hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

ローストビーフの店 鎌倉山へ

2016年07月27日 | 食べ物

ローストビーフの店 鎌倉山の本店へランチしに行った。

場所は湘南モノレールの西鎌倉駅と大仏殿との間といった所で、山の上だ。

ちなみに、近くにある「夫婦池」は池の周りを散策すると、とくに何もないのだが、人も少なく落ち着ける場所だ。

駐車場から下りていくと、門がある。

あいにく本館は工事中で、

大広間に数個のテーブルが置かれていた。

室内もテーブルのしつらえも品があり、私なんぞはちょっと緊張。

ここは3度目なのだが、最初に来たのは40年程前。

水っぽい西友豆腐ともやしの毎日に飽き飽きした貧乏な新婚生活にやけになってやって来たのだった。

大東京を電車で横断し、バスと徒歩ではるばるやってきて、おどおどしながら席に着いたが、メニューを見てたまげた。

忘れもしない、6000円! 40年前の、安月給の身で、一人6000円。


奥さんに「どうする? 金、ある? カッコ悪いけど、出る?」と聞くと、

頬を染めて、財布を確かめた奥さんが、「一応、あるけど。でも・・・」と言う。

「う~ん・・・。良し決めた! 注文しちゃえ!」

忘れられない思い出だ。 今思うと、うぶで、ほほえましく、懐かしい思い出になってしまっている。


パンとオリーブオイルに続いて出てきたのは、いさきの刺身、メロンに生ハム、そしてホタテ。

こんな厚く柔らかい生ホタテは初めてで、美味い。


そして、メインのローストビーフにナスとポテト添え。

薄く、大きく広がるローストビーフは贅沢気分満載。

ローストビーフというと厚く切って、すこしパサパサした印象があるが、この方が美味しい。

わざわざ、席の傍まで移動台を持ってきて、切っているところを見せてくれたのだが、話に夢中で見ていなかった。こんなに薄く、大きく切るところを見て見たかった。

デザートは数種類の中から選んで注文する。見栄っ張りな誰かさんは、悔しい気持ちを押し殺しで、3種のみ。濃厚なチーズケーキ、重量感あるイチジクのコンホート、意外とあうイチジクのショートケーキ。

そして、コーヒー。オレンジジュースも頼んで、一人、8千円と少し。

ご満足な半日でした。

 


         

 

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『サラリーマン川柳 むちゃうけ傑作選』を読む

2016年07月23日 | 読書2

 

やくみつる・やすみりえ・第一生命編著『サラリーマン川柳 むちゃうけ傑作選』(2016年6月10日NHK出版発行)を読んだ。

 

第一生命が募集するサラリーマン川柳コンクールも第29回となった。今回も約4万句もの応募があったという。

この本には、3編著者によるベストテン、トレンド毎の句、穴埋め問題、傑作集、4回~28回人気投票傑作選などが紹介されている。

 なお、ネットでも、サラリーマン川柳が歴代のものも含めて、第一生命から紹介されている。

 

歴代の傑作の中から私の独断で選んだ句を以下に引用。

 

会社

無理させて 無理するなよと 課長言い (?) 1987?

(私がもっとも感心する句。「今月は売上目標達成が危ない!」「このままでは納期が守れない!」「各自今一度ネジを絞め直してくれ!」と朝会ではっぱをかけた課長も、6時過ぎるとやることがなく、早く帰りたい。頑張っているあなたの肩をポンと叩いて、「頑張ってるな。無理するなよ」と言って先に帰ってしまう。あなたは「無理するな? 無理させてるのは一体誰なんだ!」と怒る。そんな時は、この句を思い出して苦笑いしてください。)

 

会議中 うなずく者ほど 理解せず (よみ人知らず)1991?

