Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

クロライド投与とAKI

2012年10月22日 | 腎臓
たった1週休んだだけなのに。
メジャー雑誌に文献が出まくり。
仕方ないので、片っ端からご紹介。

Wandt H, Schaefer-Eckart K, Wendelin K, et al.; Study Alliance Leukemia.
Therapeutic platelet transfusion versus routine prophylactic transfusion in patients with haematological malignancies: an open-label, multicentre, randomised study.
Lancet. 2012 Oct 13;380(9850):1309-16. PMID: 22877506.

AMLのケモ中、もしくは自己幹細胞移植患者の血小板輸血を、血小板数が1万以下になったらルーチンでするか、出血症状が出たときだけ輸血するか、で無作為割り付け(N=400)。症状が出たときだけ輸血すると、総輸血量が三分の二に減少。自己幹細胞移植では出血に差はなかったが、AMLでは脳出血が増えた。
血小板輸血の適応についてはNEJMも含めいくつか研究があるので、一度まとめますかね。ジャーナルクラブででも。

Klein M, Gogenur I, Rosenberg J.
Postoperative use of non-steroidal anti-inflammatory drugs in patients with anastomotic leakage requiring reoperation after colorectal resection: cohort study based on prospective data.
BMJ. 2012 Sep 26;345:e6166. PMID: 23015299

大腸癌で、大腸もしくは直腸を切ってつないだ予定手術患者2766名中、術後1週間以内にNSAIDが投与されたのは32%。投与されていない患者に比べ、投与群で有意に縫合不全が起こった(8.2% vs. 12.8%, p<0.001)。多変量解析では、ヂクロフェナク(ボルタレンとか)投与群でのみ有意に縫合不全が増え(オッズ比7.2)、イブプロフェン(ブルフェンとか)では有意ではなかった(オッズ比1.5)。不思議なことに、有意ではないものの、死亡率はヂクロフェナク群1.8%、イブプロフェン群4.1%、コントロール3.2%。
ふーん。あの、日本で麻酔科医がよく使う、ミルキーな静注薬はどうなんだろうね。

続いてJAMAのonline first2連発。
Dieter Mesotten, Marijke Gielen, Caroline Sterken, et al.
Neurocognitive Development of Children 4 Years After Critical Illness and Treatment With Tight Glucose Control. A Randomized Controlled Trial
JAMA. 2012 Published online October 17, 2012
IITで有名なLeuvenで行われた、小児対象のIIT研究(Lancet 2009)で、morbidityは減ったけど低血糖は増えたという結果になり、子供には低血糖は脳の発育に悪いんじゃないか、という疑問が出たので、長期フォローしてみた。そしたら、IQに差はなかった。
LeuvenからのIIT研究が最初にNEJMに出てから10年。まだ来ますか。すごいエネルギーだ。

Sangeeta Mehta, Lisa Burry, Deborah Cook, et al.; for the SLEAP Investigators and the Canadian Critical Care Trials Group.
Daily Sedation Interruption in Mechanically Ventilated Critically Ill Patients Cared for With a Sedation Protocol: A Randomized Controlled Trial
JAMA. 2012 October 17, 2012
カナダとアメリカの16のICUで行われた、人工呼吸中の患者430例を対象としたRCT。鎮静剤をプロトコールに基づいて投与するのと、それに加えて一日一回投与を中止するのとの比較。Primary outcomeは人工呼吸期間。結果は、ミダゾラムとフェンタニルの投与量が投与中止群の方が増えて、人工呼吸期間は両方とも7日間で差は無し。ICU滞在日数も病院在院日数も同じ。毎日鎮静剤を中止すると、ナースは忙しくなる。
今日の紹介文献の中では一番の話題作か。過去の研究との比較も含め、これも<a href="http://www.jseptic.com/journal/">ジャーナルクラブでまとめる予定。

Myburgh JA, Finfer S, Bellomo R, et al.; the CHEST Investigators and the Australian and New Zealand Intensive Care Society Clinical Trials Group.
Hydroxyethyl Starch or Saline for Fluid Resuscitation in Intensive Care.
N Engl J Med. 2012 Oct 17.

