梶哲日記

鉄鋼流通業会長の日々

企業統合とM&A(その6)

2024年02月17日 05時53分36秒 | Weblog
⑸ マーケット開拓
厚板の流通を簡単に示すと、鉄鋼メーカー→商社→問屋→溶断加工業者→アッセンブリメーカー→ユーザー、となります。鋼板を造る川上から加工品を使用する川下へ流れる中で、我々中間流通業(店売り市場)は大事な存在となります。生産計画がしっかりある自動車メーカーなどは、鉄鋼メーカーと直取引が可能です。中小の最終ユーザーから、日々発注される小ロット・短納期の物件に対応するのが我々の役目となります。

鉄鋼メーカーに素材を発注(先物契約)しても、出来上がるのは一カ月以上先で、またワンサイズ一定のロットも必要です。従って、市中の溶断加工業者から今日・明日、一枚・二枚の材料が欲しいと言われれば、問屋は現物を持たなくてはなりません。ある程度の規模の溶断加工業者なら先物契約も可能となりますが、問屋は一カ月・二カ月先の販売予測を立て、鉄鋼メーカーに先物契約し、市中の溶断加工業者向けに現物を在庫することによってビジネスチャンスが生まれます。

改めて問屋の機能は何かとなると、現物在庫、小口配送、販売先の情報収集、立替金融、与信管理などがあげられます。商社が介在出来ない機能でもあります。しかし、かつて商社が現物在庫を持っていた時代もありました。さらに、鉄鋼メーカーが製鉄所の中で現物を管理してEコマースを活用して販売していた時期もありました。現在は鉄鋼メーカーの一社だけが、ほぼ現物即納に応じるのみとなりました。

商社や鉄鋼メーカーが現物販売から撤退した原因は、マーケット(店売り市場)の縮小です。かつてこの市場には外国材(無規格として)の使用も盛んでしたが、材質や納期問題もあり、国内メーカーの規格材に集約されてしまいます。当然のことながら、厚板専業問屋の扱い量の激減もあらわとなりました。少子高齢化の日本において、箱物と称する鉄鋼構造物も、今後需要は増えることはないとされています。

このような状況下、問屋の販売先の溶断加工業者の廃業・倒産も増え続けてきました。廃業の理由は、経営者の高齢化、後継者不在、機械の老朽化、従業員の高齢化、等々です。従業員の高齢化に対処するため新鋭の機械導入の検討をしようとしても、販売先の先々の動向がつかめない。工場の土地が経営者や会社の所有であれば、売却するなり賃貸するなりして、マイナスにならずに店仕舞いが可能なので、廃業に拍車が掛かったことは否めません。

マーケットの縮小や先行きの経営に苦悶する溶断加工業者として、S社も例外ではありませんでした。S社の八広工場の切板の向け先が金型向けとの話を前回伝えました。わが社が21年前引き継いだ当時、八広工場は素材に石筆で寸法を罫書いて、ポータブル溶断機で切断するような、前時代的な人海戦術で加工していました。合併した後、中国などから安い金型が入るようになり、ある部分は日本に戻らなくなりました。わが社も残業改善の目標を掲げ急オーダーを是正することになり、最盛期月数百トンあった金型向け切板は、引き継いでから10年くらいで全くゼロになりました。

一方、千葉工場は省人力と機械化を進めていました。二代目のS社社長は、先代から引き継いだ八広工場が手狭であり、新たに千葉に広い土地を求め、未来への道筋を求めていた功績は認められます。大型のNCガス溶断機や業界でもいち早くレーザー切断機も導入して、建築構造物関係の切板を手掛けるなど、若者も働ける環境は整えようとしていました。しかし同業他社も多いのが溶断加工業者の実情です。稼働を維持するのに他者が安値を出せば、いずれマーケットに悪影響を及ぼします。S社も苦戦している一社でした。

店売り市場がシュリンクすれば、鋼板問屋も溶断加工業者も一心同体なので、共にどこに活路を見出せるかが大きな課題となります。問屋の販売先である溶断加工業者の母数が減る中で、問屋が無理にマーケットの占有率を争う時代ではなくなりました。勿論溶断加工業者でも、取り巻く厳しさは変わりませんが、やり方によってはまだ手の打ちようがあると捉えることができます。

問屋業であった従来の梶哲にとってみると、S社と合併したことは、結果的に新たなマーケットを開拓したことになります。川下の方へ一歩進むことは、よりユーザーに接近することになり、加工事業を手掛けることで、ユーザーに近い情報が直接入ってくることになりました。鋼板販売の最盛期が過ぎ去り、現在この事業はわが社の大黒柱となっています。
~次回に続く~


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