ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

楽日

2008年04月07日 | 映画レビュー
 巻頭40分間台詞なし! そのあとも結局最後までほとんど台詞がなく、こうなるともうどんな観客を狙って作っているのか一目瞭然というコアな映画。

 今夜で閉館する古い映画館を舞台に、劇中劇というか映画内映画として古い台湾時代劇を上映し、そこに映画館の寂しい姿を重ねる。なにしろ台詞がないのだから、舞台となっているのが今日で閉館する映画館であるということすら最後になるまでわからないし、上映されている時代劇が「血闘竜門の宿」であることも後で公式サイトを調べて知った。でもその映画のことは知らないから、なんの思い入れも感じない。ただ、昔懐かしい映画館の雰囲気がとてもよく出ていると感心しながら見ていたのだ。それもそのはず、ここに登場する「福和大戯院」は実際に閉館した映画館であり、監督のツァイ・ミンリャンが閉館の噂を聞いて半年間借り上げて撮影したのだという。


 いかにも場末のさびれた映画館という雰囲気は廊下の壁のすすけ方や男子便所の便器の汚れや劇場入り口のガタのきたシャッターなど、ここかしこに溢れている。この1年あまりの間にわたしが中学高校生のころなじみだったミナミの映画館がつぎつぎ閉館していったことを寂しく眺めていたが、その気持ちを思い起こさせる哀感に満ち満ちた映画だ。

 多くの場面で固定カメラの長回しを多用し、それでなくても寂しげな劇場内をいっそう侘しく映し出す。外は土砂降りの雨、まばらな観客の中には若者がいてその側に男がぴたっと座りに来るとか、怪しげな女性客が座っていたりとか、一昔前の痴漢(男性専科痴漢も)頻出の劇場の雰囲気。そんな彼らも帰ってしまって最後に場内に座っているのは、上映される時代劇をじっと見つめる老人と中高年の男性客二人。あ、そうそう、老人の孫とおぼしき幼い子どもも。その一人の男は目に涙を浮かべているではないか。

 映画館の長い廊下を映す奥行きのある場面では、画面の一番奥に小さく開いた窓に土砂降りの雨が見え、人気のない廊下を一匹の黒猫が音もなく通り過ぎ、モギリの足の不自由な若い女はじっと佇み…という、ほとんど狙いすぎというくらいに狙った絵だ。上映されていた映画が終了し、場内が明るくなるとカメラは空っぽになった座席を延々と映す。いったい何を狙ったのかよくわからないけれど(いや、今日で閉館する映画館の寂しさを最大限に描写したんだろうけど)、異様な長回しには面食らってしまった。スクリーン側から座席を見るというカメラアングルは新鮮さを狙ったのかもしれないけれど、そんなことはちっとも感じなかった。むしろ、何か特別なものが見えるのじゃないかと目をこらして疲れた(^^;)。

 というわけで、とにかく古い映画ファン、それもひなびた映画館に通い詰めたような映画ファンにしか受けないような作品です。なかなか面白かった。(レンタルDVD)

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不散
台湾、2003年、上映時間 82分
監督: ツァイ・ミンリャン、製作: リァン・ホンチー、脚本: ツァイ・ミンリャン、撮影: リャオ・ペンロン
出演: チェン・シャンチー、リー・カンション、三田村恭伸、ミャオ・ティエン

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