「考証要集」 大森洋平 文藝春秋 2013.12.10
秘伝!NHK時代考証資料
の、副題通り。
ヘエェが満載!
いくつか、控えておく。
生き様 「死に様」という古来ある言葉から生まれた戦後の造語。
戦前劇や時代劇では一切使ってはいけない。言葉の乱れの例として嫌う人は非常に多く、
藤沢周平は「お金を積まれても使いたくない言葉」にこれち挙げたそうだ。
医食同源 1970年代に、折からの健康食品ブームをあおるため日本で作られた言葉。
遠島・島帰り 町奉行が罪人に「遠島(島流し)○年申し渡す」というのは間違い。
遠島は終身刑で、将軍家の慶事等で恩赦がない限り帰ってくることはできない。
しかも恩赦の対象は、武士なら在島30年以上、それ以外でも5年以上だった。
遠島は懲役刑ではないので、現地での強制労働等はない。
「おれは島帰りだ」と二の腕の縞の入れ墨を見せて凄む悪人がでてくるが、これも間違い。
流人を識別するための入れ墨はなかった。流人と島の住人とは見た目も言葉も違うから、
そもそも必要がない。縞の入れ墨は「前科○犯」を示すもので流刑とは関係ない。
ただし、すでに入れ墨をされていた前科者が遠島になることはあった。
お 女の名前に「お」をつけるのは一種の愛称。したがって台詞で「ゆき」という女性が
自分のことを「おゆきが」と言うのは間違いであり、ぶりっ子で気持ち悪い。
おかみさんとあねさん 「親分」の妻は「おかみさん」であり、「兄貴分」の妻が「あねさん」
子分が親分の正妻を「姐さん」と呼ぶのは正しくない。
現在は「姐さん」が主流のようだ。
奥様 江戸時代には「旗本以上の大身の武士(町方与力も含む)の妻女」の意。
御家人や町方同心、下級武士の妻女なら「御新造様」、町家なら「おかみさん」。
なお「御新造様」は若妻の意味ではなく、年配でもその身分なら「御新造様」
「奥様・奥さん」が乱用によって普遍化するのは明治以後。
江戸時代でも、関西ではこの適用区分は緩やか。
おつかれさま これは日本の一般的伝統的なねぎらいの言葉ではない。
時代劇なら「ご苦労様でございます」、旧日本陸軍なら「ご苦労様であります!」等が適切。
戦後でももっぱら藝界や水商売の世界で用いられていたらしい。
お父さん・お母さん 江戸時代に江戸京都大坂の中流以上の商家で使われたが、
武家には「品がない」と見られていた。明治37年の国定教科書で全国的になると、
士族からは相当の反発があったという。
花街 漢語だから「かがい」と音読みするのが正しく、「はなまち」は誤り。
家族 漢語として無いわけではないが、「ファミリー」の意味で定着するのは
明治以降、民法の制定による。
乾杯 エチケットとしては明治になって普及した。安土桃山時代の人も、南蛮人を見て真似くらいは
したかもしれないが、蘭学かぶれの江戸人以外ドラマチックではおおっぴらにさせてはいけない
御意 「あなた様のお考えの通りです」の意味であって、「了解しました、承知しました」の
意味ではない。「了解」の意味にしたいなら「御意のままに」
空気 幕末明治以降の科学用語。それ以前にはそもそも air という概念自体が日本にはなかった。
こんにちは 江戸時代中期以降の市井人の挨拶で「こんにちはお日柄もよろしく~」の短縮形。
させて頂く 司馬遼太郎によると、この丁寧語は上方から出たもので、浄土真宗の教義
「阿弥陀如来という絶対他力によって生かして頂いている」に由来する。浄土真宗の門徒が多かった
近江商人によって次第に全国に広まったらしい。とくに昭和になってから東京に浸透したようだ、とも。
座布団 幕末近くに京坂以西の商家、料亭等で使われるようになったが、江戸では殆ど用いられなかった。
また、プライベートなものなので、関西でも人前で用いるものではなかった。
全国に普及するのは明治以降。
城攻め 最近の戦国時代劇でしばしば、「城を攻める側が城壁に向かって進んでくると、
突然城門が開いて籠城側が飛び出し、城壁の前で壮絶な戦闘が始まる」といのがある。
しかし城は籠っていてこそ有利なのだから、わざわざ不利になるようなこんな戦い方はありえない。
もし守備側が大勢で城から突出するとしたら、
①味方救援部隊の到着に呼応して、敵を挟み撃ちにする
②味方を収容するための掩護行動
③その城自体が無価値になったので放棄脱出し、味方部隊に合流するか玉砕する
の三点しかない。
洗礼 キリスト教が解禁された後、明治時代の新訳語で、切支丹時代にはない。
キリシタンたちは「ばうちずも」と原語のまま使ってた
大丈夫 本来「頑丈で立派な大の男」の意味で、「それくらいに、何があっても安心」の意味に転じた。
タイムスリップ 「○○時代にタイムスリップしてみましょう」は間違い。
正しくは「タイムトリップ」「タイムトラベル」 タイムスリップは「間違えて他の時代に飛ばされてしまう」事故のこと
立ち上げる パソコン用語。90年代前半から次第に使われ始め、95年の「ウィンドウズ95」発売によって
一気に広まった言葉で、それ以前には一切ない。
椿の花 俗に「椿の花はポトリと落ちて、打ち首を連想させ不吉だから、たしなみのある武士の家には
植えられなかった」と言うが、これは明治以降の東京で広まった話。薩長出身の新政府の要員の屋敷に
椿が多いのを、江戸っ子が小馬鹿にしたのが始まりという。
どまんなか
秘伝!NHK時代考証資料
の、副題通り。
ヘエェが満載!
