『GANTZ -ガンツ- 』37巻 (奥浩哉 先生)
ついに完結!
もう、ただただ感慨無量の最終巻。
声を大にして讃えたいほど、大好きな作品です。
以下、ネタばれあります。 (未読の方はご注意ください)
【玄野の決意】
最期の戦いへの誘い。
人類の勝利間近かと思われた矢先、
圧倒的な強さをほこる巨人の英雄イヴァが、玄野に最期の戦いを持ちかけます。
この世界に配信されている呼びかけにより、玄野の名前を世界中の人々が知りますが、
人類全体を人質にとるかのようなイヴァの提案を聞いたことで、人々はパニック状態に・・・
さっさと行けと、玄野を煽る群衆。
無責任に死地へ赴くことを強制する人々、その声はあまりに残酷。
タエさんなどは、玄野にすがりつて引き留めようとしますが・・・
このあたり、群衆の特徴といいますか、こーゆー風になりそう
といった雰囲気を、みごとに表現していますね。
ヒステリー状態の群衆、泣きわめくタエさんにはさまれた玄野は・・・
不思議なことに、落ち着いた表情を見せているのが面白い。
周囲の喧騒をよそに思い起こすのは、それまで戦ってきた強敵たち。
これまでの経験があってこそ、玄野が落ち着いていられるということなのでしょう。
中でも「千手」の存在が大きく描かれているのは、
それが玄野にとって、ひときわインパクトを感じた敵だったということなのかも。
そして、決戦へ・・・
タエに再会を誓い、パニックとなった人々の嘆きを背に、最後の戦いへ赴く玄野。
地球の命運などと関係なく、ただ大事な人のもとへ帰るため、
という決意が、彼の心の支えとなっているのは興味深いですね。
大義のために戦える人は、それはそれで立派なことではありますが、
「普通の人間」にとっては、自分の周りのことくらいしか気にかける余裕なんてないわけで、
そうしたことを、玄野という「普通の人間」が意識していたのは、大切なことだろうと感じます。
だからこそ、人類の命運をかけた戦いなどという巨大なプレッシャーに
押しつぶされることなく、最後の戦いへと挑むことができるのですから・・・
【最後の戦い】
玄野 vs イヴァ・グーンド。
ついに切って落とされた最終決戦の幕!
最後の戦いにふさわしい2人の攻防。
アメリカ・チームをすら一蹴してしまったイヴァの強さの前に、
玄野などアリも同然・・・ と思いきや、予想以上に善戦しているのはさすが!
これもまた、彼が死線をくぐり抜けてきた結果、培われた力なのでしょうね。
他人事のように戦いを眺める人々。
絶望的な状況ながらも、どこか余所の事のように語る観衆。
「瞬殺されないのが不思議な感じだなァ」だの、匿名掲示板では「だめだ、こりゃ」だの、
必死な当事者のことなど思慮にもかけぬ物言いが、どうにも歯がゆい感じですねえ。
それにしても、このヒゲのおじさん、とある漫画(評論)家さんにそっくりなんですけども、
何か含む所でもおありなのでしょうか(^^;
世界中で湧き起こるクロノ・コール!
玄野が善戦し始めるや、手のひらを返したように沸き立つ群衆。
まあ、人間こんなもんですよね。
それはともかく、玄野というただ1人の「普通の人間」が、
世界中の人々から期待を込めて名前を呼ばれている光景は、
なんとも奇妙で、しかし心躍らされるものでした。
もしかすると、このシーンを描くため、最後の戦いは設定されたのかもしれませんね。
そして終局へ・・・
2人の戦いを見守る加藤たち。
ここで加藤が、子供の頃のことを思い出しているのも面白かった。
あのシーンは序盤で描かれていましたが、これこそが加藤の原点。
「憧れの男」のイメージに重ねた生き方を、貫いてきた加藤。
彼の行動が、かつて腐っていた玄野の精神に火をつけ、ここでまた、
玄野の姿に「憧れ」を思い起こすという巡り合わせが、2人の関係を印象付けてくれます。
加藤の存在は、この作品にとって本当に重要なものだったと感じます。
そして、佳境。
絶望が降りかかる状況で、加藤が見つけた活路。
これには、千手編の大仏や、大阪編の「意識の外からの攻撃」を思い出しましたよ。
大仏攻略のときに玄野が見せた戦い方を、意識していたんじゃないかな、加藤は。
そこに、大阪での経験を活かした「意識の外からの攻撃」を重ねたのかも?
私は、そんな風に考えて、独りで最高に盛り上がってしまいました!
【決着そして・・・】
「俺達がやッたことッて・・・ 意味があることだッたのかな・・・」
戦いの後、語られたこの言葉をみた瞬間、
何だか良くわからないのだけど、こみ上げてくるものがありました。
これまでの戦い、その課程に意味はあったのか?
「人間はチリと同じ、ただの物質でしかない」
という真理を告げられた玄野たちが、意味を求める構図は、
それこそが人間であると感じさせるものでもありました・・・ 意味を求める存在。
本作品は、不条理な世界にたたきこまれた人間の
生き様と死に様が描かれてきた物語であり、そこに意味などあるかと問われれば、
すべてに意味があったとは、とうてい思えないわけです。
理不尽な戦いの末、理不尽に死んでゆく人々。
けれど、そこに意味を求めてしまうし、おそらく、意味を与えてしまう。
それこそが人間なのかな・・・ と。
1巻表紙。
私が本作に感じたのは、不条理な世界へ放り込まれた人間の自立というテーマでした。
1巻を読み直してみると、玄野の性格がまるで違っていることがよくわかります。
その変化は、不条理にもまれながら、彼がその中でも正気を失わずに、
自立できたためであるだろうと、私は考えています。
だからこその「神」の不在であったり、
自立できなかった少年=西との対比などが、重要だったのかな、と。
また、加藤やタエさんの存在も、大きかったと思われます。
もっともっと、じっくり語りたいところでもありますが、長くなるので・・・
それにしても、後日談のような話はないのでしょうかね~。
生き残った人々や、死んでしまった人々、それぞれについても気になる事は多いわけで、
そのあたりのことを語ってくれる物語が、私は読んでみたいですね。
あと余談ですけど、こんな話も(^^;
ラストシーンは、私は存じ上げないのですが『ザンボット3』というアニメのリスペクトだとか。
ここでは感謝の言葉が描かれていますけど、私はこの言葉を、この作品世界そのものと、
登場人物たちと、そして何より、奥浩哉先生に贈りたいと思います。
「ありがとう」 本当に素晴らしい作品でありました。
連載13年という長きにわたり、楽しませていただきました! ありがとうございました!!!