「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

番組視聴コーナー~「七人の侍」誕生の軌跡~

2008年09月02日 | 番組視聴コーナー

音楽への熱気に比べると映画の方はいまいち気が乗らないが、それでも興味がないことはない。

「映画とは映像と音だ」と喝破したのはゴダールだそうだが、モーツァルト曰く「音楽に映像(演劇)が加わったのがオペラ」だとすると、映像に音が加わったものが映画ということになるから音楽と映画とがまったくすれ違うというわけではなさそう。

さて、これまで観てきたいろんな日本映画のうちで一番記憶に残る作品はと問われたとすると、真っ先にアタマに浮かぶのは
”七人の侍”(監督:黒澤 明)。


自分が小さい頃に製作されたものだから、もちろん当時は分かりようがないが、後年成長するにつれ、そして中高年になった今でも相変わらず観るたんびに何らかの発見があり価値を見出す映画である。

今年は黒澤監督没後10年になるとのことで、何かと黒澤作品が話題に上っているがこれほどの傑作になると製作の経緯とかいろんなエピソードについては折にふれ関係者によって語り継がれてきたし、関係書も多いので大体のことは知っているつもりだったが先日のNHKBSハイビジョンによる番組ではかなり新鮮な情報が得られた。既にご覧になった方も多いと思うが、自分の個人的なライブラリーとして残す意図で整理してみた。

放 映 日    2008年8月28日(木)21時~22時16分

チャンネル    NHKBSハイビジョン2

タイトル      没後10年 黒澤 明 特集 「脚本家 橋本 忍が語る黒澤作品」
           ~「七人の侍」誕生の軌跡~

出   演     脚本家「橋本 忍」  インタビュアー「小野文恵」

聴 講 生     シナリオ作家協会シナリオ講座の皆さん
           日大芸術学部、早大生、全体で75名の映画を研究している方々

                 

NHK小野文恵アナウンサー(「ためしてがってん」のレギュラー)のインタビューのもと、「七人の侍」の脚本を書いた橋本忍氏(90歳)が思い出話を語るという趣向で番組が始められた。

冒頭に「弱い脚本から絶対に優れた映画は出来ない。~ 映画の運命はシナリオが握っている」(黒澤監督の言葉)により脚本の重要性と合わせて橋本忍氏が紹介される。

橋本氏は黒澤監督の代表作「生きる」「七人の侍」を始め8本の映画の脚本を共同執筆し、今日まで全部で71本の脚本(ほかに「砂の器」など)を執筆された方である。

盛り沢山の内容だったが、以下3点に焦点を合わせてみた。

☆「七人の侍」の題名の由来

「これまでの日本の時代劇は歌舞伎の延長に過ぎない、今度は徹底的なリアリズムに基づいた大型時代劇を製作したい」との黒澤監督の意向のもとに当初の企画では題名「ある侍の一日」を取り上げたが、当時の時代考証の裏づけ資料が足りず没となり、次の企画がオムニバス形式の「日本剣豪列伝」だったがこれも起承転結のストーリーの展開が欠如していたため没となる。

雑談の中で、昔の侍の「武者修行」はどうやっていたのかが話題となり、「道場破り」から話が発展して、「寺院で施しを受ける」そして
「お百姓に雇われて夜盗の見張りをする」へと続く。

ここにきて、黒澤監督「出来たな」、阿吽(あうん)の呼吸で橋本氏「出来ましたね」、「侍の数は何人にしますか?」「3~4人は少ない、8人は多すぎる、7人にしよう」「それでは
”七人の侍”ですね」

☆ 「七人の侍のうち誰を生かし、誰を死なせるかはどの段階で決まっていたのか」

映画では結局のところ、野武士との戦いで七人の侍のうち四名が戦死するがその生死については、当初から一切決めていなかった。その場になっての状況で一番効果的なタイミングを計った結果によるもの。ただし、強いて言えば主役の勘兵衛(志村喬役)だけは生き残るのが前提だった。

☆ 脚本の共同執筆で相互にぶつかり合ったときはどちらのアイデアを取り入れるのか

これは聴講生からの質問によるもので出来上がった脚本が映画の成否を握っている以上、非常に重要なポイントだと思った。橋本氏の回答は、ずばり、それはリーダーの判断にすべて一任したとのこと。

当時、脚本は黒澤明氏、橋本忍氏、小国英雄氏(故人:おぐにひでお)3名が熱海の旅館に3ヶ月篭って書き上げたもの。

黒澤氏と橋本氏がそれぞれ同じ箇所を執筆し小国氏はいっさい執筆せず、そのかわりに「いい」「悪い」を判断して選択するというもので、リーダーは「小国旦那」(橋本氏言)の役だった。

「いい」「悪い」の理由は一切問わず語らずで、両名ともに理屈抜きでひたすら「小国旦那」の言うことを素直に聞いて書き直したそうだ。

この方式で出来上がった作品が「羅生門」「生きる」「七人の侍」などでこれは黒澤監督の珠玉の作品とされるもの。

一方で晩年の作品になると、黒澤監督は共同執筆の形態をとり続けるも自分が「リーダー」となって最終の良否を判断するやり方に至ったが、衆目の一致するところこれらの作品に精彩が失くなってきているのは明らかである。

どうやら
「プレーヤーは審判を兼ねない方がいい」ようで橋本氏からも、だから「生きる」と「七人の侍」は良い作品に仕上がったと、その辺の機微を伺わせるような趣旨のご発言があった。

とにかく、この映画は何度観ても面白いが幸いにもNHKがBSハイビジョンで黒澤監督没後10周年に因んで全30作品を9月に入ってから放映中である。

今後、もう出現しそうにない空前絶後の傑作、日本映画の
不滅の金字塔といってもいい「七人の侍」の放映日は次のとおり。何と黒澤監督のご命日に最高の作品をぶつけてきた。NHKもなかなか味(あじ)なことをする。

NHKBS2チャンネル 2008年9月6日(土)20時4分~23時32分(3時間28分)                  

 

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