Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

補液はリンゲルか生食か

2016年09月17日 | 循環
そういえば、この話題はつい最近の文献でも何度か見たな。
ということで普通に最近の文献紹介(ちょっと久しぶりだ、このブログの主旨のはずなのに)。

Young P.
Saline Is the Solution for Crystalloid Resuscitation.
Crit Care Med. 2016 Aug;44(8):1538-40. PMID: 27153047.

・確かに生食はアシドーシスを起こすし、他にもAKIとかいろいろ言われている。
・でももっとハードなアウトカムで有害だとする根拠は乏しい。
SPLIT studyでも、治療に関連したと考えられた有害事象は一件のみ、リンゲルの方だ。
ANZICS-CTGのPLUS studyの結果が出るまでは、生食は150年の臨床経験があるし、晶質液の第一選択だろ。

Semler MW, Rice TW.
Saline Is Not the First Choice for Crystalloid Resuscitation Fluids.
Crit Care Med. 2016 Aug;44(8):1541-4. PMID: 27428117.

・アシドーシスは起こすし、腎臓には悪いし、死亡率を上げる可能性もあるぞ。
・頭部外傷に使ってもICPは上がらないし、多くのRCTで高カリウムは起こらないことが示されているし、リンゲルは安全だ。
・コストは生食とほぼ同じ。
・何百万もの晶質液補液が世界中で行われている。もしもリンゲルの有効性が生食に比べてごくわずかだとしても、その差は数千の命につながるかもしれない。
・普通に使えるし、値段も同じだし、安全だし、副作用も少ないし、生食が第一選択になるわけないだろ。

Vincent JL, De Backer D.
Saline versus balanced solutions: are clinical trials comparing two crystalloid solutions really needed?
Crit Care. 2016 Aug11;20(1):250. PMID: 27511049.

・世の中には生食とリンゲルをRCTで比較するべきだと言う人がいる。
・スタディデザインを考えてみよう。生食投与群で高Clが発生したらリンゲルにする、というデザインだと、予後に差は出ないだろう。高Clになってもほっておくというデザインだと、予後が悪くなる可能性は高いし、そんな研究は批判されるだろう。
・そんな研究をするよりも、教育をすればいいんじゃないか?NaやKを気にするのと同じように医者はClを気にするべきだ。
・どんな飲み物だって、飲みすぎたら有害だ。アルコールだって、甘いジュースだって。でもだからといってそういう飲み物は飲むべきじゃない、ということにはならないだろう。
・電解質測定ができない環境でもない限り、二つの晶質液を比較するなんてナンセンスだ。

同じ情報で、こんなに結論が違う。面白い。
誰もおかしなことは言っていない。
現状で利用可能な情報を用いて、自分で判断して、それに基づいて行動する。それでよい。
ただし、その前提は、利用可能な情報を知っていること。知識をちゃんと持っていること。
高カリだからリンゲルは使わない、という判断はこれには当てはまらないでしょ。
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