青山潤著『アフリカにょろり旅』(講談社文庫あ108-1、2009年1月9日講談社発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
世界で初めてニホンウナギの産卵場所を特定した東京大学海洋研究所の「ウナギグループ」。今回の目標は、全18種類のウナギのうち、唯一まだ採集されていない「ラビアータ」を見つけることだった。過酷な状況下、幻のウナギを求めて、二人の研究者が繰り広げる爆笑アフリカ冒険記。第23回講談社エッセイ賞受賞作。
東京大学海洋研究所は様々な学問分野の80名近い研究者が大学院生とともに「海」を研究している。その中の海洋生命科学部門の我らが先生・塚本勝巳教授率いる「行動生態研究室」別名「ウナギグループ」はウナギの産卵場調査や生態研究で知られる。
なぜウナギなの?と聞かれると、先生は答える。「だって面白いでしょ。数千キロも広大な海の中を回遊するんだよ」
地球上に生息するウナギは全18種、著者の青山と相棒の渡邊俊は内17種を集めて遺伝子解析、形態解析した。残る一種「ラビアータ」を求めてオープンチケット(帰りの月日不定の航空券)を握りしめてアフリカ・マラウィ共和国へ旅立った。若いころ無謀な貧乏旅行を繰り返し、日本社会に適応できなくなった伝説のバックパッカー(先生)、一番弟子の私と二番弟子の渡邊俊(俊)の3名だった。
そして、先生が帰国後の二人旅はハチャメチャだった。
高野秀行さんの解説は語る。
少ない予算をできるだけ有効に使うため、旅は極度に切り詰められる。汚いザックを抱え、三名はTシャツにサンダルで現地のバスやトラックを乗り継ぎ、トイレにウンコが山盛りになっているような安宿に泊まり、肉に正体不明の毛がからみついているような現地食堂の飯を食ってよたよたと移動を重ねる。まるっきりバックパッカーの旅なのだ。
この作品は、2007年2月に講談社より刊行。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
私的には五つ星だが、危険であまりにも汚い旅の話についていけない普通の人のために四つ星にした。
やっていることはアホなのに、当人たちは一心不乱、真剣そのものの学術調査なのだからよけい笑える。
本当にやりたい研究のためなら、どんなに汚い宿でも、どんな危険があっても、‥‥‥、いや、私には無理。読んで笑うだけにしたい。
青山潤(あおやま・じゅん)
1967年、横浜市生まれ。東京大学農学生命科学研究科、博士課程修了。
その後、東京大学海洋研究所行動生態研究室に所属し、塚本勝巳教授の下で、助手としてウナギの研究に携わる。2006年には同研究室の手によって、ニホンウナギの産卵場所がほぼ特定され、世界的な注目を集めた。
本書『アフリカにょろり旅』で第23回講談社エッセイ賞を受賞。
現在、東京大学教授、同国際沿岸海洋研究センター長として研究、エッセイなどの執筆活動中
なお、本書での相棒・渡邊俊氏は現在近畿大学農学部 水産学科農学研究科准教授。
南米のマーケットでは赤ん坊が売られていた。冗談のつもりで値段を聞いたら、「700ドル」だと真顔で答えられた。(p24)
ボルネオのジャングルで岩の隙間に顔を突っ込んで、溜まった水を飲む子供の姿を見た時、
「彼は立派に淘汰を生き残ったんだなぁ」
と感心した。体力のない子供は生き残れない。それは一種の自然淘汰であり、……。偉そうな顔をしてウナギなんか探している自分が、実は淘汰されるべき弱者であり、…。(p66)
おそらく、今このアフリカで、私達の消費しているエネルギーのほとんどは「生きるため」のものであり、「研究」に振り向けているのはわずかな余剰分でしかないだろう。(p159)
市民講座で先生のウナギの講演後、
決して豊かとは言えない身なりをした老人と、孫なのだろう、連れてきた子供が目をキラキラ輝かせ、話す声が耳に残った。
「面白かったね。ウナギはすごい所まで泳いで行くんだね。不思議だね」
……
思えば、アンデスの友人たちも夜空を見上げて、星の不思議について語り合っていた。たとえ貧しくとも、人が人である限り、知的好奇心は心の栄養になっていることを知った。
この話に強く共感した高野秀行さんは、本書の解説で、今度こそ俺も謎の怪魚ウモッカ探索に行こうと決心するのだが、私は「それとは、違ってますよ、高野さん!」と突っ込みたかった。