(これも人の機敏をよくとらえていると感心する。会議に出た技術者が経理の報告を聞いていて、「赤残? なんだかよく解らないな。まあいいか。関係無いし」と思っていると、報告者と目があってしまい、思わず大きく2回ほどうなずいてしまう。・・・それは私です。)

 

やめてやる 三億当たれば 言ってやる! (小心者) 2003

(サラリーマンなら誰でも周期的に思うことではないでしょうか。)

 

やって見せ 言って聞かせて 辞められる (徒老) 2016

(「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」という山本五十六元帥の言葉のもじり。)

 

ハイハイと 返事よい部下 目はスマホ (ガラ系上司) 2016

 

 

「いつ買った?」 返事はいつも「安かった」 (騙されない夫) 2007

(「3割引きよ!買わなきゃ損よ!」いきまく妻。「買わないのが10割引きだ」と言いたいのですが。)

 

妻が見る 「きょうの料理」 明日もでず (グルメ老) 2016

 

ケンカして わかった妻の 記憶力 (機関銃) 2004

 

妻無口 慌てて記憶の 逆回転 (らくちゃん) 2016

(女性はともかく昔のことをよく覚えています。口答えしても判例集を厚くするだけに終わります。)

 

家庭

このオレに あたたかいのは 便座だけ (満33歳) 2006

 

「パパがいい!」 それがいつしか 「パパはいい」 (はりきりパパ) 2008

 

娘来て 「誰もいないの?」 オレいるよ (チャッピー) 2016

(娘が里帰りして、「あら、誰もいないのね」「俺が居るだろ!」)

 

人生

宝くじ 馬鹿にしながら 根は本気   (バブル人) 1994

(当選番号発表日から引換開始日まで、とくに年末は、何日かありますよね。7億円当たってたら、その間に当たった券をどこに置いておいたらいいのでしょうか? もし当たったらと、悩ましく、困っています。)

 

「前向きで」 駐車場にも 励まされ (プラス思考) 2003

 

人生は 川の流れと タマがいう (海道みち太) 2003

 

ダイエット

やせてやる!! コレ食べてから やせてやる!! (栗饅頭之命) 1994

 

太るなら おいしいもので 太りたい (美食家) 1994

 

ダイエット 乗馬に通い 馬がやせ (うっかりママ) 1996

(可哀想な馬!)

 

 

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仁木英之『ちょうかい 未犯調査室』を読む

2016年07月19日 | 読書2

 

仁木英之著『ちょうかい 未犯調査室』(2015年7月13日小学館発行)を読んだ。

 

宣伝文句は以下。

構想5年! 前代未聞の警察(?)小説
東京・吉祥寺の雑居ビル。警察庁の外郭団体、犯罪史編纂(へんさん)室。そこに集う面々は、「ちょうかい」、すなわち「懲戒免職」レベルの危険な警官たちばかり。そんな彼らの真のミッション、それは、「これから起こる犯罪を未然に防げ」というとんでもないものだった。
 しかも、彼らを束ねるのは、瞬間記憶の持ち主なのに、まさかの鳥頭という、最凶キャリア女子だった――。

(鳥頭(とりあたま)とは、「三歩で忘れる鳥頭」ということわざから、物忘れの激しいこと)  

 

「犯罪史編纂室」には、最先端の犯罪防止システムが稼働をはじめた。日本を飛び交うあらゆる文字、音声、画像が集まるデータ空間で事件が起きる兆候を読み取り、現実の世界で関係者の行動に介入して発生を食い止める。

 

「犯罪史編纂室」は、井の頭公園に隣接する玉光(たまみつ)神社(実在する)のすぐ近くの雑居ビルにある。

 

 

仁木英之(にき・ひでゆき)

1973年、大阪生まれ。信州大学人文学部に入学後、北京に留学。2年間を海外で過ごす。1年間の会社員生活を経て、99年より個別指導塾を経営。

2006年『僕僕先生』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビュー。

他、「千里伝」シリーズ、「まほろばの王たち」など古代ファンタジーから現代小説まで幅広く活動。

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

冒頭のかなりな数の人工衛星ネットワークと、あらゆるデータからデータマイニングで未犯罪情報を探し出すというシステムの説明は、それなりにそれで・・・と思わせるが、枝田千秋だけが入れるという「繭」なるものが登場すると、あとはオカルトになってしまう。

 

何かというと「吉祥寺」という言葉が出てきて、「ふむふむ」と思うが、言葉以外の詳しい説明はない。

 

 

 

登場人物

 

