梶哲日記

鉄鋼流通業会長の日々

企業統合とM&A(その10) ~総論として~

2024年03月16日 06時10分26秒 | Weblog
先ず、二つの会社が一緒になったことによって、現在のわが社がどのような方向性をもってきたのかの話しから始めます。それはある方が書いた本の中にヒントがありました。「日本が成長社会から成熟社会への転換を経てビジネスの変革が起こっている」との、概念を理解する必要があります。

その本は『成熟社会のビジネスシフト』、作者は並木将央さん。中小企業診断士、経営管理修士(MBA)などの資格を持ち、経営関係のコンサルティングをされています。このブログ上でも登場してもらった方です[テーマ名:プラス・ワンのその後(その4)/2023年3月投稿]。現在、わが社のプラス・ワン事業のコンサルタントとしてアドバイスを受けています。

本の論主は次のようなものです。戦後からバブルを経て人口増加が止る2008年くらいまでを成長社会、以降を成熟社会と定義。成長社会は、大量生産、大量消費が大前提であった。成熟社会では技術発達がさらに進み、情報も氾濫し、ビジネス環境は全く変化した。会社が存続するためには、経営の対処法を変えなくてはならない。

成長社会は、必要な物が明確だった。ニーズがあれば製品が増え、競争が激しくなりもっと良いものと、メーカーは競いそして技術が進化して市場が活性化する時代だった。成熟社会は、ものが満ち足り誰も困っていない。人口減は労働力も減り消費者も減り、大量生産・消費が通用しない供給過多に陥り、ひとり一人別々の価値や共感を求めるような時代に変わった。

つまり成熟社会においては、従来の成長社会の営業力では物は売れず、売れる仕組み(マーケッティング)を作らない限り物は売れない。今は舵取りが難しく、どれを選んでも正解が見えないが、逆にどれも正解になり得る。人口が増えている時代は、企業は判るからやる。人口が減っている時代は、欲しい物が消費者も分かっていないので、企業はやるから判る。

わが社の商売に置き換えてみます。問屋業は成長社会の象徴だったのです。鉄鋼需要が伸びているから、メーカーから有利に素材を買って、在庫すれば儲かったのです。その転換期は、2008年とのこと。S社と合併したのは2003年、その5年後に鉄鋼流通業界はビジネスシフトを迫られていたことになります。幸いにも、溶断加工に進出したことは突破口になりました。この概念昇華がなかったら、現在のわが社がどのような方向性をもってきたのか、未だに理解できなかったことでしょう。

次に、二つの会社が一緒になったのは結果的にM&Aだったのかの議論です。そもそもこの問い掛けは、当時仕入れ先の商社の担当だった方が「梶哲さんが行ったことはM&Aだったのではないですか」、との指摘です。ではその私の見解ですが、21年前の合併で本来のM&Aと決定的に違うのは、事前の計画性もなく仲介会社も介さないオーナー同士の取り決め事でした。M&Aだったのかどうかは全て後付けの論で、実際は綱渡りの連続で、売り手と買い手が客観的に冷静に選択・判断できるようなM&Aではありませんでした。

しかしここで仮説を立ててみると、一変します。売り手:S社が、いずれどこかに会社を買ってもらいたかった。買い手:梶哲商店が、相手先はともかく溶断業に進出するため先々M&Aをせざるを得なかった。としてみると、共に必然性があり、二つの会社はM&Aを行ったのだと、断定できます。 

S社の社長は当時高齢ではなかったものの、身内に後継者はいませんでした。千場工場を取得して機械化や社員の若返りは図りましたが、それでも自社の溶断業に経営不安がありました。手形不渡り事故を起こす数カ月前から、会社のお金を簿外にして社長の懐に入れていたとの噂も後から聞きました。財務諸表を一切表に出さなかったのも事実の隠蔽、計画倒産を考えたことは想像に難くありません。M&Aではなくとも、簿外にしたお金で、S社社長はそれなりに持ち株分の代金は手に入れたことになります。

わが社にしても正式にM&Aを行うのであれば、ある程度大きな投資が必要です。今回S社の事業を継承することで、S社に対するわが社の売掛債権の未回収金が発生しましたが、M&Aの場合ならこれが投資額だと納得できます。この投資が高いのか安いのか、溶断加工事業をS社から買い取った価値の大きさは今まで述べてきました。仮説が正しければ、わが社が成長社会から成熟社会に脱皮できるきっかけを持てたのは、二つの会社のM&Aによるものです。

近年仲介会社を通さず、売り手と買い手が直に話を進めるM&Aもあるそうです。わが社とS社のケースは事故が機縁でしたが、その魁だったのかもしれません。10回に亘りこのテーマで書いてきて、過去を思い起こし、色々なことを再認識しました。




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