ま、いいか

日々の徒然を思いつくままに。

「星落ちて、なお」

2022-01-30 22:30:42 | 

 

「星落ちて、なお」 澤田瞳子 文藝春秋 2021.5.15

 

直木賞受賞作。

河鍋とよの一代記。

この画家一家を知らなかった。

 

明治22年春、不世出の絵師、画鬼・河鍋暁斎(きょうさい)が死んだ。

残された娘のとよ(暁翠)に対し、腹違いの兄・周三郎は事あるごとに難癖をつけてくる。早くから養子に出されたことを逆恨みしているのかもしれない。

暁斎の死によって、これまで河鍋家の中で辛うじて保たれていた均衡が崩れた。

兄が河鍋の家を継ぐ気がないのは明白であった。

弟の記六は根なし草のような生活にどっぷりつかって頼りなく、妹のきくは秒じゃで長くは生きられそうにない。

河鍋一門の行く末はとよの肩にかかっていたーー

 

日本画は、狩野派は古いのか…

絵師としての葛藤も続く。

 

P133

なにせ江戸の昔に比べると、明治の世ではとにかく男性が威張り散らし、女性は良妻賢母たれと求められている。そしてそんな世相を反映してか、近年、もてはやされる美人画はいずれもたおやかで、大きな目に色白の頬、夢見るが如き表情を捉えた作が多かった。

(略)どうも最近の美人画はそういった精神性を離れ、ただ女性の美しさや優しさを描くことに主眼が置かれているようだ。

 

P175

夫は優しい。さりながら(略)優しいとはそれだけとよをちゃんと見ていない事実の裏返しだ。

 

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「噂を売る男」

2022-01-25 15:38:00 | 

 

「噂を売る男」 梶よう子 PHP研究所 2021.8.10

 

神田旅籠町の一角で、素麺箱に古本を並べ、商売をする男がいた。

その名は藤岡屋由蔵ーー古本販売を隠れ蓑に売っていたのは、裏が取れた噂や風聞の類。

買いにくるのは、各藩の留守居役や奉行所の役人であった。

そんな由蔵のもとに、ある日、幕府天文方の役人が逃げ込んで来るが、シーボルト事件に絡むその騒動で、由蔵の手下が命を落とす。

手下の理不尽な死を許すことができない由蔵は、真実を暴くため、動き始めるのだが……

 

江戸に、世の理不尽と戦う「情報屋」がいた!

そんな人を見出だして作品を作る作家って凄いと思う、いつもながら。

元ネタも読んでみよう。

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「JR上野駅公園口」

2022-01-23 15:06:58 | 

 

「JR上野駅公園口」 柳美里 河出書房新社 2017.2.20

 

単行本初出は2014年3月。

全米図書賞「翻訳文学部門/モーガン・ジャイルズ訳」受賞。

2020年「TIMEが選ぶ今年の100冊」

 

1933年、私は「天皇」と同じ日に生まれたーー

東京オリンピックの前年、男は出稼ぎのたPに上野駅に降り立った。

そして男は彷徨い続ける、生者と死者が共存するこの国を。

 

高度成長期の中、その象徴ともいえる「上野」を舞台に、福島県相馬郡(現南相馬市)出身の一人の男の生涯を通じて描かれる死者への祈り、そして日本の光と闇……

 

上野【恩賜】公園はもともと皇室のご料地で、明治から大正にかけては国家的イベントがしばしば行われ、天皇が行幸した。

ところが1923(大正12)年の関東大震災時は、最大50万人の罹災民を収容した。

宮内省から東京市に下賜され、恩賜公園となったのは、その翌年。

現在でも上野公園の博物館や美術館、日本学士院などに、天皇や皇族が訪れることが多く、そのたびに「山狩り」と呼ばれる特別清掃、すなわちホームレスの排除が行われてきた。

 

本書の最後には、3.11の津波に呑み込まれる故郷が描かれる。

常磐線は不通となり、男は帰るべき故郷を失う。

震災直後から被災した各県を回った天皇と皇后も、放射線量の高い主人公の故郷を訪れることはなかったーー

 

フクシマをはじめ、忘れてはならない様々を改めて考えさせられる。

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