いくつか、控えておく。
生き様 「死に様」という古来ある言葉から生まれた戦後の造語。
戦前劇や時代劇では一切使ってはいけない。言葉の乱れの例として嫌う人は非常に多く、
藤沢周平は「お金を積まれても使いたくない言葉」にこれち挙げたそうだ。
医食同源 1970年代に、折からの健康食品ブームをあおるため日本で作られた言葉。
遠島・島帰り 町奉行が罪人に「遠島(島流し)○年申し渡す」というのは間違い。
遠島は終身刑で、将軍家の慶事等で恩赦がない限り帰ってくることはできない。
しかも恩赦の対象は、武士なら在島30年以上、それ以外でも5年以上だった。
遠島は懲役刑ではないので、現地での強制労働等はない。
「おれは島帰りだ」と二の腕の縞の入れ墨を見せて凄む悪人がでてくるが、これも間違い。
流人を識別するための入れ墨はなかった。流人と島の住人とは見た目も言葉も違うから、
そもそも必要がない。縞の入れ墨は「前科○犯」を示すもので流刑とは関係ない。
ただし、すでに入れ墨をされていた前科者が遠島になることはあった。
お 女の名前に「お」をつけるのは一種の愛称。したがって台詞で「ゆき」という女性が
自分のことを「おゆきが」と言うのは間違いであり、ぶりっ子で気持ち悪い。
おかみさんとあねさん 「親分」の妻は「おかみさん」であり、「兄貴分」の妻が「あねさん」
子分が親分の正妻を「姐さん」と呼ぶのは正しくない。
現在は「姐さん」が主流のようだ。
奥様 江戸時代には「旗本以上の大身の武士(町方与力も含む)の妻女」の意。
御家人や町方同心、下級武士の妻女なら「御新造様」、町家なら「おかみさん」。
なお「御新造様」は若妻の意味ではなく、年配でもその身分なら「御新造様」
「奥様・奥さん」が乱用によって普遍化するのは明治以後。
江戸時代でも、関西ではこの適用区分は緩やか。
おつかれさま これは日本の一般的伝統的なねぎらいの言葉ではない。
時代劇なら「ご苦労様でございます」、旧日本陸軍なら「ご苦労様であります!」等が適切。
戦後でももっぱら藝界や水商売の世界で用いられていたらしい。
お父さん・お母さん 江戸時代に江戸京都大坂の中流以上の商家で使われたが、
武家には「品がない」と見られていた。明治37年の国定教科書で全国的になると、
士族からは相当の反発があったという。
花街 漢語だから「かがい」と音読みするのが正しく、「はなまち」は誤り。
家族 漢語として無いわけではないが、「ファミリー」の意味で定着するのは
明治以降、民法の制定による。
乾杯 エチケットとしては明治になって普及した。安土桃山時代の人も、南蛮人を見て真似くらいは
したかもしれないが、蘭学かぶれの江戸人以外ドラマチックではおおっぴらにさせてはいけない
御意 「あなた様のお考えの通りです」の意味であって、「了解しました、承知しました」の
意味ではない。「了解」の意味にしたいなら「御意のままに」
空気 幕末明治以降の科学用語。それ以前にはそもそも air という概念自体が日本にはなかった。
こんにちは 江戸時代中期以降の市井人の挨拶で「こんにちはお日柄もよろしく~」の短縮形。
させて頂く 司馬遼太郎によると、この丁寧語は上方から出たもので、浄土真宗の教義
「阿弥陀如来という絶対他力によって生かして頂いている」に由来する。浄土真宗の門徒が多かった
近江商人によって次第に全国に広まったらしい。とくに昭和になってから東京に浸透したようだ、とも。
座布団 幕末近くに京坂以西の商家、料亭等で使われるようになったが、江戸では殆ど用いられなかった。
また、プライベートなものなので、関西でも人前で用いるものではなかった。
全国に普及するのは明治以降。
城攻め 最近の戦国時代劇でしばしば、「城を攻める側が城壁に向かって進んでくると、
突然城門が開いて籠城側が飛び出し、城壁の前で壮絶な戦闘が始まる」といのがある。
しかし城は籠っていてこそ有利なのだから、わざわざ不利になるようなこんな戦い方はありえない。
もし守備側が大勢で城から突出するとしたら、
①味方救援部隊の到着に呼応して、敵を挟み撃ちにする
②味方を収容するための掩護行動
③その城自体が無価値になったので放棄脱出し、味方部隊に合流するか玉砕する
の三点しかない。
洗礼 キリスト教が解禁された後、明治時代の新訳語で、切支丹時代にはない。
キリシタンたちは「ばうちずも」と原語のまま使ってた
大丈夫 本来「頑丈で立派な大の男」の意味で、「それくらいに、何があっても安心」の意味に転じた。
タイムスリップ 「○○時代にタイムスリップしてみましょう」は間違い。
正しくは「タイムトリップ」「タイムトラベル」 タイムスリップは「間違えて他の時代に飛ばされてしまう」事故のこと
立ち上げる パソコン用語。90年代前半から次第に使われ始め、95年の「ウィンドウズ95」発売によって
一気に広まった言葉で、それ以前には一切ない。
椿の花 俗に「椿の花はポトリと落ちて、打ち首を連想させ不吉だから、たしなみのある武士の家には
植えられなかった」と言うが、これは明治以降の東京で広まった話。薩長出身の新政府の要員の屋敷に
椿が多いのを、江戸っ子が小馬鹿にしたのが始まりという。
どまんなか