【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「雪に願うこと」:大井競馬場前バス停付近の会話

2007-01-01 | ★品93系統(大井競馬場前~目黒駅)

新年早々、競馬場?
悪いか?
新年早々賭け事って、どうなのよ。
おいおい、競馬はギャンブルじゃないぜ、ロマンだぜ、ロマン。
ロマン?
そう。ゴールめざしてわき目もふらず馬場を走っていくけなげな姿は人の人生そのものじゃないか。
それなら、ばんえい競馬のほうがもっと人生を感じさせるわよ。
重いそりを引いて足を踏みしめて進んでいく北海道の競馬か?
そうよ。軽々と走っていくんじゃなくて、重い荷物をかついでよろよろと歩いていくのが人生なのよ。
なるほど新年早々、深遠だな。しかし、競馬なんて興味のないお前がよく、ばんえい競馬なんて知ってたな。
根岸吉太郎監督の「雪に願うこと」を観たからね。
ばんえい競馬の厩舎で働く人々の物語か。
一旗あげようと東京に行った弟が事業に失敗して北海道に帰ってくるところから映画は始まるのよね。北海道では兄が調教師をしていて、弟も兄のいる厩舎で働くことになる。
兄と弟の話なんて、なんかちょっと西川美和監督の「ゆれる」を思い出す展開だな。
兄は佐藤浩市で、弟は伊勢谷友介。故郷に残された兄のほうが重いものを背負っていて、故郷を離れた弟のほうにはどこか自由な気分が漂っているっていう意味では、「ゆれる」と似ているかもね。
で、その間に吹石一恵の女騎手がからんでくる。
ていっても、「ゆれる」と違って三角関係になるわけじゃないのよね。
吹石一恵はあくまで騎手として出てくるだけ。三人の間でサスペンスが生まれるわけじゃない。
とくにドラマチックな展開とかどんでん返しとかがある映画じゃないのよね。
そのぶん、人の気持ちとか心の揺れとかを丁寧にすくいあげてて久しぶりに大人の映画を観た気がしたな。
吹石一恵の女騎手があんなに様になっているとは思わなかったけど、結局そういう大人の撮り方をしているから、鑑賞に耐える姿に映っているのよね。
コミックが原作の映画もいいけど、こういうしっとりとした映画もいいよな。
波乱万丈なストーリーを追いかけるんじゃなくて、生活の匂いというか、人々の機微を描く、日本映画らしい映画よね。
なんといっても早朝の馬の訓練シーンがすばらしい。
ハアハアと白い息を吐いて馬が進むシーンね。理屈抜きに観ているだけでジンとくるもんね。
そして、レースのシーン。廃馬寸前の馬が重いそりをうんとこしょ、うんとこしょ、引いて坂を上っていく。まさに、人生、重い荷を担いで坂を上るがごとしだな。
実際のばんえい競馬も経営が苦しいらしいわよ。
それも含めて競馬っていろんなことを感じさせてくれるんだよ。正月から競馬場に来る俺の気持ちがわかるだろ。
でも、さすがに元日からレースはないけどね。
ところが、ばんえい競馬は元日からやってるんだなあ。
うそ!


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ふたりが乗ったのは、都バス<品93系統>
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