自然となかよしおじさんの “ごった煮記”

風を聴き 水に触れ 土を匂う

地域ミュージアムで考える(96) 

2022-04-21 | 随想

ミュージアムの生き残り戦略がいろいろ話題になる時代です。実際,刺激がいろいろある時代にあって,個性的な内容を魅力あるかたちでずっと提供し続けるのはたいへんなことです。

不易と流行がある限り,あるものは残り,あるものは廃れるのは止むを得ないことです。ミュージアムを運営する立場にある人は,切実感をもってあれこれ見定めようとしているでしょうが,うまくいかない例が後を絶ちません。公費を潤沢に投入できるところとは違って,厳しい状況を抱える小さなミュージアムではさらにたいへん。それを乗り越えるには決定的な創意が欠かせません。それは小さな知恵の積み上げと言い換えてもよいでしょう。

わたしは地域ミュージアムに身を置いて6年間,ミュージアムのこれからについて内容面や運営面でいろいろ考える機会に恵まれました。たまたま自身は長年サイエンスと青少年の育ちに関心を持って来て,それに関連したしごとに携わっていました。その経緯から,青少年の育成にこころを寄せる市民とともにつくる,市民参加のプログラムを創造する,そんな視点を欠いたミュージアムには先がないのではないかと強く思うようになりました。簡潔にいえば,地域こそパートナーだということです。「地域とつながるミュージアム」づくりともいえます。そのためにはまずこの意識を職員で共有しなければなりません。

最近の話題では,高齢者を中心にした市民グループ提案による「蝶の庭」づくりがあります。ミュージアムの前庭に,一年中チョウを観察できる憩いと学びの空間をつくりたいという声が寄せられました。管理維持はグループが責任を持つ,ミュージアムはその取組をバックアップしてもらえばよい,というものです。

 

わたしたちはそんな試みができないか,これまでに検討したことがあったのですが,いつの間にか立ち消えになっていました。そこにこのありがたい話です。ミュージアムは公共用地にあります。そこは公園になっていて,たくさんの来園者でにぎわいます。グループの代表の方いわく,「そこにチョウが訪れる観察園ができて,たくさんの人に観察してもらえれば,グループとしても活動のしがいがあります。これがきっかけでミュージアムに関心がある方が出てくればさらにうれしいです」と。

公園担当課の理解と協力を得て,さっそく庭づくりが始まりました。はじめはアサギマダラが立ち寄るようにとフジバカマの植栽から。と思っていると,あれよあれよいう間に広がりを見せていきました。広さは2a。資材の調達ではできる範囲でミュージアム及び市役所で協力。花苗・苗木等はグループで準備。

なにしろ,一年中いろんなチョウが訪れる庭ですから,中身は大したものです。花壇の花以外の食草・食樹は柑橘類,ウマノスズクサ,カンアオイ,ホトトギス,フジバカマ,サンショウ,エノキ,ユキノシタ,ブッドレアなど。

この取組がローカル紙に紹介されました。その報道がきっかけで県の緑化担当者が来館。今後,申請すれば緑化事業として全費用を助成させていただくという,ありがたい話です。

「蝶の庭」には木製の名札が複数準備されました。もちろんグループの手によります。

 

高齢者の生きがいにもつながる今回の庭づくりです。科学のたのしさを伝えようとしてきたわたしたちミュージアムにとって,強力な協力者の出現です。

地域ミュージアムが生き残るには待ちの姿勢では到底叶いません。この一例でもご理解いただけるでしょう。「(地域・市民と)ともにつくるミュージアム」「つながるミュージアム」という視点が欠かせません。

 


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