【この章はだいぶ以前の師弟酔譚ではあるが、誰も記述することもなく、あるいは理解の淵にさえ届くことの無い内容を含んでいる。】
第二宵 二座
S 資料、集めるのが大変。
アメリカ、イギリス、ソ連、中共、台湾の資料が要る。
日本だけの資料じゃ駄目なんだ。
T アメリカの問題も出てきましたね。 戦後五十年でようやく色々なことが出てきた。この間、アレ「報道2001」で、篠田監督が出演した。最後にゾルゲを題材に映画を作りたいといっていたが、尾崎秀実(ホツミ)を中心にするといっていたが・・・・
誰がどうゆう風にしてゾルゲ機関に協力して、どのような気持で西園寺公一から協力を得て情報を集めたか・・・・
私はたとえ娯楽でも歴史のスポットを映像にした場合、曲解されることもあろうかと、監督に電話で
「どこにも出されていない資料で、お役に立てるものがあったら使ってください」
と伝えたら、
「資料があまりにも膨大だから、今は忘れようとしている」
そこで
「日本のゾルゲ機関だけを捉えただけでは、本当の姿は分かりませんよ」j
「では、尾崎はどこでゾルゲ機関と一番最初に接触を図ったのですか」
「それは解りませんが、ただ、事実、国際問題研究所という機関がありまして・・・」
「へぇ~」と。
要するに解っていない。中国国内でのゾルゲ関係機関の謀略の仕込が・・・
野坂参三、青山和夫らは中国のゾルゲ問題として関係づけないと尾崎も解からない。
ゾルゲ氏
S 中国がむしろ、ゾルゲ機関として一番重要だ。 大陸の日本軍を満州から北支、北支から南支、そして東南アジアに出して英米とぶつける。 国際政治の対立になるわけだ。 そのように引っ張り込んでいった。
≪アジアにおいて日中相戦わせて漁夫の利を得た国際的勢力は戦後の版図を書き換え、その頚木は今以て打ち込まれたままである≫
T 一般の識者、そのような見方は少ない。単に満蒙支那の権益と陸軍の横暴と、まだ謝罪をやっていますからね・・・
しかも、昭和十六年の御前会議の前の、六月の大本営決定の段階で北進から南進への変更が解っていたらしい。あれ、西園寺ですよ。いくらの横暴を避けるためといっても自滅の途への方策としては・・・・
S あれが主役ですよ。 お父さんは偉かったから、喋らない。
僕、尾崎・ゾルゲ事件はよく知らないけど、中国のほうが主役だよ
T その間の中国の問題については、先生が検証しているわけですよね。
尾崎氏
S 僕、北京の排日運動に参加したとき、劉少奇の指導とは知らなかったけど、向こうでは堂々と発表している。
翌年、西安事件でしょう。苗(ミョウ 苗剣秋)さんは僕に知らせた。
その翌年が盧溝橋事件。
中国共産党中央本部統一戦線工作部副組長が、僕に知らせた。
その人、いまアメリカにいる。
T 北京の無血開城をやった・・・
S 北京大学の全学連委員長だった。
T 尾崎秀実は満鉄の上海支店に・・・・・
S 尾崎から中西、中西から重慶へ情報がいった。
T W、Wって誰ですか。
S それが解らないんだよ。 中西から王精衛の秘書官で王キンゲン。 これ徹底したソ 連寄りの共産党員だ。
T それ・・・ ボロジンに・・・
S これ(王キンゲン)、日本語ペラペラだから、日本の要人の通訳やったけど、王精衛に対してどんな通訳やったかは分からん。
これが全部重慶に電報を打っている。
T 王大偵(ボン生、草冠に凡とも)は、事故というが殺られたのか・・・
(国際問題研究所責任者)
S あとで発覚したんではないかなぁ。南京の飛行機事故で。
詳しいことは知らないが、台湾で聞いた。
T 尾崎秀美のこと映画ですから、フィクションを交えた監督の考え方で描き出そうとしているんだけど、一片の明らかな部分しか触れられないと、彼が、単に情報を御前会議の決定より早く流したかどうかだけではなく、日本の南進への謀略工作にどう関わったかということが、監督の言う当時の時世と、彼の苦悩に近づくことだと思うのですが・・・
S その基本線(南進誘導)が分かって行動していたかは、難しいとこだね。
T 青山は延安で、日本の天皇の用心棒は頭山で、だから軍部をひっくり返すんだ と・・・
