「お気に入り」1~2巻作品です。
諸事情により絶版だったものを、完全版・全12巻として刊行。
原作を「脚本」として、以前は名前を連ねていなかった長崎尚志先生が加わっています。
『MASTER キートン』1~2巻 完全版
(浦沢直樹 先生 脚本:勝鹿北星 先生/長崎尚志 先生)
「コミック界の至宝、完全復刻版で発掘!!」 (オビ文より)
平賀=キートン・太一は、保険のオプ(調査員)。
そのため、保険金がおりる際の調査をおこない、事件に巻き込まれることしばしば。
しかし彼は飄々と危険をかいくぐり、問題を解決しては去ってゆく・・・
かと思えば、古の遺跡や発掘物をながめつつ、過去に想いをはせる謎の人物キートン。
冷戦終結前後の時代を舞台に、彼がかかわる事件や人々を描いた物語です。
保健のオプであるキートン。
その調査には危険もつきもので、命を狙われてしまうような事態も起こります。
しかしそうした状況でも冷静に、かつ的確に対処できる能力を持つ彼は、
じつは元軍人という経歴をもっており、サバイバルのエキスパートとして
さまざまな知識・スキルを駆使しながら事件を解決したり、トラブルを回避したりするのです。
元軍人でありながらも、基本的に銃などは使わないキートン。
彼は、料理で使う“おたま”を改造した武器で反撃するなど、
その場に応じた臨機応変の対応によって敵を撃退し、困難をのりこえます。
かといって、常に特定の“敵”が存在するわけでもなく、
時には砂漠を生き抜くサバイバルであったり、保険金詐欺や殺人事件の解決であったりと、
キートンが遭遇するアクシデントはバリエーションに富んだものであり、
それぞれにそれぞれの面白さがあって、読者を飽きさせないのです。
また、キートンのもう1つの顔に、考古学者としてのそれがあります。
オックスフォード大学卒の彼は、大学講師として働くこともあり・・・というかこちらが本業で、
しかしなかなか生計を立てるには苦しいということで、保険のオプをしているようです。
彼が情熱を持っているのは、この考古学。
こと考古学に関することとなるや、目を輝かせて喜ぶコドモのような面もあったりします。
そして、キートンの家族とのひととき。
娘の百合子、父の太平、それと犬の太助。
考古学に関するエピソードや、この家族と過ごす日常風景は、
事件や調査などとはちがって平和なひと時を描くことが多く、
このあたりも物語全体のよいメリハリになっている印象。
これがまた、しっとりできたり感慨深かったりする話が多いのだから、
作品としてのバランスもキレイにとれていて見事ですね。
以前に刊行されていた時に、全巻そろえた作品ではありますが、
新たに「完全版」としてよみがえるということで、再び集め始めてみました作品。
冷戦終結前後の時代を描くということで、そのあたりの政治的・歴史的な話題も豊富。
そういったことに興味のある方もちろんのこと、ミステリ好きな方にも楽しめる要素は多く、
基本1話完結(複数話も多い)なので読みやすい作品かと思います。
昔読んだ時期に比べれば、やはりオトナになってしまったからか、
単純に入り込めない部分も多かったのですが、それでもやはり重厚な物語。
私なんかは、この作品から「リアリズム」と「ロマンティシズム」の両立の重要性を
学べた気がします。 全12巻、楽しみです!