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組織スラックが必要な理由

2015年12月20日 | コンサルティング

スラック(slack)とは、ロープなどのたるみ、ゆるみという意味です。組織スラック(organizational slack)は経営学上の概念で、企業が内部に持つ余裕資源を意味しています。具体的には、会社が抱える余剰人員や余剰資金、余分な棚卸資産などです。

企業は、株主や債権者から、持てる資源(ヒト、モノ、カネ)を無駄なく使うよう求められています。したがって、企業の内部にスラックがあるとすれば、本来それは排除されるべき対象であるはずです。

しかし、企業が不確実性の高い環境に対応して成長する上で、組織スラックは必要な存在なのです。

企業が市場の大きな変化に対応するため、「予備の資源」として組織スラックが使うことがあるからです。時には、新製品の開発や技術革新を生み出すこともあります。一見無駄な存在が、実はイノベーションの源泉となる可能性すらあるというわけです。

組織スラックという言葉を私がはじめて聞いたのは「経営学概論」の授業でした。その時は、企業を自動車にたとえるならば「ハンドルの遊び」のようなものかと思っていました。それから40年、いくつかの企業で経験してきたことを振り返ってみると、スラックの存在がいかに大事であるかがわかるようになりました。

私は新人の頃、経理部で予算編成の仕事をしていました。社内の各部署から出された予算案は、コストを「水増し」したり、容易に達成できるよう売上目標を低く設定したりということが散見されました。こうした「サバを読む」ことによって形成されるスラックは、「環境の不確実に対する安全弁、組織内部の目標間の対立の緩和、管理者の自由裁量枠の増大に役立つ※」とされています。

ただし、スラックは大きければよいというものではありません。大き過ぎるスラックは組織の動きを鈍くし、自滅を招きかねません。適切なサイズのスラックを抱えている企業だけが大きな変化を乗り切ることができるのです。

組織にとってスラックは「ゆるい」、考えようによっては皮下脂肪のような存在ですが、変化に対応するために組織という生き物が身に付けた智慧の産物なのかもしれません。

※ 「経営学におけるスラック概念について」 佐々木弘、国土交通省ホームページより

(人材育成社)