犯罪史編纂室の生みの親 警察庁情報通信局・局長 岩崎誠二郎

犯罪史編纂室

 枝田(えだ)千秋 室長。警察のキャリアだが、落ちこぼれ。

あらゆるデータの集合体の空間である繭の中に入り被害者を見つける

 通島武志(みちしま・たけし) 主人公、優秀な刑事、妻の沙織は植物状態

 木内亮介 何にでも侵入できるシステム担当

 魚住桂樹 来年定年の伝説の刑事

 金田りえ ナビゲーター、ひきこもり

 吉川技術課長  研究と決断に全精力を傾ける

 三橋技術主任  番頭と呼ばれあらゆる雑務をこなす

 

今田隆  東陽銀行支店長、高級住宅地白金に200坪はある屋敷に住む

今田啓太 隆の息子で不登校

新藤一真 不登校や虐待を受けた子どもを受け入れるNPOを経営

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角田光代『わたしの容れもの』を読む

2016年07月17日 | 読書2

 

角田光代著『わたしの容れもの』(2016年5月25日幻冬舎発行)を読んだ。

 

宣伝文句は以下。

人間ドックの結果だけで話が弾むことを知る、中年という時代。カラダは若い頃の精彩を欠き、少しずつ老いへ向かう変化を見せます。それは悲しいことであるはずなのに、でも、なぜか、変化はおもしろい! と、作家の角田光代さんがワクワクした気持ちで、ご自身の変わりゆくカラダを綴っていったのが本書です。 四〇歳を過ぎてはじめて豆腐の美味しさを知ったり、深夜のラーメンで増えた二キロの体重が減らなさを嘆いたり、しみとしわ、皮がしなっとした手の甲をしみじみと眺めたり、圧倒的に低下した読書体力や集中力に哀しくなったり……。その一方、運動を始める人が周りで俄然増えるのも中年世代でもあるのです。 わたしの入った容器――カラダ──がまるごと愛しくなる、共感必至のエッセイ集

 

 身体の老化に兆しを感じた40代半ばの角田さんが、32編のエッセイで語る。

 

ただただ感慨をもって、霜降り肉より赤みの肉が好きになった事実を受け止める。徹夜ができなくなった。覚えられなくなった。ちょっとやそっとじゃ体重が減らなくなった。豆腐を美味しいと感じるようになった。集中力が続かなくなった。

同世代の友人知人と話すと、健康の話題が俄然多くなった。

 

腰の痛みをあらわす単位をズンとするとして、ぎっくり腰が50ズンだったら、この痛み≪階段を5,6段落ちて腰を打った≫は200ズン。

 

 角田さんは33歳でボクシングジムに通い始め、37歳でランニングを始めた。20代の女の子が言った。

「なんでみんな、そんなに運動してるんですか。私、走るなんてまっぴらごめん・・・」

・・・

「そうなんだ、若い人は運動なんかしなくていいんだ、中年になってすればいいんだ」

 

二十代のときには、自分が五十歳になるなんて思いもしなかった。それとはまったく異なる気持ちで、きちんと六十代、七十代になれるだろうかと、もうじき五十歳の私は思っている。

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

「でもね、角田さん、そんなのまだまだなんだよ。老化の兆しともいえないよ。」と70代の私は余裕をこいて教えてあげたい。角田さんのぼやきやら、驚きなどを読むと、「ふむふむ、それで?」と、かわゆくなってしまう。

 

 

角田光代(かくた・みつよ)
1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。
90年「幸福な遊戯」で「海燕」新人文学賞を受賞しデビュー。
96年「まどろむ夜のUFO」で野間文芸新人賞、
98年「ぼくはきみのおにいさん」で坪田譲治文学賞、
「キッドナップ・ツアー」で99年産経児童出版文化賞フジテレビ賞、
2000年路傍の石文学賞
2003年「空中庭園」で婦人公論文芸賞
2005年「対岸の彼女」で第132回直木。
2006年「ロック母」で川端康成文学賞
2007年「八日目の蝉」で中央公論文芸賞

2011年「ツリーハウス」で伊藤整文学賞

2012年「 紙の月 」で柴田錬三郎賞、「かなたの子」で泉鏡花賞

2014年「私のなかの彼女」で河合隼雄物語賞

をいずれも受賞


2009年ミュージシャン河野丈洋と再婚。習い事は英会話とボクシング。趣味は旅行で30ヶ国以上に行った。

 

