スパニッシュ・オデッセイ

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マック・ザ・ナイフ

2024-02-24 11:37:59 | トリビア
 『マック・ザ・ナイフ』(邦題『匕首(あいくち)マック』)。物騒なタイトルである。歌詞も同様に物騒である。ボビー・ダーリンやエラ・フィッツジェラルド等、多くの歌手が歌っているが、歌詞は微妙に異なる。以下にエラ・フィッツジェラルド版の「マック・ザ・ナイフ Mack the Knife 歌詞の意味 和訳 ジャズ 」より引用する。

鮫はすごい歯を持ってる  その歯は真珠のように白く光る
まさにマックヒースが持ってた  鋭い刃のジャックナイフ
彼はそれを隠し持ってる 

鮫がその歯で噛みつくと  赤い波が広がり始める
マックヒースは洒落た手袋をして  一滴の赤い痕跡も残さない

歩道の上で  日曜の朝に
血まみれの犠牲者
曲がり角で誰かがこっそり逃げてる
あいつがマック・ザ・ナイフじゃないか?

川岸のタグボートから  セメント袋が降ろされてる
あのセメント袋とちょうど同じ重さ
中に隠れたマックが  町に戻ろうとしてるのかも

ルイ・ミラーの噂を聞いたか?  奴が姿を消したって
荒稼ぎした金をすべて引き出した後に 
マックヒースは船乗りみたいに過ごしてる
ウチの奴らが何か軽率にやらかしたのか?

ジェニー・ダイヴァー  スーキー・トードリ  ロッテ・レーニャ
ルーシー・ブラウン  ずらっとそろって
ついにあのマックが  町に戻って来た

 これはブレヒト作の『三文オペラ』の冒頭で殺人事件について歌われる歌である。歌うのは大道芸人である。
 ところで、『マック・ザ・ナイフ』はソニー・ロリンズの演奏バージョンでは『モリタート』というタイトルになっている。この「殺人事件を歌う大道芸人(艶歌師)」はドイツ語で Moritat と呼ばれているのである。この語は筆者の英和辞典には見当たらない。ラテン語に”Memento mori”(死を思え)という有名な警句がある。mori が「死」なので、Moritat の語源になっているのかもしれない。

 さて、歌詞について、2点、解説しよう。

 マックヒースは洒落た手袋をしているが、手袋には血の跡がついていないという。岩波文庫版『三文オペラ』によると、マックは真っ白のなめし革の手袋をしている。なめし革には撥水性に優れているものがあるようで、そのような手袋をしているので、血痕が残らないのであろう。

 ジェニー・ダイバー以下の人名について。ボビー・ダーリンのバージョンでは次の順に出てくる。
スーキー・トードリー(ジェニー・ダイバーを自宅にかくまう)
ジェニー・ダイバー(マックの愛人の一人。マックを裏切って居所を警察にたれ込む。演じた女優はロッテ・レーニャ)
ポリー・ピーチャム(乞食集団のボスの娘、マックの愛人)
ルーシー・ブラウン(警視総監タイガー・ブラウンの娘。マックの愛人。マックと警視総監は戦友で無二の親友)

 歌詞を見ると、マックは殺人鬼のように思えるが、実は、オペラの中ではマックはだれも殺していない。あらすじについては「ウィキペディア:三文オペラ」を参照されたい。ブレヒトのあとがきによると、マックは殺人を好まない。自分でも不必要な殺人は犯さないし、部下にもそう命令しているのである。
 
 さて、ポリー・ピーチャムを演じた女優ロッテ・レーニャは『三文オペラ』に曲を付けた作曲家クルト・ワイルと結婚、その後、離婚、そして、また結婚している。
 
 【クルト・ワイルとロッテ・レーニャ】
 
 【若き日のロッテ・レーニャ】
 若いころはなかなかの美貌である。その後、映画『007ロシアより愛を込めて』に出演、ソ連の女将校を演じている。
 
 【ソ連の女将校役のロッテ・レーニャ】