S 日本では青山だけ国際問題研究所に入っている。
≪偽札製造≫
T 尾崎、中西は手先みたいなものですか・・・・
S 羅堅白によれば゜、情報は三ルート。一つは中西ルート。
一つは重慶ルート(羅自身)。 もう一つは王精衛の秘書官、王キンゲンのルートだ。蒋介石には情報機関、立派なものがあるんだ。
T 藍衣社ともう一つ・・・
S 「要らない」というのに無理に国際問題研究所を作った。
その金、イギリスから出ている。 作ってみたら、藍衣社など問題にならない程、ものすごく正確な情報が蒋介石に入る。
T あくまで中共に南進誘導があって、国内事情によって政策変化があるわけですけど、だとしたら共産党の謀略機関を蒋介石の情報機関として丸呑みさせで構図を作り、日本のゾルゲ機関は日本の国策を早めに知るためにある、ただの情報組織の一端でしか ないということですね。
S そうかも知れない。
僕が聞いた話ではゾルゲは、はじめ郭末若を狙ったが動かないので、王ボン生を選んだと・・・ ≪郭は千葉県市川にいた≫
T 王は北京の宮元公館の宮元利直を選んだのですね。
大倉財閥の金を蒋介石の北伐資金として用立てている。
S 僕としては総理報告を辞めて、これを本当にやりたかったが、一人の力ではでない。 お金も無いし・・・・
T 思うに、日本のマスコミは関心も無い。
S 北から南へのソ連の意図解らないし、考えもしない。
日本の中国進出しか頭に無い。
西安事件の立て役者 苗氏
T 篠田監督は昔の小津安二郎監督のように、すごく実直で朴訥な方で優しい方ですよ・・・、 こうゆう方が国際化のなかで民族の将来を憂いて、映画を通じて日本人の正しい歴史観を見抜く場面を見せて欲しい。だけど、裏づけがないと非難轟々だから・・・
商業娯楽の限界かなぁ・・と。
S 監督さん、恐らく深いところ分からないんじゃないかなぁ・・・
T そうする必要が無いと考えているのか、今回はやらないのか解りませんが。
S 西園寺。あれね・・・北京と天津を門戸開放するとき(蒙古の独立を含めて)、頭山さんも西園寺も動いているよ。 梶園が言っていた。
T じゃ・・なぜ、西園寺は中共に情報を流すんでしょうかね。
S そうなんだ。今度来たら(梶園)詳しく聞こうと思っている。
T とにかく、中共を捉えないと実態がはっきりしない。ゾルゲを調べたことにはならないんですよ。
S 日本が世界の中で大きく流されていった。それがテーマになる
T ゾルゲ事件がラストワークと聞いたので、それでは中国問題云々と訊いたら、尾崎秀実がテーマだと変わった。 それなら中国問題は興味が無い。
S 尾崎は単に情報をソ連に内通していたスパイ。
T 今度、台湾の李登輝総統が、日本のアジア大会に出席したいと・・・
ところが、江沢民は、よくないと。日本は弱腰で、来ないでくれと。
まずいことに九月末から十月にかけて台湾では建国以来の大規模な軍事演習。 そのころ金門島の付近で中国もやるんです。
李総統は、いずれ独立を狙うんではないですか。
台湾立法院
S 日本、台湾を捨てて駄目だよ。 異民族から信頼されないよ。
T いわゆる日本人がこの戦争をもっと大きな全体像のなかで眺めて欲しい。
例えば、石原莞爾の「世界採集戦争論」とか、孫文の東西文明を論じた「王道と覇道」の問題とか、そうゆうアジア全体、世界全体といった多面的、根本的視点での日本、中国を捉えないと見えるものが観えてこない。
S 孫文が日本を諦めてソ連に目をつけたのは、叔父によれば、日本が追いやったと。
T 王精衛の傍にいたボロジンが引き込んだ側面も・・・・
S それもある。
二十一か条を突きつけたり、袁世凱や段祺瑞を援けて利権を貰うとか、
まるで日本人小さい感覚だよ。
【二十一か条は孫文、山田、陳其美によって署名され、秋山真之の起草によるものであり、小池張造、犬塚信太郎も作成関係者であるが、佐藤氏は叔父、山田純三郎から聞いていなかったのだろうか・・・・】
T 李総統には、なにか孫文を彷彿させるようなメッセージがある。