その他、「水曜日の神さま」「森に眠る魚」「何も持たず存在するということ」「マザコン」「予定日はジミーペイジ」「恋をしよう夢をみよう。旅にでよう。 」「私たちには物語がある」「 愛がなんだ 」「 ひそやかな花園 」「 よなかの散歩」「 さがしもの 」「 彼女のこんだて帖 」「 かなたの子 」「 幾千の夜、昨日の月 」「 曽根崎心中 」「 それもまたちいさな光 」「空の拳」「私のなかの彼女 
その他、共著「 口紅のとき」「 異性 」「西荻窪キネマ銀光座

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柚月裕子『ウツボカズラの甘い息』を読む

2016年07月14日 | 読書2

 

 

柚月裕子著『ウツボカズラの甘い息』(2015年5月25日幻冬舎発行)を読んだ。

 

宣伝文句は以下。

家事と育児に追われ、かつての美貌を失った高村文絵。彼女はある日、趣味の懸賞でデイナーショーのチケットを手にした。参加した会場で、サングラスをかけた見覚えのない美女に声をかけられる。女は『加奈子』と名乗り、文絵と同じ中学で同級生だというのだ。そして、文絵に恩返しがしたいとある話を持ちかけるが――。一方、鎌倉に建つ豪邸で、殺人事件が発生。被害者男性は、頭部を強打され凄惨な姿で発見された。神奈川県警捜査一課の刑事・秦圭介は鎌倉署の美人刑事・中川菜月と捜査にあたっていた。聞き込みで、サングラスをかけた女が現場を頻繁に出入りしていたという情報が入る……。

 

 

私の評価としては、★★(二つ星:読めば)(最大は五つ星)

 

かなり厳しい評価になってしまった。

 

高村文絵(旧姓牟田)がマルチ商法の代表に祭り上げられる経過があまりにも安易。読んでいて耐えきれない。

次々と名前を変える犯人のやり口が不自然で、著者のご都合主義。ミステリーとしての出来が悪い。

そもそも、題名に“ウツボカズラ”をもってくるとは、安易で、ひねりがない(八つ当たりぎみだが)

 

警察側の人物、捜査方法は良く書き込まれている(『孤狼の血』ほどではないが)。しかし、井本、久保、寺崎、杉本、浅田などとあまりにも多くの刑事がぞろぞろ登場し、秦以外は通り一遍の記述しかない。せめて、秦とコンビを組む美人巡査中川菜月についてもっと掘り下げて欲しかった。

 

 

柚月裕子(ゆづき・ゆうこ)

1968年、岩手県生まれ。山形県在住。

2007年、『待ち人』で山新文学賞入選・天賞受賞

2008年、『臨床真理』で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞してデビュー。

2013年、『検事の本懐』で大藪春彦賞を受賞。

2016年『孤狼の血』で直木賞候補、日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)受賞

他の著書に『最後の証人』『検事の死命』『蟻の菜園―アントガーデン―』『パレートの誤算』『朽ちないサクラ』『ウツボカズラの甘い息』(本書)がある

 

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フェルディナント・フォン・シーラッハ『罪悪』を読む

2016年07月07日 | 読書2

 

フェルディナント・フォン・シーラッハ著、酒寄進一訳『罪悪』(創元推理文庫2016年2月12日東京創元社発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

ふるさと祭りの最中に突発する、ブラスバンドの男たちによる集団暴行事件。秘密結社イルミナティにかぶれる男子寄宿学校生らの、“生け贄”の生徒へのいじめが引き起こす悲劇。猟奇殺人をもくろむ男を襲う突然の不運。麻薬密売容疑で逮捕された孤独な老人が隠す真犯人。弁護士の「私」は、さまざまな罪のかたちを静かに語り出す。本屋大賞「翻訳小説部門」第1位の『犯罪』を凌駕する第二短篇集。

 

刑事事件専門の弁護士が、現実の事件に材を得て描きあげた15の奇妙な物語。ドイツでの発行部数30万部突破。ドイツCDブック賞ベスト朗読賞受賞。

 

