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「月と六ペンス」のトリビア(3)女子名 Blanche 

2023-10-08 21:30:55 | トリビア
 「月と六ペンス」に Blanche という名の女性が登場する。
 岩波文庫版(行方昭夫訳、2005年)では「ブランチ」と表記されている。原文で読む場合は、どう発音しようと読者の勝手だが、日本語訳ではカタカナで表記しなければならない。
 Blanche はローマで住み込みの家庭教師をしていて、その後、パリに移っている。国籍は明示されていないが、フランス人かフランス系イタリア人だと思われる。それならば、Blanche はフランス語の女子名で、「ブランシュ」と発音される。blanche と小文字で始めると、「白い」という意味の形容詞 blanc「ブラン」の女性形になる。blanc に定冠詞 le をつけると、Le Blanc 「ルブラン」という姓ができあがる。ちなみに、Blanche のイタリア語形は Bianca 「ビアンカ」である。
 作者のモームはパリ生まれで、10歳の時にイギリスに移ったので、モームにとってはフランス語が第一言語であった。そうすると、モーム自身は Blanche を当然ながら、「ブランシュ」と読んだことだろう。
 原文にはフランス語の短文も頻出するので、訳者の行方昭夫氏もフランス語の知識があると考えるのが自然だろう。それなのに、なぜ「ブランチ」と表記したのだろうか。
 アルクのウェブサイト「英辞郎 on the WEB」で Blanche と入力したら、「人名 ブランチ 女」と出てきた。
 確かに英語読みすれば、「ブランチ」になる。フランス語の知識がなければ、そう読まれるだろう。Blanche というフランス語の女子名が英語圏にも取り入れられ、発音も英語風に「ブランチ」になって定着したのだろうか。それでも、やはりモームにとっては Blanche は「ブランシュ」だろう。まして、フランス人なら「ブランチ」などあり得ない。
 ちょっと目先を変えて、手元の新英和中辞典(研究社)に当たってみた。すると、blanche という語はなかったが、blanch という語があった。発音は「ブランチ」で、古期フランス語「白い」から、blank と同語源とあった。blanchが「ブランチ」なので、英語圏に渡った女子名 Blanche も「ブランチ」と発音されるようになったのだろうか。ちなみに、ブリーチ(bleach、「漂白剤」)は blanch の関連語だろう。
 「月と六ペンス」は映画・舞台・テレビドラマ化されているので、そこで Blanche がどう呼ばれているか確認したいものである。
 ところで、フランス語 Blanche のスペイン語形は Blanca「ブランカ」で、こちらもれっきとした女子名である。個人的にも Blanca という名の女性を知っている。
 Blanca の男性形は Blanco「ブランコ」だが、Blanco という個人名を持つ男性は知らない。ただし、姓として用いられ、日本でプレーしたプロ野球選手にもこの姓を持つ選手がいた。そういえば、White という姓の黒人選手もいた。中国や韓国にも「白」という姓がある。中国には「白」が男子名としても使われている。あの詩仙「李白」である。
 
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