香山リカ『がちナショナリズム -「愛国者」たちの不安の正体』(ちくま新書1159、2015年12月10日筑摩書房発行)を読んだ。
表紙裏にはこうある。
二〇〇二年、著者は、『ぷちナショナリズム症候群』で、皇太子夫妻第一子誕生に熱狂する人々、ワールドカップ日韓大会にわく若者たち、などを観察し、「ニッポン、大好き」と言ってしまう日本人に対して、右傾化とファッションの萌芽なのか、と警鐘を鳴らした。一三年たった今、「愛国ごっこ」は「ごっこ」ではなくなり、あの時の心配はすべて現実となってしまった。安倍内閣から、ネトウヨ、ヘイトスピーチ、反知性側義、安保改正まで、現代日本の「愛国」の現状と行く末を改めて分析する。
評論家・古谷経衡(つねひら)氏は保守色の強い約1000人のネットアンケート結果から「ネトウヨの中心は
“低学歴ニート”ではなく、大都市在住の三十代~四十代ミドルクラス」と分析している。
歴史社会学者・小熊英二氏は、「つくる会」の関係者や支持者は「普通の市民」や「庶民」だと自称し、「確固たる思想性は希薄で、天皇への関心は薄い」。個人の集合としての草の根保守運動であり、「ナショナリズムの台頭」ではなく「ナショナリズム気分」を見ている。
香山氏は、
安倍首相や閣僚たちは、第二次政権以降、有権者からの期待と熱狂に祭り上げられ、「傲慢症候群」と呼ばれる状態に陥っていると考えている。
・・・
そして、最後に語る。「日本ってすばらしい」という甘いナショナリズムのファンタジーの影にひそむファシズムに、目をこらし、「通すな!」の言葉を叫び続けなければならないときがいま、やって来たのである。
目次
序章
第1章 ナショナリズム気分から排外主義へ
第2章 崩壊するエディプス神話
第3章 日本は「本当のことを言える国」か?
第4章 スポーツを利用するナショナリズム
第5章 日本は“発病”しているのか
終章
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
論旨には賛成で、あほなネトウヨが騒いでいるだけなら無視すれば良いのだが、「普通」の市民のタカ派が登場、増幅しているなら問題だ。その理由、規模は明確には書かれておらず、不安になったままだ。
何より、香山氏に対するネトウヨなどの非難の言葉にあきれ、笑えるし、恐ろしくなる。いわく、「首相への人権侵害、名誉棄損だ」「精神科医が政治を語るのは医師法違反だ」「そんなに日本が嫌いなら出て行ってはいかがですか」などなど。
第二章の途中から突然「分離不安」なる心理の解説が始まり、この章の大部分(28ページ)ほどを占めるが、前後との関係が希薄で、論旨が強引だ。
社会的、個人的な不安が増大して、
「反動形成」「躁的防衛」といった・・・心のメカニズムによって、より強いもの、よりたくましいものを求め、それに自らを擬態させ、内なる不安を打ち消そうとする。その意味でも安倍首相の登場は、多くの人たちにとって“都合のよいもの”であったわけだ。
このあたりも、強引な論旨が目立つ。
香山リカ(かやま・りか)
1960年北海道生まれ。東京医科大学卒。精神科医。立教大学現代心理学部映像身体学科教授。
学生時代から雑誌などに寄稿。その後も、臨床経験を生かして、新聞、雑誌などの各メディアで、社会批評、文化批評、書評など幅広く活躍。
『おとなの男の心理学』『<雅子さま>はあなたと一緒に泣いている』『雅子さまと新型うつ』『女はみんな『うつ』になる』『精神科医ですがわりと人間が苦手です』『親子という病』『弱い自分を好きになる本』『いまどきの常識』『しがみつかない生き方』『だましだまし生きるのも悪くない』『人生の法則』『できることを少しずつ』『若者のホンネ』『新型出生前診断と「命の選択」』『女は男をどう見抜く』