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

無駄をそぎ落とした簡潔な乾いた文章で、事実も人の心理も、すべてが淡々と語られる。しかし、内容には、コメディタッチの話、罪人が罰を受けない居心地わるい話、人情味ある判決が下る話、奇妙な話など多彩な形式が並ぶ。そして、著者の専門の刑事訴訟法の盲点をついたり、メインが法廷場面であったりする。15の短編それぞれが長編にも匹敵する深味を持っている。

1編1編はかなり短く、各段落も短い。しかし、短編の中に長い時間を押し込めているので、短編でありながら、一人の人生が丸ごと入っている場合もある。まるで、アリス・マンローの短編(『ディア・ライフ』、『イラクサ』)のようだ。

 

多くの刑事事件を担当してきた弁護士である著者は、事実は込み入っており、明快には理解できない壁が存在すると考えている。したがって、罪も、犯罪者も、簡単に一方的に断罪することはできないという考えに基づき話ができているのだろう。

 

 

 

フェルディナント・フォン・シーラッハ(Ferdinand von Schirach)

1964年ドイツ、ミュンヘン生まれ。ナチ党全国青少年指導者(ヒットラー・ユーゲント)の全国指導者バルドゥール・フォン・シーラッハの孫。

1994年からベルリンで刑事事件弁護士として活躍。

2011年デビュー作『犯罪』がドイツ・クライスト賞、2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位受賞。

2010年『罪悪』(本書)

2011年初長篇『コリーニ事件』

2013年『禁忌』 

 

 

酒寄進一(さかより・しんいち)

1958年生まれ。ドイツ文学翻訳家。上智大学、ケルン大学、ミュンスター大学に学び、新潟大学講師を経て和光大学教授。

主な訳書に、イーザウ《ネシャン・サーガ》シリーズ、コルドン『ベルリン 1919』『ベルリン 1933』『ベルリン 1945』、ブレヒト『三文オペラ』、フォンシーラッハ『罪悪』『コリーニ事件』『禁忌』ほか多数。

 

以下は、私が完読後にもう一度読んで、思い出し楽しんだ結果のメモです。

中にはここまで読む人がいるかもしれないので、一応ネタバレにならないようにはしています。

 

「ふるさと祭り」

小さな町の六百年祭。ともかく熱い8月1日。きちんとした仕事をしている人たちのブラスバンドのサークルでひどい暴行事件が起こる。刑事訴訟では、被疑者は黙秘が許される。証拠を提出しなければならないのは告発側だ。そして、証拠は警察のずさんな対応で失われていた。その結果は。

被疑者たちは釈放された。みんな、裏口から出て、家族のもとへ、そしていつもの生活に戻っていった。その後も税金やローンを払い、子どもを学校へやった。そしてだれひとり、あの事件を話題にしなかった。ブラスバンドが解散しただけで、裁判は一度も開かれなかった。

・・・
・・・あの娘とあのまっとうな男たちのことに思いを馳せた。私たちは大人になったのだ、列車を降りたとき、この先、二度と物事を簡単には済ませられないだろうと自覚した。


弁護士として最初の仕事で、心ならずもこんな事件を扱うことになった若者は、こう思った。

 

「遺伝子」

思わず殺人を犯してしまった二人は、その後、19年間、まっとうな人生を送ったが、・・・。

 

「イルミナティ」

寄宿学校の生徒数人は昔の秘密結社「イルミナティ」を真似したグループを作っていた。初めは遊びだったのに、生贄を求めヘンリーを餌食とするようになる。ヘンリーの絵の才能評価していた女教師は・・・。

 

「子どもたち」

小学校の教師ミリアムと、家具代理店を営むホールブレヒトは幸せな結婚生活を送っていた。朝7時に彼は手錠を掛けられて連行される。ミリアムのクラスの少女を含む24件の児童虐待容疑だった。刑期を終えてささやかな生活を過ごしていた彼は、弁護士事務所にやってきて、机の上に包丁を置き、「私はやらなかった」と言った。彼は16か17歳になったあの娘を見かけたのだ。

 

「解剖学」

 娘をバラバラに解剖しようとした男は・・・。わずか3ページの掌編。

 