李さんの訪日不可なら台湾は不買運動をやるらしい。
S 日本は中共にばかり目がいって。あれ、田中と大平だ。
T アジアの歴史観が観られませんね。
共産党政府の体面は保っても、民衆は台湾も中国も日本も、アジア諸国も日本を利あって義亡き国として嘲笑していますよ。
豊かだ、便利だは望むべきことですが、味わいを反復したときはたして充足感はあるか・・・ 人間はもろいものですから。
S 蒋介石のこと、僕は好きでないけど「華日は手を握らなければならない」と、死ぬまで言っていた。 残念だなぁ・・・・
T でも、一つ将来に託す問題として、こうゆう幅広い歴史の見方を知るだけでもいいですよ。
・・・・・・・・
佐藤慎一郎氏
T アノね、正明さんが言っていましたよ。父のところにも色々な人が来て、道を説く人もいれば総理も満州浪人もいる。ところが裏に回って何をやっているか分からない。
S 安岡先生、王大偵の背景はきっと知らないよ
T 知っていた 王と兄弟分の宮元利直氏には安岡先生からの手紙が幾つもある。宮元は戦後、一番先に重慶に呼ばれている。戦犯回避に重要な役割があった。
S えーと、苗さん知った理由、教えたね・・・
渋谷の中華料理屋、そこが苗さんの家だった。
T 苗さん、一時、恵比寿にいましたね。
国際問題研究所の資料に出ていますよ。
S 渋谷じゃなくて、恵比寿だったかなぁ・・・・
T 恵比寿って書いてありますよ。≪住所と駅の問題だった≫
S 彼が日本の情報を一番多く取っていた。
T 苗さんも安岡先生とのお付き合いがあります。
苗さんの家で奥さんと写真を撮ったとき、偶然、写っていた。
S 安岡先生、政財界に顔が利くから、狙われているよ・・・・・
羅堅白(国際問題研究所第一処長 no2)は、中国の古典をやっていただろう。
T 京大出ているぐらいだから・・・
S 学問やっていることは事実だ。
T 幾つぐらい?
S 僕より年上かな。彼の奥さん救けたら、西荻の引き上げ寮にものすごい剣幕でやってきたことがある。
T 彼は、その時点でもう中共に寝返っていたわけですね。
S 既に離れていた。
T 一時、国際問題研究所のスタッフも状況を見ながら最後に寝返りましたね・・・
S 僕、まったく知らないのに向こうから知らせてくれた。
この人(神戸 石原氏)だって、日本共産党の秘密書類を北京に届けた人なんて知らなかった。
彼の子供が入管に逮捕されて二年、可哀想だから、僕、救けにいって釈放させた。
それで、この人、御礼に来て
「実は、僕は日本共産党の秘密書類を周恩来に届けにいった・・・日本革命のため、また派遣されてきた」と、告白した。僕のこと好きになって話をしてくれたんだ。
T この人、石原エイジさん日本人じゃないでしょう。
S 台湾人といっていた。 日共の秘密書類を中共に持っていってきり、帰国させてれず、天津で情報の徹底訓練を受けた。今度、日本革命をやるために戻って来たらし い。
昭和二十年頃かな、日本革命のために帰ってきた。
彼の持っていった極秘書類は余程、重要なもののはずだ。
T 極秘書類の内容は・・・
S ぜんぜん聴いてないんだ。アノ人日本への謀略詳しいよ。
T この本、どこかにあるんですか・・・
S 今度、これ出すって、紹介状書いてくれと。
T 僕、これに興味があるんです。
最後は此処(三民主義)でまとまる。「収斂」
日本はつまはじきにされる要因を作っている。日本人の関わりを考えると、やっぱり辛亥革命が出てくる。 だから、この人の観かた、合っている。
S 新しいの出すから端書を書いてくれと。
ところが、君のは、まだやっていないから・・・
T 先生。これね・・・こうゆう考え方、日本人の朝野の人は持っている。
僕、最初の「三民主義が中国を統一する」という文字を見て驚愕しました。先生、 これはお書きになったほうが・・
僕らのほうはいいですよ。 所詮、此処に辿り着くものですから・・・
S 僕もそう思う。
蒋介石を叩いても孫文は叩けない。
