したため、いつでも近況を知ることができるようになりました。

とはいえ、明日15日はお年玉抽選くじの発表日です。頂いた年賀ハガキに何か賞品がある事に淡い期待を抱きます。数は減っても、私は年賀ハガキを出し続けたいと思っています。  

 坂田道信さん
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ギブアンドテイク(その3) 

2023年01月07日 06時06分40秒 | Weblog
話し手の話をひたすら聞かなくてはならないと捉えていた、今までの傾聴の姿勢を見直してみたいと思ったのは、東畑開人さんの“聞く技術 聞いてもらう技術”の本を読んだからに他なりません。今までの私の傾聴の姿勢とは、傾聴の認定資格を取った時に受けた二つの講習、その後傾聴に関連する本で知った知識、などに寄って立っていました。
   
去年、日本傾聴能力開発協会が開催している「傾聴サポーター養成講座」を受け、ユーキャンの通信教育で「高齢者傾聴スペシャリスト講座」も受けました。その講座で、ともにカール・ロジャースという人物が登場します。ロジャース(1902~1986年)は、アメリカの臨床心理学者です。彼の革新は、対面する相手を医療の世界ではペイシェント(患者)としたのに対し、カウセリング的な心理療法の観点でクライエント(来談者:自発的な依頼者)としたところにあります。

従来の医学的な心理療法のように病者と決めつけてしまうと、その指示的なやり方はクライエントに不必要な抵抗を生み出し、依存を助長し自分で解決する力を奪ってしまう。本来健常者と病者は区別がつかないと、彼は主張しました。この考え方が日本に伝わり、1970~1990年頃ロジャース信奉期を迎えます。人とつながる傾聴が、心理学として初めて受け入れられた時代です。それは現在まで、傾聴論の基礎となっています。

日本傾聴能力開発協会の代表が、高齢者傾聴スペシャリスト協会の機関誌“傾聴”に、コメントを載せていました。「自分を押し殺す傾聴が窮屈に感じ、傾聴の探求を始めた。至ったのは、『聴く人が楽でなければ傾聴はできない』という結論であった。ロジャースが言わんとしているのは『人とつながる傾聴』、その前提として『まず自分と深くつながることからはじまる傾聴』が最も重要である」。このような主旨でしたが、額面通り私は受け取っていました。

“悪魔の傾聴”という本を読みました。著者はルポライターで、介護や風俗などの現場で、貧困化する日本の現実を可視化するために傾聴・執筆を続けている人です。「悪魔の傾聴とは、『相手に最大限に自己開示をさせ、本音を引きだしまくる聞き方術』のこと。ライターには資格も研修もないので、失敗を繰り返しながら、実践だけから、『聴き手が必要最低限しかしゃべらない』悪魔の傾聴を導いた」と、著者は語っています。

「この悪魔の傾聴は相手に対して『~をしない』不作為の術が中心であり、相手の話を否定しない、自分の意見を言わない、アドバイスをしない、である。資格や研修が役に立たず、実践で、自分の偏見のフィルターを限りなく薄くするしかない」。著者は体験の積み重ねだけといいますが、私が資格を取った時の受講内容と一致する要点が多々ありました。

さて肯定的に捉えてしまっていた、日本傾聴能力開発協会の代表のコメントと、“悪魔の傾聴”の著者の話しに、今一度立ち戻ります。

『聴く人が楽でなければ傾聴はできない』『まず自分と深くつながることからはじまる傾聴』とは、なにか。協会代表のコメントには具体論はありませんでした。聴く人が楽になる、自分と深くつながる、この意味は感覚的には分かります。しかし、自分が楽になれない時、自分と深くつながれない時、人の話が聴けなくなってしまった場合どうすればいいのか。

『相手に最大限に自己開示をさせ本音を引きだしまくる聞き方術』『聴き手が必要最低限しかしゃべらない』は、どうして著者に実践出来たのか。“悪魔の傾聴”の著者はルポライターのプロであり、私達に当てはまるのかどうか。ライターの目的は、取材し徹底して聴き出し書くことです。普通の私達が、人の話を違和感なく聞くにはどうしたらいいのか。

これらの疑問に突破口があるのではないか。そう感じたのも東畑さんの本を読んだからです。“聞く技術 聞いてもらう技術”の本の後半です。

聞く人の側に第三者が必要である。横に立つ第三者です。あなたは、その第三者にあなたの話しを聞いてもらうのです。では、その第三者とは誰か。友人でも誰でもいい。誰でもいい、だから聞いてもらう技術が必要なのである。聞いてもらえたときにのみ、人の話をじっくり聞ける。

その第三者が居なければ、あなたから聞くことを始めなさい。聞く技術と聞いてもらう技術は入れ替わる。聞いてもらってから聞く、聞いてから聞いてもらう。どちらでもいい。あなたの可能な方から入りなさい。しかし、聞くことの力は、聞いてもらったときこそ深く実感する。

聞くことに対して我慢や無理をしなくていい、「自分に寄り添える」具体論が、「傾聴で悪魔になれる」技術論が、その本には明示されていました。傾聴におけるギブアンドテイクの、今回のテーマのまとめです。一対一の握手ではなく、大勢の人が輪になって手を繋いでいる、ギブとテイクが互いに循環していく、そんなイメージを持つことができました。
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