「間男」

 夫48歳、妻36歳。結婚して8年。夫は美しい妻を提供する。やがて妻は抗うつ剤を服用し、夫は・・・。ドイツの刑法では、殺傷行為を中断し、被害者を死に至らしめなければ、傷害事件で裁かれはしても、殺人未遂にはあたらない。

 

「アタッシュケース」

 サービスエリアの車を止めてトランクを開けさせると、アタッシュケースがあり、中には死体を写したカラーコピーが18枚入っていた。

 

 

「欲求」

 すべてが元の鞘におさまった。しかし、妻はただの抜け殻となった。

 

「雪」

 老人は麻薬密売人のハッサン達に部屋の台所を貸していた。警察が踏込み、老人を逮捕したが、老人は・・・。

 

「鍵」

 フランクはアトリスに鍵から目を離すなと指示しが、犬のバディが鍵を飲み込んでしまった。

 

「寂しさ」

 ラリッサは14歳。隣に住んでいる男に暴行され、赤ん坊を便器に産み落とす。

 

「司法当局」

 一人で立つのもおぼつかない男トゥランがある男に乱暴したと逮捕される。犯人はタルンだという証言が、紆余曲折あって誤逮捕されたのだ。

 

「清算」

 アレクサンドラの結婚した相手は酒を飲むと暴力をふるった。「娘が10歳になったので俺の女にする」と聞いて、アレクサンドラは夫に飛びかかったが、痛烈な一撃を食って吐いた。同じアパートに住むフェーリクスが・・・。

殺人には謀殺と故殺がある。“狡猾な”、“残忍な”など“卑劣な動機”の場合は謀殺となり終身刑となる。その他の故殺の場合、裁判官は5年から15年の禁固刑を科すことができる。

 

「家族」

 ヴァラーは努力して成功した。一方、異父弟のマイネリングは刑事事件を繰り返したあげく、コカイン所持で収監された。兄による弁護費用のおかげで弟は釈放されたが、また殺人を犯した。兄は「もうなにもしてやる気はない」と言い、父は凶悪犯だったと語った。「私たちで終わりにしたほうがいい」

 

「秘密」

 毎朝弁護士事務所を訪ねてくるカルクマンは諜報機関に追われているという。私は彼を精神病院に連れていった。二人で医者の前に座り、私が説明しようとすると、カルクマンが言った。「こんにちは。私は・・・」

 

   

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朝井まかて『藪医ふらここ堂』を読む

2016年07月03日 | 読書2

 

 

朝井まかて著『藪医ふらここ堂』(2015年8月20日)を読んだ。

 

宣伝文句は以下

天野三哲(あまのさんてつ)は江戸・神田三河町で開業している小児医。「面倒臭ぇ」が口癖で、朝寝坊する、患者を選り好みする、面倒になると患者を置いて逃げ出しちまう、近所でも有名な藪医者だ。ところが、ひょんなことから患者が押し寄せてくる。三哲の娘・おゆん、弟子の次郎助、凄腕産婆のお亀婆さん、男前の薬種商・佐吉など、周囲の面々を巻き込んで、ふらここ堂はスッタモンダの大騒ぎに──。

 

江戸時代に大出世を成し遂げた実在の医者をモデルとする連作物語。

「ふらここ」とは庭の山桃の木に吊るしたぶらんこ。

 

いかにも本当はすごい名医という雰囲気を秘めながら、口が悪く、怠け者のくせに相手が金持ちとなるとやる気を出す、性格の悪さ全開で、本性を現さないヤブ医者天野三哲。

何事にも消極的で引っ込み思案の娘おゆん。

幼馴染の次郎助は三哲の押し掛け弟子となるが、おゆんが目的であることは最初から見え見えだ。

次郎助の母親で、おゆんの育ての母ともいうべき人の良いお安。

薬種問屋手代でイケメンの男やもめの佐吉と息子の勇太。

評判の取上げ婆で、しっかり金をため込んでいるお亀。三哲は「ありゃ、六十は越している。下手すりゃ喜寿じゃねえか」と言うが、「婆さん」と呼びかけると「婆さんて言うな!」と怒鳴られる。