T ですから、李総統が三民主義を掲げていれば、中国は台湾を叩けない。最高のカードが三民主義ですよ。 内省外省の軋轢を超えてアジアを見据えれば、 日本もこれなら参加できる。 第三者が邪魔しなければ。
S 孫文が神戸で大アジア主義の演説をやったとき、神戸のオリエンタルホテルに一緒に泊まった。夜中、純三郎伯父が廊下に出たら孫文がウロウロしている。
「どうしました?」と聞いたら、
「頭山さんベットに始めて寝ているんだ。風邪でもひくといないから、僕、見回っている。山田さんも見回ってください」と。
これが孫文だよ。
天津へ行く前の晩、日本人に頼まれた揮毫をやった。
最後に「亜細亜復興会」と書いて、「これ、山田君にやる」と。
これが絶筆となってしまった。
天津に着いた日に張作霖と会って、その晩、倒れてしまった。
吉田茂総領事に頼んでコスガという医者が来たが、これが喋ってしまった。
T 僕が、興味があるのは、良政先生の頌徳碑撰文にある、「この志、東方に嗣ぐものあ らんことを」という言葉。アノ言葉は僕らへの啓示ですよ。
石原さんの言葉も台湾迎合ではなく匂いでわかる。
三民主義、孫文がこれからの中国に必要なんだと、民族の歴史と性癖を踏まえて理解 している。
S 米英から武器と金を貰って反抗の準備ができても、蒋介石は命令を出さない。 側近の何応欽が、なぜ出さないかと、いったら蒋介石は
「日中両国が提携しないと両方が駄目になる」と。
T それと、満州工作から失敗して帰ってくると、「失敗して帰ってきました」と、日本人(秋山真之、犬塚信太郎)は蒋介石を「なんて清々しい奴なんだ」と。
S 船上で゜「亜細亜復興会」と書いて純三郎さんにやった。
T そうゆう会を作れということですか。
S 日中提携して亜細亜の復興をやれと。 孫文の絶筆になったものだ。
T それ、国父記念館にありますよ。
S それ書いて翌日、倒れた。
T この写真に×印をしたのは先生でしょう。これ、正解ですよ。
あえて対立や生活水準の優劣比較は孫文の意思ではなく、三民主義の心ではない。
もう少し穏やかな心でないと・・・・国民党、共産党の問題ではなく亜細亜全体の問題ですよ。そうゆう意味で書いてある本なら、先生、端書をお書きになったらいい
ですよ。
S 神戸の中山記念館で出すんだって(孫文関係本)、僕、書くこと無いから孫文の人柄でも書こうと思っている。
T 国家間の立場もありますが多面的、将来的に亜細亜を観ればと・・・・・
S あれっ・・・何処へいったかなぁ・・・これ、差し上げる。
S それでいいんでないかなぁ・・・あっ、それから君から訊かれた詞の意味、紀さんに訊いたけど
「よく解らないので、詳しく調べた上でまた連絡する」という紀さんの手紙が来た。
T あれは、毛沢東の先生が書いたのですよね。
S 忘れちゃったなぁ・・・イ・コゥ・トン・ライ・ハオかな。
日本、東から来て気が弱い。 八卦判断本にあるらしいが、僕、みな呉れてしまった。 民の時代の八卦判断本だ。
T これ、毛沢東にやろうとした本ですか。
S 忘れちゃったなぁ・・・・
T 安岡(正篤)先生に訊いておけばよかったですか。
S 安岡さんは解らない。冗談が利かないから。
「大観園」の本、某出版社が無断で発表した。その部長が謝りに来て、お金もってきたの・・・・
「要らない」といったら、そのまま帰ったよ。
あれ、中国では通用しないハナシなの・・・・
「要らない」というのは、「足りない」ということなの・・・
それで中国では、今度はドカッと、持ってくるわけよ(笑い)
T 貰わないと悔いが残り、断ると失礼になる。
だから、貰っておきましょうと、そのこと戴さんに話したら、「そうなの」と云っていた。
S 賄賂のいらないということは、足りないということ。
中国社会を見ているとひどいものだ。 僕、全満州の民生長官(竹内氏 姉の夫)の秘書でしょう。 朝から晩まで賄賂ですよ。僕は断るものだから相手は困る
T あの李樹林の話、共産党の政府になった途端、向こうの政府要人になっていたんでしょう。
S 最初から密偵で入っていたんだろう。 国民党の副司令官でありながら、
共産党の長春解放の最高司令官だからね。
以下次号