補液をするときに、生食か、HES 130/0.4か、でRCT。症例数は約7000例。死亡率に差は無し。でも、HES群の方が、クレアチニンが高く、RRT必要頻度も高かった。
ANZICS-CTGによる、SAFE studyに続く補液の研究。SAFEの時は、ICUで7000例!と驚いたけど、もう慣れてしまった。これもジャーナルクラブで。

そして、今日のメインもJAMAから。

Yunos NM, Bellomo R, Hegarty C, et al.
Association between a chloride-liberal vs chloride-restrictive intravenous fluid administration strategy and kidney injury in critically ill adults.
JAMA. 2012 Oct 17;308(15):1566-72. PMID: 23073953.


オーストラリアの大学病院のICU(と救急外来)で、ある時期から、クロライドの多い補液(生食、ゼラチン、4%アルブミン)を原則使用禁止にして、代わりに、リンゲルや20%アルブミンのみ使用可とした。この変化がAKIの発生にどんな影響があったかについて検討。その結果、
・前期/後期とも、観察期間は6ヶ月、症例数は760/773名。
・クロライドの総投与量が、694mmol/人から496mmol/人に減少。
・ICU入室前と比べ、ICU在室中のクレアチニンの上昇の程度が減った。
・RIFLE criteriaでInjury/Failureの頻度(14% vs. 8%)、RRTを必要とした頻度が減少(10% vs. 6%)。
・死亡率、在室期間などに差は無し。

さて。
クロライドの投与およびそれによる代謝性アシドーシスが腎傷害を起こしうるというのは、動物実験やいくつかの小さな臨床研究で示されていた。この研究は、その仮説に基づいて実際にクロライドの投与を減らしてみたら、AKIが減ったよ、ということを初めて示した研究。

ふーん。面白い。
どうも、アシドーシスが悪さをするのではなくて、クロライドの投与そのものが、糸球体輸入細動脈を収縮させたりしてGFRを下げるらしい。

でも、何よりもビックリしたのは、一施設のbefore-after研究で、各群700例しかいないに、JAMAに載ったこと。
で、この研究、著者の二人目を見ると気がつく人は気がつくのだけど、ANZICS-CTGの中心人物、かつ僕の師匠であるリナルド・ベローモのところで行われた。なので、直接、この疑問をぶつけてみた。以下、メールの和訳(とっても意訳、敬語略)。

う:「驚いた。何で1施設のbefore-afterでJAMAに載るの?リナルドのネームバリューのせい?」
リ:「そうじゃなくて、補液はホットな話題で、結果がポジティブかつプロボカティブで、そういう研究が雑誌は好きだからでしょ。」
う:「それだけじゃなくて、アメリカ人は生食が好きなのと、研究が英語圏で行われたのと、やっぱり有名なICU研究家がやったからでもあるんじゃないの?とにかく、面白い研究だ。今度は大きなRCTをやるつもり?」
リ:「やろうとは思うけど、準備が大変だ。2、3年はかかるかも。昨日、ANZICS-CTGで、周術期の補液についての2600例のRCTの予算と、デキサメテドミジンについての4000例のRCTの予算をゲットしたばかり。もうすぐ5000例のTRANSFUSE studyも始まるし、3800例のADRENAL study(詳細不明)も来年スタートだし。さらに何かをやる時間を見つけるのは難しいね。」
う:「うわー。。。日本の集中治療はオーストラリアよりも20年遅れているから、10年以内にそんな大きなRCTが一つでも日本でやれたら、すごいと思うよ。それまでに集中治療関連の疑問を少しは残しておいてね。」
リ:「Don’t’ worry…there is soooooo much to do.」(原文のまま)

ま、それは分かっているんだけれども。
でもそのためには、集中治療をもっと普及させないといけないし、多施設データベースも必要だし、何よりも研究に対して意欲の有る人を集めないと。

10年。どうかなー?
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