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

軽く気楽に楽しめる。

藪医者が実は名医とか、次郎助が実はおゆんが好きとか、伏線は見え見えだが、江戸の長屋の日常生活の中での個性的な人たちのやりとりが生き生きと展開され、安心して、楽しんでスイスイ読める。

主人公三哲とえげつない凄腕取り上げ婆の亀婆との、心の底では互いに認め合いながらのこけおろし合いが小気味良い。

 

 

朝井まかて(あさい・まかて)

1959年、大阪生まれ。甲南女子大学文学部卒業。

2008年、第3回小説現代長編新人賞奨励賞を受賞してデビュー(『花競べ 向嶋なずな屋繁盛記』と改題)

2013年、中島歌子の一生を描いた『恋歌』で第3回本屋が選ぶ時代小説大賞

2014年、同書『恋歌』で直木賞を受賞、また『阿蘭陀西鶴』で織田作之助賞を受賞。

2015年、『すかたん』がOsaka Book One Project に選定。

他に『ちゃんちゃら』『先生のお庭番』『ぬけまいる』『御松茸騒動』。

 

 

 

ちちんぷいぷい

春日局が病み勝ちで癇性だった幼い家光に「あなた様は知仁武勇(ちじんぶゆう)に優れた、この世の宝にごさいますよって唱えながら抱いたという。「知仁武勇は御代の御宝」が訛って「ちちんぷいぷい」になったという。

(後に大人物になる子供を励まし慈しむ話は、みんな春日局と家光に収束する)

 

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岡田尊司『夫婦という病』を読む

2016年07月02日 | 読書2

 

 

岡田尊司著『夫婦という病 夫を愛せない妻たち』(2016年1月30日河出書房新社発行)を読む

 

宣伝文句

修復か、ピリオドか――。長年「家族」を見つめてきた精神科医が最前線の治療現場から贈る、結婚を人生の墓場にしないための、傷んだ愛の処方箋。きっとあなたにもあてはまる21のケースと有効な対処法!


いくつか抜粋

夫婦の絆自体が間違いなく脆くなっている。離婚率は、婚姻率の三分の一を超え、・・・。

 

愛着とは、・・・オキシトシンというホルモンによって司られている・・・。

愛することはコントロールすることではなく、ありのままに受け入れること。

 

回避型は、誰に対しても親密な愛着というものが築かれにくい。心を閉ざすことで自分を守っていて、・・・厄介なことを避けようとする。・・・最近の大学生を対象とした調査では、三割以上にも達する。

 

不安型は、濃厚でべたべたしたかかわりを求める・・・少しでも放っておかれると、寂しさに耐えられず、別の人を求めてしまう・・・。

 

つい相手を責めてしまう状況が続くとき、このまま、その人を失うところまで行きつくことを自分が望んでいるのか、それとも、もっと相手の協力や思いやりがほしいだけで、失いたいわけでないのか、・・・自分自身の胸によく尋ねてみることだ。

 

妻は夫に失望し、夫を責め、責めたてられた夫は逆ギレして、妻に暴力をふるうこともある。ぶつかり合いを避けるために、互いに無関心になり、情緒的なかかわりから手を引いていく。

相手のせいにだけしていたのでは、一向に問題は解決しない。なぜなら優しさとは、どちらか一方が与えるものではなく、与え合うことで増えていくという性質をもっているからだ。

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

21のケースとあるが、大部分は回避型の夫と不安型の妻のケースであり、くり返しが多い。人の気持ちを汲み取るのが苦手で面倒な問題は避けてしまう回避型の夫と、人一倍心配性で、常に支えや承認を必要とする不安型の妻との間の乖離が、負荷のかかった状況になって、余計に強まってしまった例ばかりだ。

しかも、挙げられている例は性格、態度が極端で、「そこまでやるか?」と思ってしまう。実際には互いに不満を内在させ、心が離れていき、そのまま過ごしていく場合が多いのではないだろうか。

 

 

 

岡田尊司(おかだ・たかし)

1960年香川県生まれ。精神科医、作家。医学博士。

東京大学哲学科中退。京都大学医学部卒。京都大学大学院医学研究科修了。

長年京都医療少年院に勤務した後、2013年に岡田クリニック開業。現在、同病院院長。

著書『母という病』『愛着障害』

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